【教科書運動】育鵬社(歴史・公民)、日本教科書(道徳)NO!
小学校採択状況と来年の中学校採択に向けた課題


今年、全国の市町村教育委員会で2024年度から使用される小学校教科書採択が行われた。教科書採択は、教科書検定によって国家による統制を受けた教科書を、各地の教育委員会が独自に採択していくものである。領土問題や歴史認識、安全保障の分野での国家統制は強いが、教科書会社の努力により濃淡はある。教科書運動は、教科書検定基準の問題点を指摘しながら、教科書内容の改善を求め「よりよい教科書」の採択を求めてきた。
 教科書採択は、教育委員会の採択権限や首長の関与が強められているものの、地方分権のもとで行われる。全国的な政治状況が厳しくとも地元の市民運動や教職員運動が関与し、影響力を発揮することができる。
 今年の小学校採択での教科書運動は、①小学校教科書の内容を分析し、「人権・平和・共生」の教科書を採択するように働きかけるだけでなく、②教科書採択制度を検証し、透明で公正な教科書採択になるように働きかけた。③それは来年の中学校採択で、「育鵬社」・「日本教科書」を一掃するための前哨戦であった。

市民運動が力を発揮した大阪での採択

 大阪での教科書運動は、社会科と道徳科の教科書採択に注目した。社会は3社が出版している。3社とも領土問題で政府見解を一方的に記載したり、自衛隊の活動を美化したりと、強く政権の影響を受けている。「東京書籍」は、天皇の役割を強調し、憲法9条1項、2項を掲載していない。福島原発事故は「復興」に重点を置いていて、最も政権に迎合的であった。「教育出版」は、改憲・沖縄基地・原発について賛否両方の意見を掲載し、かろうじてバランスをとっており、「よりましな」教科書となっている。大阪では、各出版社の教科書内容を分析し、教科書展示会での市民アンケートを呼びかけた結果、「教育出版」の採択が増え、「東京書籍」の採択が減った。運動の一定の成果であった。
 道徳は6社が出版しており、いずれも自己犠牲を美化する教材が多いが、愛国主義的な教材や偉人伝が減った。活躍するアスリートを美化する教材も若干減った。教科書運動が問題教材とした「星野君の二塁打」なども姿を消した。大阪では、最も人権教材が多い「光村図書」が採択を伸ばし、礼儀へのこだわりを強調する「教育出版」の採択はなかった。
 教科書運動は、各市町村教委への要請行動を行ったり、市民へ教科書展示会に行くように呼びかけたりしてきた。地道な取り組みだが、着実に前進することができた。

教科書採択の透明化・民主化を要求

 2020年中学校採択時に文部科学省が行った「採択関係状況調査」によれば、採択の教育委員会議事録を公表していない市町村教委が約20%存在することが明らかとなった。選定委員会「答申」の多くが各社の特長だけを示すものとなっている中では、教育委員会内での審議経過がわからないと、どのような理由で教科書を採択したのか全くわからない。教育委員会議の議事録公表は、採択の公正性を確保するために最低限必要である。石川県金沢市では、今年の採択で市民の公開を求める声を無視して非公開で採択会議を行った。加賀市でも教育委員の審議を非公開とし、投票と結果しか公開しなかった。金沢市や加賀市は、現在「育鵬社」中学校教科書を採択していることから、来年の中学校採択で秘密裏に「育鵬社」を採択するための布石ではないかと思われる。警戒が必要である。
 大阪では、2005年の中学校採択から大阪府内全ての市町村教育委員会に採択過程の民主化・透明化を求める要望とアンケート(以下、「アンケート」)を継続してきた。今年の小学校採択においても「アンケート」を行い30市町村(全体の約70%)から回答をえた。20年近く続く取り組みの中で、採択の教育委員会議は全て公開され、議事録も作成されるようになった。
 ただ回答を得た市町村の中で、河南町、高石市、田尻町、岬町の4市町で発言者名が明記されていなかった。採択に責任を負う教育委員が名前を明らかにして発言することは当然のことである。
 大阪では、次の課題として選定委員会の議事録の作成と公開を求めている。「アンケート」の結果、発言者名入りの議事録を作成している(6市町村)、発言者名のない議事録を作成している(12市町村)、大まかなメモを作成している(4市町村)、何も作成していない(5市町村)、選定委員会答申を議事録代わりにしている(1市町村)となった。教育委員会によって温度差のある結果となった。この秋から来年の中学校採択に向けて、選定委員会の議事録について要望を続けていきたいと考えている。

来年は大阪・全国で育鵬社・日本教科書の採択をゼロに!

