【第105号主張】
福島第一原発放射能汚染水の海洋放出を即刻中止せよ!
汚染水問題を反中宣伝にすり替えるな!

[1] 「海洋放出ありき」で強行した 岸田政権の暴挙

(1) 岸田政権は10月5日、第2回目の福島第一原発汚染水の海洋放出を強行した。8月24日に汚染水放出に踏み切った政府・東電は、9月11日までの間に7800トンを放出した。紛れもなく放射能に汚染された汚染水の海洋放出であり、国際条約で禁じられている放射性廃棄物の海洋投棄であり、海洋汚染をもたらす環境破壊行為である。

 岸田政権とメディアは一体となって、「安全だ」「影響は軽微だ」の大宣伝を展開した。政府は、高市科学技術担当相がIAEA総会で「事実に基づかない発信をし、突出した輸入規制をとっているのは中国だけだ」と中国を名指しで批判、風評被害対策の増額、「福島応援」「魚を食べよう」キャンペーンなど、政府主導で安全宣伝と中国批判をエスカレートさせている。汚染水放出の反対者に対し「でたらめで非科学的だ」「薄める意味をなぜ理解できないのか」「中国を利するだけだ」といったバッシングの嵐が吹き荒れた。その最たるものが農水大臣の謝罪に至った「汚染水」の言葉狩りだった。

 「これ以上海を汚すな!」われわれは、すべての人類と生きとし生けるものすべての共有財産である海洋を大量の放射能で汚染し、取り返しのつかない被害を与える今回の海洋放出に反対し、直ちに中止することを求める。 

(2) 海洋放出は漁業者ら関係者への約束を裏切るものだ。福島県の漁業者と全国の漁業者は、海洋汚染が漁業に致命的な打撃を与えるとして反対した。「関係者の理解なしにいかなる処分もしない」との2015年の約束を平然と反故にしたことを厳しく批判している。2023年7月に福島県漁連を訪れた西村経産大臣に対し、野崎会長は「反対の立ち位置は変わらない」と述べた。「関係者」には水産物加工業者、旅館、ホテル、観光業や料理店なども含まれる。そればかりでなく、周辺住民や原発事故被害者、全国の多くの市民が「我々も関係者だ」と反対の声をあげている。福島県小名浜港での集会とデモ行進、全国一斉スタンディング、官邸前行動、政府・東電との交渉や地元説明会などを重ねた。国内だけでなく中国、韓国、太平洋島しょ諸国とアジア諸国の市民と政府など周辺諸国からも強い反対の声があがった。韓国野党と市民らは大規模な反対集会を行った。

 岸田首相は放出強行の3日前(8月21日)、全漁連との会談で「全責任を持って対応する」と述べた。いつまで首相でいられるか分からない岸田が「全責任を持つ」など出来るはずがない。いったい誰が、どのように責任を取り続けるというのか。無責任極まりない。

(3) 放射能(放射性物質)は毒物であり、環境から隔離し、封じ込め、安全に管理し、処理しなければならない。わざわざ隔離した放射能を意図的に海洋に投棄するなど許されるはずはない。ロンドン条約(廃棄物その他の投棄に関わる海洋汚染に関する条約)1996年議定書は、放射性廃棄物の海洋投棄を、低レベル放射性廃棄物を含めて全面的に禁止している。日本政府は、今回の放出はロンドン条約が禁じている船舶・人工海洋構築物からの投棄ではないと主張する。ロンドン条約1996年議定書は、船舶だけでなく「プラットフォームその他の人工海洋構築物から海洋へ故意に処分すること」を禁じている。東電が設置した海洋放出のための海底トンネル設備は「人工海洋構築物」そのものではないか。

(4) 政府・東電は、はじめから海洋放出ありきで事を進めた。隔離・管理の方策については検討すらしなかった。政府は2013年12月にタスクフォース、続けてALPS小委員会を設置し、汚染水の処分方法の検討を行ったが、驚くべきことに当初、検討対象の6つの処分案の中に長期保管案はなかった。2018年8月の説明公聴会で福島県漁連野崎会長が海洋放出に反対して長期保管を要求し、ようやく検討課題に加わった。しかし小委員会は、タンクを増設する余地は限定的、今後廃炉作業を進めていくために必要、との理由で長期保管案を退けた。原発周辺には7・8号機建設用の広大な土地があり、一方で廃炉作業は遅々として進んでいない。退ける理由はない。隔離の方策についても、市民団体や太平洋諸島フォーラムが委託した専門家パネルから、コンクリートやモルタル固化による埋設案が提案されていたが、小委員会は検討することなくこれを退けていた。

 汚染水は、冷却水が溶融炉心に触れることにより発生し、地下水の流れで増大する。早い時期から本格的な遮水壁により流入を止める方策が提案されていたが、政府・東電はこれを回避して凍土壁に固執した。だから未だに汚染水が発生し続けているのだ。

