UAWの闘争の意義と米労働組合運動の高揚
~UAWはさらに雄大な闘争を構想~

(1)記録的な契約を獲得

 UAW(全米自動車労働組合)は、9月15日から10月30日までの6週間にわたってスタンド・アップ・ストライキを闘い抜き、記録的な勝利を勝ち取った。ストライキは最初の3工場、1万3000人から、最終的には9工場、38部品供給センターの4万5000人までに拡大した。 
 ① メディアで注目を浴びているのは賃上げ額の大きさである。「即時11%を含め4年半で25%」という額である。UAWも「過去22年間の賃上げの合計額より、今回の上げ幅の方が大きい」と誇示している。
 生産労働者の最高賃率は32.05ドルから42.60ドル(6390円。1ドル=150円で計算、以下同じ)となる。初任給は18.05ドルから28ドル(4200円)に上昇する。
 初任給から最高賃率に達するまでの期間も8年から3年に短縮される。
*最高賃率(top pay rate):アメリカは「ジョブ」で賃金が決まる。初任給から数年で最高額に達する。またアメリカでは単位時間あたりの金額で表現するため「賃率」と言う。
*米日の賃金水準:米のインフレ率は2022年8%、今年9月の時点でも3.7%であり、その怒りを反映した賃上げ額である。しかしそれにしても日本の低賃金とは隔絶している。日本の賃金はOECD調査(2021年、購買力平価)で44カ国中24番目、労働時間の短さでは28番目、どちらもG7では最悪。時給で比べるととくに際立つ。
 ② だが団結という観点から、最も重要なのは「2層賃金」の廃止を勝ち取ったことだ。年金と退職者の医療保険における差別は残ったが、分断構造の基本は打ち砕いた。
 また勤続90日を超えたフルタイムの臨時労働者は直ちに正規労働者に転換される。派遣社員は9ヶ月後に正社員になり、その9ヶ月は最高賃率への期間にカウントされる。
 日本でも労働者の分断、とりわけ正規と非正規の間の「身分」格差は重大な問題だ。UAWに習って真正面から取り組むべきだ。
 ③ COLA(生計費調整手当)も復活した。
 ④ 401Kプランを確定給付型に戻すという要求は獲得できなかったが、会社は投入額を現在の賃金の6.4%から10%へ引き上げた。
 ⑤ EV(電気自動車)化に労働組合が影響を及ぼす道を切り開いた。ビッグ3(GM、フォード、ステランティス)すべてのEV工場を基本協定の下に置く約束を勝ち取ったのだ。
 ⑥ われわれが注目していた「32時間労働を40時間の賃金で!」という要求は実現しなかった。この要求は次の契約での最大の課題となるであろう。

(2)労働者の怒りと闘争のエネルギーはなお煮えたぎっている

 ① これほどの成果にもかかわらず、暫定合意に対する批准率は高くなかった。フォードとステランティスでは68%が賛成であったが、GMはわずか54.6%であった。
 第1層賃金の労働者の反対票が多かったようだ。分断の問題の複雑さだ。だが第2層の労働者の支持は圧倒的だ。今後の闘争の重要な牽引力となるであろう。
 また長年にわたる組合指導者の汚職に対する不信感も払拭されきっていない。新指導部になっても、一度の成果で労働者の不満が解消されるわけではないということのようだ。しかし、ショーン・フェイン指導部の新しい特徴は透明性と大胆さだ。暫定合意に達するまでは情報を漏らさないという従来の慣行を打ち破って、会長自らがフェイスブックライブを通じて交渉の最新情報を毎週放送した。指導部が現在のやり方をさらに発展させていけば、組合員との関係もさらに一体的になっていくであろう。
 ② 記録的な成果がビッグ3の「競争力」を衰退させるという批判に対しては、フェイン会長は「『競争力』という言葉は『底辺への競争』を意味するにすぎない」と一蹴した。現に、トヨタ、ホンダ等はただちに賃上げで追随した。UAWは労使協調によるおこぼれを期待するのではなく、経営との対決によって、労働者の連帯によって、闘い取ろうとしているのだ。
 UAWは勝利の勢いを組織拡大に向けた。フェイン会長はEV最大手のテスラ、日本のトヨタ、ホンダ、日産、スバル、韓国のヒュンダイ、ドイツのフォルクスワーゲン、メルセデス、BMW、等を名指しして組織化計画を打ち出した。

