今年4月26日、中国第十四期全国人民代表大会は「改正反スパイ法(新修訂反間諜法)」を可決し、さらに6月28日には、全人代常務委員会第3回会議が「対外関係法」を通過させた。両法とも7月1日から施行された。
これをきっかけに、日本のメディアは一斉に、「恣意的に運用される」「日本人を含む外国人の拘束が増える」「いつ捕まるか分からない」「習近平が独裁強化を図っている」などと騒ぎ立て、「監視国家」「強権国家」という大々的な中国敵視宣伝を繰り返している。
中国は何故この期に、新たな反スパイ法と対外関係法を施行したのか? それは何よりも、米国を先頭とする日本を含む西側帝国主義諸国が、中国を戦略敵として中国包囲を強化し、それと連動して中国に対するあらゆる分野でのスパイ・諜報活動、国家分裂策動、潜入・妨害策動、イデオロギー操作等々の反中国活動をエスカレートさせているからである。問題を作り出しているのは中国ではなく、西側帝国主義であることをおさえておく必要がある。
「反スパイ法」プロパガンダ――「スパイ行為の対象が曖昧」のデタラメ
日米の新聞・各種メディアは、「反スパイ法」第四条(三)に加えられた「その他の国家の安全と利益に関わる文書、データ、資料、物品を窃取、偵察、買収あるいは不法に提供する」を取り上げ、「国家の安全と利益」の定義がなく適用範囲が曖昧、「国家安全」のベースとなる「総体国家安全観」も「広汎で抽象的」だと批判を浴びせる。中国の関連当局による一方的解釈により、国内外の人間が理由もなく摘発される、「日本人狩り」が起きる、「要職者と交流する場合に用心が必要だ」、国民も厳しく監視する「異様な警察国家」だと、センセーショナルに反中・嫌中を煽り立てるのだ。だが、改正反スパイ法には、スパイ活動の境界の精緻化と濫用防止システム、濫用や不正行為に対する市民が報告する権利の保証、スパイ防止を装った市民の利益侵害の通報システムなど、恣意的適用を許さない一連の措置が盛り込まれている。あくまでも巧妙化するスパイ活動、広範な分野、多様な手段で高度化する諜報活動に警告を発し、全人民の力でこれを阻止するためのものなのである。このことを西側メディアは決して報じない。
今年4月毎日新聞出版が「中国拘束2279日 スパイにされた親中派日本人の記録」を出版した。これは中国当局に理由もなくスパイとして6年間も拘束されたと訴える「親中派」の人物、鈴木英司氏の著作である。氏は自らの無実を訴え、交流のあった中国の有り様を嘆くのだが、経過を読むと、氏が日本の公安調査庁の複数の人物と交流があったことが認められる。別の情報によれば金銭の授受もあったようだ。驚くべきは、氏が公安調査庁は断じてスパイ機関などではないと主張することだ。語るに落ちるとはこのことだ。明らかなのは、この本も反中・嫌中プロパガンダの一環だということだろう。
日米欧メディアは続けて「反スパイ法は中国離れを広げるだけ」、「日本も中国との経済活動をいよいよ再考するとき」と主張し、このままでは「中国から他国に事業・生産拠点を移す動きが加速しかねない」などと経済活動の打ち切りまで示唆し、いわば経済的「恫喝」を、中国にかけるに至っている。
「対外関係法」プロパガンダ――「習近平体制強化の法律」というウソ
メディアによる「対外関係法」批判は、この法律が、外交政策でも党による統制を強化するもの、習近平を絶対視する法律だ、というものだ。相当ピントのずれたものである。「対外関係法」は、米をはじめとする帝国主義が対中戦争準備を進め、中国敵視と国家分裂策動を強める中で、平和的発展と相互協力、ウィンウィンの国際協力を進めるための法的根拠を固めるためのものである。その目的は、「多国間貿易体制を守り、一国主義と保護主義に反対し、開放型世界経済の建設を推進する」と本文で明記している。
迂回を避けて言えば、両法は、ことに米国諜報機関(CIA)や、米国諜報機関・国家機関をその背後に持つ各種NGOを装った実質的なスパイ機関(その代表例は、NED[全米民主主義基金])の中国国内での活動を阻止し、さらにそれらに煽動されて起こる中国での「カラー革命」を阻止すること、それを土台に平和共存と相互協力に基づく新たな国際秩序を作り上げていくという、明確な意図を持って制定された法律だということだ。
中国で「カラー革命」を扇動してきたNED