 岸田政権は、海洋放出案が最も長期間にわたりコストがかかることがわかっても、国内外の反対の声が予想を超えて広がっても、方針を変えることはなかった。デブリを取り出す廃炉作業を理由にするが、現実には、床に落ちたわずかなデブリを取り出すこともできない。こびりついた大量のデブリを取り出すなど絶望的であり、妄想以外の何ものでもない。岸田政権の暴走を許してはならない。

[2] 隔離・管理すべき毒物である 放射能放出の危険性

(1) 東電によれば30年以上にわたって毎年22兆ベクレルが放出される。現状でタンク中には総量860兆ベクレルものトリチウムが含まれる。実際にどれだけの年月かかるのか、どれだけの放射能が出ていくのか、全くわからない。破壊された原発の炉心にあった多種多様な放射能も同時に放出される。

 政府やメディアが「安全だ」「科学的だ」とする理屈はこうだ。ALPS(多核種除去装置)によってトリチウム以外の放射能は安全なレベルまで除去される、トリチウムは自然界にも存在しており放出の際には飲料水基準以下にまで薄める、だから汚染水ではない、安全な処理水なのだと。しかしこうした理屈こそでたらめで非科学的だ。科学的とする根拠にIAEA報告書も使われるが、IAEAはそもそも原子力推進機関である。海洋汚染について評価・判断する権限などなく、その立場にはない。そのIAEAでさえ、報告書の「前書き」で「処理水の放出は、日本政府による国家的決定で」「報告書はその方針を推奨するものでも指示するものでもない」と明言している。

(2) 政府は「トリチウムはほとんど無害」「人体への影響は無視できる」と宣伝し、トリチウムの危険性を無視して、海洋放出しても害がないかのように宣伝している。しかしこれは事実に反する。トリチウムはベータ線を放出する放射性物質であり毒物である。ノーベル物理学賞の小柴氏によると直接摂取すれば1mgで致死量に達する。トリチウムの総量860兆ベクレルは、ICRPの基準でさえ、1mSvの被ばくを1550万人に与える量だ。トリチウムは水素だ。水の形で自由に体内に入り、細胞の中で遺伝子などにベータ線で損傷を与える。有機結合トリチウムは生態半減期が長く、生態濃縮が指摘されている。

 政府やメディアは「トリチウムは自然界にも存在する」と宣伝する。しかし、それはトリチウム汚染に関わる根本的な事実を隠蔽し、海洋放出を正当化するためだけの主張だ。すでに自然界にあるトリチウムの大半は核実験や原発・再処理工場で人工的に作られ、汚染された結果だ。これ以上、日本政府・東電が意図的、追加的に海洋汚染することは断じて許されない。

(3) 放射能で問題となるのはトリチウムだけだとの宣伝も誤りだ。汚染水には60種類以上の放射性核種が含まれている。ALPSはトリチウム以外の放射能についてもすべてを除去することはできず、東電や政府の説明でも「告示濃度限度以下にする」というだけである。現状でタンクの約7割では、ALPSで処理した後でも告示濃度限度を超える汚染水が存在することを東電も認めている。東電は、こうしたものは再度の処理を行うとしているが、ALPSが順調に動く保証はない。仮にALPSが順調に動いたとしても、告示濃度限度を超えない程度の放射能が取り切れずに残ることになる。

 告示濃度限度は安全基準ではない。核種ごとの放射能の規制値だが、濃度規制(1リットル当たりのベクレル数)なので、薄まりさえすれば放出できる。当然のことだが、いくら薄めても大量に放出すれば、総量としては大量の放射能を出すことになる。薄めればよいという考え方は根本的に間違っている。それに東電はタンク中の放射能の総量について詳細なデータを公表していない。主要7核種以外まで測定しているのは汚染水全体の3%だけ。測定すらしていないのだ。

 汚染水の中には、ストロンチウム90、セシウム137、ヨウ素129、プルトニウムといった危険な核種が含まれている。これらの核種の多くでは確実に生態濃縮が起こる。例えばストロンチウムは骨に蓄積して骨中の造血組織を傷つけ、白血病などを引き起こす。しかも極めて半減期が長い放射性核種が含まれ、長期の影響は予想できない。いくら薄めて放出しても、生物濃縮で数百、数千倍に濃縮されれば、人体への影響は否定できない。政府・東電は海水中の経年の放射性物質の蓄積を無視する。英国のセラフィールド再処理工場周辺では、海底からのフィードバック(放射能が海水中と海底を行き来しながら濃くなっていく現象)によって、放出量が大きく低下しても、プルトニウム等の濃度がわずかしか低下していないことが現に報告されている。危険性が軽視されているのだ。

