9月15日に突入したUAWのストライキは、全世界注視の中で今月6日、4週目に入った。今後4年間の契約をめぐる、自動車大手3社、いわゆるビッグ3(GM、フォード、ステランティス)との闘いだ。6日午後、長はUAW会長はフェースブックライブで、交渉の「大きな前進」と「誰もが考えていた以上の前進」を発表し、勝利への確信を表明した。ストライキについては、計画していた拡大は取りやめたが、さらに継続する。日本のメディアはUAWが法外な要求をしているかのように報道している。しかし最新の世論調査では、米国民の78%が支持している。 (2023.10.7)
1 労資の全面的な対決
UAWの今回の闘争の特徴は、全面的な歴史的な対決だという点だ。
(1)闘争の原動力は労働者階級の貧困化・分断と資本の強欲への怒り
労働者の最大の怒りは2007年に導入された2層賃金制度に向けられている。それ以前に採用されていた労働者の時給は約28ドルから始まっていたが、それを第1層とし、2007年以降採用の労働者を第2層として16ドルから19ドルで始めるという制度だ。この第2層の賃金は組合のない南部地域の自動車会社よりさらに低い。
*1ドル140円で、16ドルは2240円。物価水準を考慮するにしても日本の賃金がいかに低いかを思い知らされる。
また2009年、政府はビッグ3を救済したとき、COLA(生活費調整手当)を廃止させた。これによって現在の物価高騰の中で、労働者の生活は一段と厳しくなった。
自動車労働者の実質賃金は、2008年から2023年7月までに19・3%も減少した。
しかも労働条件はきわめて過酷である。強制的な残業を含む1日12時間の労働。10分、10分、20分と非常に短い休憩。トイレに駆け込む時間さえほとんどない。そして第3日曜日の義務的労働、等々。
他方で、3社の利益はこの10年間で2500億ドル(35兆円)、今年上半期だけで215億ドル。配当は今年に入って89億ドル、自社株買いはこの1年で50億ドルに上る。
3社のCEO(最高経営責任者)の報酬は過去4年間で40%も上昇した。2022年は、GMで2900万ドル(40億円)近く、ステランティス2500万ドル、フォード2100万ドル。GMのCEOの報酬は従業員の中央値の362倍だ。
UAWの会長は怒りを込めて決意を表している。「企業の強欲に立ち向かう」。「労働者階級対億万長者階級」の闘争だ、と。
(2)UAWは真っ正面から闘争を挑んだ
UAWの要求は「大胆で野心的」だ。以下は一部である。
・最重要の要求は第2層の低い賃金と福利厚生水準の廃止。差別と分断の廃止だ。
・4年契約で40%の昇給。この4年間のCEOの報酬の増額に見合う額だ。
・10年間上がっていない退職者の年金引き上げ、退職者医療保険制度の改善。
・週32時間労働で40時間分の賃金を。
・病気休暇や休暇の日数を増やし、義務的な残業を廃止する。
・現在の 401Kプラン(確定拠出年金、リスクは労働者が負う)ではなく、以前の確定給付年金プラン。
・パートタイム労働者および契約労働者の制限。
・COLAの回復。
資本家は「特権的」な組織労働者が「特別な利益」を要求しているかのような印象を作り出そうとしている。しかし要求は決して特権的なものではない。
2 歴史的な対決に導いたUAWの劇的な変化
(1)スタンド・アップ・ストライキ
今回の闘争の真っ先に目につく特徴は、ストライキのやり方だ。UAWは、これまでは交渉対象を1社に絞っており、3社同時にストをするのは歴史上はじめてだ。
しかも今回は「スタンド・アップ・ストライキ」である。UAWのホームページは、これで埋め尽くされている。「新しいアプローチ」として誇示している。直訳すれば「立ち上がれストライキ」、日本的に言えば「拠点スト」だ。しかしもっと攻勢的で柔軟な戦術だ。時間経過とともにスト拠点を拡大する。経営側が譲歩すれば縮小し、妥協を拒めば最後は全面ストを射程に入れる。現に真っ先に譲歩案を示したステランティス以外の2社でストを拡大している。