NEDは1983年、当時のレーガン大統領を中心とするネオコンが超党派の非営利機関として設立した。「海外の民主化支援を行うNED」というのが名目だが、その財源のほとんどは米国政府が拠出し、米国政府の指示を受けて活動している。要するにNEDは、米国の資金援助によって世界中のNGOを操り、米国の意に沿わない反米国家、親米的でない国々を転覆させるために「米国の価値観」を輸出し、多様な分野で諜報活動、破壊工作を展開し、「民主化運動」を煽動してきた米国政府の手先なのである。
ソ連邦の崩壊、グルジアのバラ革命、ウクライナのオレンジ革命、「アラブの春」など、米国が煽動し画策した「カラー革命」はすべて、NEDが関わっている。そればかりか、中央アジア諸国も中国も、そしてボリビアやベネズエラ、キューバなどラ米・カリブ諸国も、皆その介入と干渉を受けている。
大事なところなのでいくつかの例を紹介したい。
まず、新疆ウイグル。2004年から2020年の間、多くのウイグル人組織に、実に875万3000ドルの資金提供をしたとNED自身が主張している。いわゆる「人権危機」に関しての、西側諸国と協力しての提供だ。2020年だけでも新疆独立勢力に124万ドルを提供した。当時のガーシュマンNED会長は、新疆ウイグル自治区問題解決のため「中国でカラー革命を起こし、政権交代で連邦共和制に変える」と公然と主張していた。NEDの新疆関連プログラムは、新疆ウイグル自治区の「人権危機」を煽ることに集中しており、「世界ウイグル会議」や「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」などの組織を支援し、「ジェノサイド」や「再教育収容所」といったデマ情報を発信している。
また香港では、20世紀末以来のNEDの暗躍がある。「香港独立」を公言してはばからない。2014年9月の「雨傘革命」をはじめ、香港のほとんどすべての街頭デモの背後にNEDがいた。2019年逃亡犯条例改正案反対デモでは、NEDは舞台裏から前に出て活動の代表者と直接接触し、デモの活動家に補助金、訓練を提供した。2016年には香港独立運動に参加した人々の、ハーバード大学やオックスフォード大学への留学を支援している。
NEDは新疆、香港以外にも、さまざまな形で中国に介入・干渉している。2017年には、「権威主義国家」「シャープパワー」なる概念を作り出し、「中国とロシアが長年にわたり資金提供して外国の世論に影響を与えてきた」と新たな「中国脅威論」を喧伝し始めた。偽情報を作り出し、反政府的な物語をねつ造することが常套手段である。さらに「国境なき記者団」に資金提供をし、長年にわたり「中国メディアを他国のメディアと区別すべき」と発信するように支援した。また、定期的に「チベット青年協会」「世界ウイグル代表大会」などにおけるチベット独立、新疆ウイグル独立運動団体へ資金提供している。
新型コロナで、「意図的にウイルスを輸出している」などといった風説を流布したのもNEDである。2022年11月26日から28日にかけて中国でほぼ同時に起きた反ゼロコロナ抗議デモ、いわゆる「白紙革命」の背後にもNEDが存在した。背後で動いていた組織は「全国解封戦時総指揮中心」(全国封鎖解除 戦時総指揮センター)で、その正体は直接ニューヨークで活躍しているNEDと香港を結んでいる拠点であった。
「台湾独立」を唆し、軍事行動を引き起こすことを狙う危険な策動
米国政府がNEDを利用して「台湾独立」を唆し、そこから中国との軍事衝突まで引き出そうと挑発を繰り返しているのも明白だ。NEDは、「台湾有事」策動の張本人と言っても過言ではない。
2019年6月3日、NEDは「中国の抑圧モデル」をテーマにした会議を開き、「中国の抑圧モデル」が新世代技術を通じて「西側民主主義システムを浸食している」と主張した。同年12月10日には、蔡英文が「台湾民主基金会」の式典でNED会長に「大綬景星勲章」を授与し、台湾民進党とNEDとの極めて深い関係を見せつけた。2022年3月27日から30日にかけてNED会長が台湾を訪問し、「台湾民主基金会」と協力して、2022年10月に台北で「世界民主運動」を開催し、「台湾独立運動」を支援すると明言した。
ここまで来ればNEDが、台湾住民に反中・嫌中意識を植え付け、中国本土からの分離・独立を唆した上で、台湾独立阻止の中国の軍事行動を挑発して引き起こさせ、米国を中心とした日本・韓国・フィリピンによる中国への軍事行動を正当化するために暗躍していることはもはや明白ではないか。
米欧日と体制を異にし、米の価値観を良しとしない政権・体制の「平和的転覆」を図るNEDを中心とする公然、非公然のスパイ諸組織が暗躍する中で、これを阻止する、さらに諸外国の制裁、干渉を阻止する諸法制を整備するのは国家として当然のことではないだろうか。
(MK)