(1)2020年教科書運動は、中学校教科書採択で育鵬社を歴史で約1%、公民で約0・5%のシェアに追い込んだ。「育鵬社」は大惨敗であった。「育鵬社」を推進してきた日本教育再生機構も機能停止状態が続いている。しかし油断はできない。安倍政権下で制度化された首長による教育長の任命、首長の教育委員会への介入、学習指導要領と政府見解を書き込むことを義務化した教科書検定基準の改悪など、教科書と採択に政治介入する仕組みは、厳然として残っている。今、運動を緩めるならば、育鵬社を復活させてしまいかねない状況は続いている。来年の中学校採択の課題は、「育鵬社」を完全に教科書から放逐することだ。

①大阪では泉佐野市での「育鵬社」(公民)の不採択が最重要の課題である。しかし、泉佐野市教育委員会の状況は、2020年当時と何ら変わっていない。6名の教育委員の内、「育鵬社」(公民)を支持した4名の教育委員は、来年の採択にも参加することが決まっている。2020年に教科書運動が提出した「要望書」を教育委員に見せなかった教育長も在任中である。他方で、「育鵬社」(公民)を批判した2名の教育委員はすでに退任している。教育再生首長会議の幹事を務める千代松市長も変わっていない。市長と教育委員会内部の力関係は圧倒的に不利である。市民運動が外から圧力をかけていく以外にない。地元の市民運動とも連携し、運動を強めていきたい。

②2020年に不採択に追い込んだ地域でも警戒が必要だ。2020年、大阪市は現場教員の学校調査を尊重する制度に変更させ「育鵬社」を不採択に追い込んだ。しかし、今年の小学校採択で見過ごせない変化があった。教科書の調査研究を行う基準となる「選定基準」が大阪市教育振興基本計画と完全に一致させられたことである。大阪市教育振興基本計画は、市長主導の総合教育会議で策定され、政治的な影響を強く受けるものである。今回の「選定基準」の中には、「地域社会に対する誇りと愛情、地域社会の一員としての自覚、我が国の国土と歴史に対する愛情、我が国の将来を担う国民としての自覚、世界の国々の人々と共に生きることの大切さについての自覚などを養う」ことが設定されており大問題である。
 また、学校調査を丁寧に集めていることに変わりないが、選定委員会で学校調査を軽視する傾向が出始めている。学校調査で1位となった教科書を採択しなかったケースが全体の25~30%にものぼる。今後、採択過程の情報公開を徹底して行い、不自然な議論がないかどうか、検証していきたい。

③大阪では、引き続き首長の教育介入を警戒する必要がある。今年の首長選挙を通して21市町村(全43市町村)で「維新」が首長となった。「維新」首長の多くは、教育委員会を硬直的な組織として攻撃し、政治介入し支持を集めてきた。安倍元首相が「育鵬社」採択を首長主導で進めようとした教育再生首長会議にも9名の首長(泉大津市、枚方市、泉佐野市、大東市、和泉市、門真市、東大阪市、箕面市、岸和田市)が参加している。岸田政権になって「育鵬社」採択を進める動きは見えにくいが警戒は必要である。参政党の母体となった龍馬プロジェクト(国会議員参与:神谷宗幣、杉田水脈)も一定の影響力を持っている。泉佐野市、泉大津市、四條畷市の首長が参加している。大阪府内はどの地域も「維新」や右派の動きを監視する必要がある。

(2)道徳科では、「日本教科書」(日本会議系)を全国でゼロ採択に追い込むことが最大の課題である。歴史・公民で窮地に陥る「育鵬社」が道徳教科書を発行できなくなった中で、日本教育再生機構の八木秀次がすがりついたのが「日本教科書」(嫌韓本を出している晋遊社の事実上の子会社)であった。2020年には八木らが「日本教科書」の採択を教育再生首長会議を通じて推し進めたが、結果的に採択されたのは栃木県大田原市、石川県小松市、加賀市の3採択地区のみで、全国採択率は0・6%であった。来年は何としてもゼロにしていかなければならない。
 「日本教科書」を推奨しているのがモラロジー道徳教育財団(理事長は日本会議の役員、関連法人に麗澤大学)である。同財団は、全国各地で教育委員会から後援を取り付けた教員向け道徳教育研究会を実施してきた。開催場所は、コロナ拡大の影響もあり、2019年(82カ所)をピークに減少し、2022年には55カ所まで減った。しかし、今年64カ所(ピークの78%)にまで復活してきた。大阪では、大阪市住之江区、東淀川区、天王寺区と堺市で実施している。学校・教員への浸透を警戒する必要がある。


(教員G)

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