[3] 中国バッシングで日本政府・東電の責任を隠ぺいするな

(1) 中国政府は放出が強行された8月24日から日本の水産物全面禁輸に踏み切った。日本政府はこれを「まったく想定していなかった」と慌て、「禁輸で被害を与えた」と中国に責任があるようにふるまった。「安全なものにケチ付けしている中国が悪い」とマスコミも中国バッシングを増幅させている。

中国は日本の水産物について、検査の厳格化、10都県からの禁輸、全面禁輸と、段階を踏んで措置を講じてきた。突然ではない。全面禁輸は予想されたことであり、自国民の安全を守るために当然の措置であった。

 香港は10都県の水産物を禁輸、マカオは10都県の水産物と農産物を禁輸、韓国政府は容認の姿勢を示すも8県の水産物などの禁輸を継続し検査を強化。南太平洋島しょ諸国、マーシャル諸島、ソロモン諸島など、核実験の被害を受けてきた国々が反対の意思を示している。マレーシア、タイ、台湾でも食品の監視検査を強化した。

(2) 中国の呉江浩駐日大使は8月28日、日本政府とメディアが「中国は非科学的」「正しい情報を発信すべき」とデタラメな中国叩きを繰り返していることに対し、「全世界の海洋環境と全人類の健康・安全に極めて大きなリスクと隠れた危険および予測できない危害をもたらし」ていると厳しく批判し、汚染水海洋放出の即時停止を要求した。その上で、以下の見解と質問を日本政府に突きつけた。①なぜトリチウム以外の放射性核種については言葉を濁すのか。核汚染水には60種余りの放射性核種が含まれている。大量の有害な核種が海に放出され、海洋の環境と人類の健康に予測できない危害をもたらす。②なぜ全面的で系統的な海洋環境モニタリングを行わないのか。放出されるすべての核種のモニタリングを行っておらず、モニタリングする海洋生物の種類が少ない。現在のモニタリング方法とデータだけで安全で無害だというのは科学的根拠がない。東電のデータ改ざん、ごまかし、虚偽報告を考えれば、そのデータの真実性と信頼度を疑うのは当然。③なぜ他の利害関係者が共に参加する国際モニタリングを拒否するのか。IAEAモニタリングの枠組みに他国や国際機構は現在参加していない。各利害関係者が参加する長期的モニタリングの仕組みを支持すべきだ。

 これに対して日本政府は、IAEAが評価している、権威を否定するなと繰り返すだけで、言い逃れに終始している。放射性核種の総量については言及さえしていない。岸田政権は中国の主張に誠実に応えるべきだ。われわれは中国の見解と要求を支持する。

[4] エスカレートする反中・嫌中プロパガンダに反撃しよう

(1) 汚染水放出をめぐる中国叩き、反中宣伝が執拗に繰り返されている。岸田政権とメデイアは、汚染水の危険性、政府・東電の責任を徹底的に押し隠し、それを批判する中国に責任転嫁し、加害者でありながら被害者であるかのように描き出し、あたかも日中間の外交問題であるかのように問題をすり替えた。そうすることで、日中関係に対立の火種を持ち込み、中国・アジア諸国との平和と平和共存ではなく、対立と緊張激化へと向かわせるきわめて危険な役割を果たしている。

 反中・嫌中プロパガンダは、岸田政権が、軍国主義的反動諸政策を推し進める最大のテコとして最大限活用しているものだ。政府・支配層はメディアと一体となって、事あるごとに「中国脅威論」「中国崩壊論」「習近平独裁論」を大々的に垂れ流し、情報操作を駆使して中国に対する憎悪、恐怖、蔑視、嫌悪、等々の差別的・排外主義的意識を人民大衆に刷り込むイデオロギー攻撃をエスカレートしている。現在の最大の中心点が「中国経済崩壊論」と、この汚染水問題だ。「非科学的」「政治的対応に終始」との反中宣伝のデタラメはすでに述べた通りだ。

 朝から晩まで、中国敵視宣伝が一方的に垂れ流され、批判言論が全く報じられないのは、常軌を逸している。それどころか、汚染水放出や対中軍備増強を批判する者に対して激しいバッシングが浴びせられる現状は、米国で吹き荒れる新たなマッカーシズム一歩手前の危険な状況だ。

(2) なぜ、中国敵視宣伝がこれほどまで執拗に繰り返されるのか?