UAWは約39万人、ビッグ3で約15万人である。この15万人全員がストに入れば闘争資金は3ヶ月足らずで枯渇する。だが今回のスト参加は約1万3000人なので、急速に拡大していくとしても2年以上もつ。現在は約2万5000人だ。左派の一部は全労働者が闘うべきだと主張するが、この方式には指導部の勝利への決意と執念が現れている。
*経営者はスト参加者の賃金をカットする。UAWはストライキ基金から一人あたり週500ドルを補填する。
しかしビッグ3はストに耐えられるだけの資金を十二分に溜め込んでいる。
また、契約は9月14日に期限切れだ。UAWは、古い契約が継続し労働法で保護されると主張している。だがフォードとGMはストをしていない労働者数千人を一時解雇した。さらにフォードは非組合員の労働者600人を一時解雇した。UAWはこれに対し非組合員にも組合員と同様の支援を行うことを約束した。
(2)UAWの転換。古いビズネス・ユニオニズムから脱皮へ
UAWの戦闘的組合への劇的な変化は今年3月、ショーン・フェイン氏が誰もの予想を覆して現職に僅差で勝利してからだ。これは初めての直接選挙であった。
フェイン氏の勝利への道のりはきわめて厳しかった。彼は、2007年、2層賃金を導入する協定に反対した。評議会の会合でも反対の発言を続け、何度も排除された。2019年、フェイン氏ら少数の活動家グループは、旧指導部の汚職を契機に「民主主義のための全労働者団結(UAWD)」を立ち上げ、猛然と活動した。
フェイン氏の会長就任とUAWの本格的な闘争の開始は、アメリカ労働組合運動の1990年代の転換以来の発展が新しい段階に入ったのではないかと感じさせる。
1970年代までの中心は自動車産業、鉄鋼業等の製造業であった。その運動はビジネス・ユニオニズムと言われた。
そして2023年の今、古い組合運動の代表UAWが新しく生まれ変わった。これは、1990年代の転換の第2段階とでも言うべき変化の先駆けなのかもしれない。
3 最も困難で底深い階級的問題
(1)生産力の発展に伴う資本主義に固有の労働者の課題
UAWは、賃金だけでなく、気候危機対策としてのEV(電気自動車)化への対応も迫られている。EV化は、バッテリーのリサイクルなど問題は山積しているが避けられない。UAWは深刻な2つの課題に直面している。
第1は、EV化がエンジン車に比べて部品点数を大幅に削減し、必要労働者数を激減させることだ。フォードのCEOは「EV化で必要労働者数が40%減少する」と脅している。産業構造の根本的な変化、生産性の抜本的な向上に伴う階級間の不可避的な衝突にどう対抗するかは、資本主義の本質にかかわる課題だ。
UAWは「週32時間労働で40時間の賃金を!」というスローガンを出した。労働者の賃金はEVの店頭表示価格の6%にすぎない。労働者の犠牲ではなく、利益を減少させる方法で対応せよ、というのだ。階級的でラディカルで、革命的とも言える方針である。
問題は、全世界的な企業間競争の中で、ビッグ3をどこまで追い込めるかだ。
第2は、EV化を機会に、ビッグ3も南部の非組合州にEV用バッテリー工場を密かに建設していることだ。従来から日本を含む外資系工場は組合のない南部に進出し低賃金と過酷労働で米国内での販売を伸ばしてきたが、UAWはビッグ3には認めなかった。
しかも厄介なことに、来年の大統領選挙が絡んできた。自動車労働者が集中するミシガン州は代表的な接戦州(スイング・ステート)である。
バイデン大統領は、ピケの現場を訪問するというパフォーマンスを行ったが、ビッグ3の南部進出を支援している。だからUAWはいまだバイデン氏を支持していない。
トランプ氏は「完全なEV化」反対で保守的な労働者に取り入ろうとしているが、歴然と反UAWだ。
(2)UAWの偉大な闘争を支持しよう
UAWは歴史的な闘争に踏み出した。この闘争の成り行きは予断を許さない。
UAWの闘争には、NAFTA(北米自由貿易協定)で一体のメキシコ自動車労働者も連帯している。米国内のストライキは、脚本家組合、UPSの運転手が勝利し、スターバックスが継続し、新たにカイザー・パーマネンテの医療労働者が突入した。
われわれは、UAWの闘争を全面的に支持する。
(石)