(3)2028年メーデーに向けて

 UAWは今回の契約期限を2028年4月30日とし、フェイン会長は、他の労働組合にも契約期限を揃えるよう呼びかけた。実現すれば、2028年5月1日からの新契約はゼネストを背景に闘われることになる。
 メーデーは、アメリカ・シカゴの労働者の闘争が起源であり、国際労働者協会(第2インターナショナル)結成総会が、1890年5月1日を、8時間労働制のための国際的な統一行動日として決定したことにはじまる。
 UAWは「32時間労働を40時間の賃金で!」を今回は勝ち取れなかったが、全米的、全世界的闘争で、再度、挑戦しようとしているのだ。
 日本の自動車総連も連合もそのような呼びかけに応えることはおそらくないであろう。しかしUAWの大胆で壮大な呼びかけを空振りに終わらせてはならない。日本でもなんとか、呼応する動きを作り出していきたい。

(4)UAW、ガザでの「完全かつ恒久的な」停戦を要求

 UAWは経済面で歴史的な勝利をした後に、政治面でもガザでの停戦要求という注目すべき動きをした。現役40万人以上、退職者58万人を擁する有力組合の停戦要求は衝撃的だ。これまでは米郵便労働組合(APWU、20万人)が最大であった。
 アメリカのナショナルセンターAFL・CIOは、ハマスの「テロ」を非難し、イスラエルの虐殺には触れないというだけではない。下部から噴き出してくるガザ・ジェノサイド阻止の呼びかけを官僚主義的に抑圧してきた。ワシントン州オリンピアの中央労働評議会(TLM CLC)が、パレスチナ労働組合総連合の呼びかけに応えて停戦とパレスチナ連帯を決議した時、これに圧力をかけ決議を撤回させた。
 だがAFL・CIOの抑圧にもかかわらず停戦要求は続出した。シカゴ教職員組合(CTU)、スターバックス・ワーカーズ・ユナイテッド(SBWU)、ラトガース大学・ミシガン大学、ノースカロライナ大学・チャペルヒル大学・コロンビア大学・ニューヨーク大学などの教職員組合、米電気機械無線労働組合(UE)、国際画家連合(IUPAT)とアメリカ教師連盟(AFT)、全米食品商業労働者(UFCW)ローカル3000、等々。
 UAWの宣言を行ったマンシラ氏は次のように述べた。「私たちは即時かつ恒久的な停戦を求めている」「私たちは第二次世界大戦でファシズムに反対し、ベトナム戦争に反対し、アパルトヘイトの南アフリカに反対し、その闘いに労働組合の力を動員した」と。UAWの停戦要求はAFL・CIOを根底から揺さぶるであろう。

(5)全米における労働組合運動の復活

 ストライキ闘争による前進はUAWだけではない。2023年のストライキは1980年代以来最大となった。
 映画俳優組合、アメリカ・テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG・AFTRA)は、7月14日から11月9日まで続いた118日間のストライキによって、「画期的な成果」を獲得した。
 全米脚本家組合(WGA)も5月2日から9月27日まで148日間のストライキで、3年間の賃上げ、健康保険や年金への拠出拡大に加えて、「すべての脚本家に大きな利益と保護をもたらす異例な」合意を勝ち取った。
 看護師たちの組合も広範囲に闘いに立ち上がった。8万5000人のカイザー・パーマネンテ社の労働組合連合は3日間のストを打ち、4年契約で21%の昇級と23ドル(カリフォルニアでは25ドル)の最低賃金を獲得した。
 米国の労働組合運動は長い苦しい時期を経験してきた。組合員は大恐慌のさなか1930年代に急増し、 第二次世界大戦後の組合組織率は30%を超えていたが、1960年代から徐々に低下し始め、1980年代以降急激に落ち込んだ。2022年には過去最低の10.1%(日本は16.5%)であった。
 しかし今年に入って、米国の労働組合運動は大底を脱し、ダイナミックに飛躍しようとしている。 現時点で見ると米国の労働組合運動が数十年にわたって低迷してきたというのは不思議に思えるほどだ。しかしこの転換には、フェイン氏が会長に選出されるまでの十数年に及ぶ長く苦しい闘い、日本では想像しがたいほどすさまじい弾圧の下でのアマゾンやスターバックス労働者の組合結成に向けての粘り強い闘い等々があった。
 日本では依然として労働組合運動は低迷しており、連合は闘わないというだけではなく、政府・自民党との協調の道をさらに強めている。だがこのような現状は、労働者大衆の生活のさらなる悪化、低賃金とインフレ、過酷な労働の現実と深刻に矛盾している。

 われわれは、米労働組合運動の復活の歴史に学びながら、足元から組合運動の拡大と強化を追求していきたい。

(石河)

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