 第1に、その根底に、日本をはるかに凌駕し発展する社会主義中国に対する支配層の階級的恐怖があるからだ。すでに中国のGDPは2010年に日本を上回り、現在では3倍を超える。単に経済的規模だけでなく、5Gや半導体、電気自動車、電池などのハイテク産業、科学技術力全体が世界をリードし始めている。「失われた30年」にあえぐ日本経済は停滞したままで、科学技術については中国の足元にも及ばなくなりつつある。中国の急速な台頭と多極化の新たな国際秩序の進展、日本の新植民地主義支配の危機が、政府・支配層の中に恐怖と危機感を生みだしているのだ。

 第2は、西側帝国主義諸国の中でも突出した日本の対中対決姿勢、敵基地攻撃能力や長距離攻撃ミサイル配備など沖縄・南西諸島を中心に日本列島全体を対中攻撃基地とする急速な軍備増強が、階級矛盾を先鋭化せずにはおかないからだ)。国内矛盾の激化を外に転嫁しようとするのは支配層の常套手段である。

 日本の対外政策、軍事・外交政策、汚染水放出と原発推進政策の全体が、中国に矛先を向けた総動員体制づくりという支配層の思惑で進められている。岸田政権と闘うためには、反中・嫌中プロパガンダをはね返すことが不可欠である。われわれは何よりも、ブルジョア・メディアのプリズムを通してではなく、中国の主張と実情を的確に把握しなければならない。その上で、反中宣伝のデタラメを暴き出し、徹底的に批判することがますます重要になってきている。

[5] 立ち上がる反対運動と結びついて放射能汚染水の放出をやめさせよう

(1) 岸田政権は再び原発推進へ舵を切った。行き詰まりを打破するために強引に動きだした。汚染水のなりふり構わない海洋放出はその最たるものだ。しかし、同時にそれは電力・原子力産業の資本の利害追求が、すでに目途がなくなった原発・核燃料サイクルにしがみつく不合理さを表し、先行きのなさ、末期症状を示している。そのため、中間貯蔵という核のゴミ捨て場探しに躍起になっている。むつに続き、山口県上関町でも中間貯蔵建設を強行しようとしている。

 「グリーン」と言いながら、CO2を大量に放出する石炭火力を温存・推進し、気候危機対策に逆行している。「グリーン」と言いながら、原発推進に舵を切り、放射能を大量に放出する汚染水放出に踏み切った。原発再稼働の推進。老朽原発の運転強行。再処理の推進。原発輸出の再度の試み。対中戦争準備と軌を一にした国家を挙げての強行だ。

(2) 再処理工場からの放射能放出の特段の危険性について指摘しなければならない。再処理工場からは、原発や福島第一原発の汚染水をはるかに上回る量のトリチウムが、薄めることもせずに海中に放出される。六ヶ所再処理工場が操業しフル稼働した場合、年間の放出量(管理目標値)は1京8000兆ベクレル、福島第一原発の汚染水にあるトリチウムの総量の十倍以上の規模にのぼる。六ヶ所再処理工場のアクティブ試験の際には、周辺の水産物から最大で通常の約60倍のトリチウムが検出されている。

トリチウムばかりではない。ヨウ素131が年1700億ベクレル、アルファ線核種が年38億ベクレル、その他核種が年2100億ベクレルといった具合だ。通常の原発や福島第一原発汚染水では設けられている濃度限度もない。やりたい放題だ。汚染水の放出を再処理工場での放出の露払いにしてはならない。六ヶ所再処理工場の操業を何としても阻止しよう。

(3) 日本の汚染水海洋放出に反対する声は広がっている。日本国内では福島県漁連、全国漁連が反対し続けている。政府は「風評被害」と称して一千億円をつぎ込んで漁民を黙らせようとしているが、漁民たちは生業と生活を奪われ深刻な打撃を受け、反対し続ける。海洋放出による環境破壊に反対し、放出の差し止めと損害賠償を求める集団裁判が開始された。全国での汚染土「再利用」に反対する動き、放射能ごみ焼却や汚染木を燃料とするバイオマス発電など、放射能ばらまきに反対する動きとも連携している。漁業者、危険を押し付けられる消費者の犠牲で東電への負担を減らすこと、海洋を放射能汚染することは許されない。国内外の反対運動と結びついて海洋放出の中止を要求しよう。裁判闘争を支援しよう。陸上保管の継続を要求しよう。

(4) 各地で汚染水の海洋放出中止の声を上げていこう。職場・地域で積極的に訴えていこう。福島第一原発事故が何もなかったかのように原発推進に転換すること許されない。気候危機を口実にした原発依存の強化は許せない。原発・核燃料サイクル路線の放棄、原発の停止、再生可能エネルギーへの転換を要求しよう。危険な老朽原発を止めよう。使用済燃料の中間貯蔵・乾式貯蔵に反対しよう。上関での中間貯蔵に反対しよう。むつ中間貯蔵の操業を止めよう。避難計画に実効性がないことを明らかにしよう。原発再稼働を止め、脱原発に舵を切ろう。

2023年10月8日『コミュニスト・デモクラット』編集局

 

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