「資格確認書」に騙されてはならない
岸田首相は8月4日、苦し紛れに「資格確認書」の自動交付という方針を打ち出した。野党や国民の大多数から批判されている24年秋に健康保険証を廃止する方針を撤回しなかった。廃止延期も明言せず、あくまでも強行突破する構えだ。しかし、健康保険証廃止の撤回・延期を求める声が7割を超え、内閣支持率が急落(支持28%、不支持65%、毎日新聞ほか)している。この問題は岸田政権の最大の弱点だ。健康保険証廃止阻止を掲げて労働組合や地域で岸田政権を追い詰めていこう。
この「資格確認書」もクセ球だ。あくまでも現行の保険証を廃止することが前提となる。一旦現行の保険証を廃止してしまえば、ほとぼりが覚めた時に政府はいつでも「マイナ保険証」に変更できる。典型的な騙しのテクニックだ。われわれは「資格確認書」にも反対だ。
健康保険証の廃止は、昨年10月に河野デジタル相が突如打ち出した。2兆円という前代未聞の「ばらまき政策」(マイナポイント)をとってもなお、「22年度中のほぼ全住民へのマイナンバーカード交付」という目標が達成できない。焦った政府が、一挙に挽回するためにとったのがこの健康保険証廃止だ。法律上「任意」であるマイナンバーカードが突如「強制」になった。断じて許すことはできない。
健康保険証廃止強行方針で、医療現場は深刻な事態に
岸田政権は、保険証の全面廃止とマイナカードを持たない保険者を保険保健医療制度から排除しかねない挙に出ている。しかし健康保険証の廃止自体が、国民皆保険制度の根幹を揺るがす重大問題だ。
現行の保険証で何の問題もなかったのに、医療現場を大混乱させている。マイナンバーカードで本人確認ができない、顔認証ができない、暗証番号を忘れた、いったん窓口で10割を負担させる、別人の病歴や投薬履歴が出てくる等々。従来の健康保険証を持参することが推奨されている。介護施設では要介護者の本人確認の問題があり、会話不能や意識不明の重症者は?、高熱の子どもの付き添いの親は?、本人にかわって家族が薬だけをもらいにくる場合は?、医師の往診時は?、等々初歩的な部分で、医療現場の実態とかけ離れていることが次々と指摘されている。大地震や大規模災害、通信障害や機器不良による確認不可も当然出てくる。
7月時点でマイナンバーカードに保険証利用登録(「マイナ保険証」)をした人は約6500万人で全人口の52%、つまり約半分である。現在の方針に従えば、保険事業者は登録者と非登録者を区別し、非登録者に対してのみ「資格確認書」を発行・配布するという膨大な事務を抱えることになる。実務的に見ても登録・非登録にかかわらず現行の「健康保険証」をそのまま使えるようにするのが現実的だろう。「マイナ保険証」を持っているほうが、前記のようなリスクが高まるのである。健康保険証の廃止方針を撤回するしかない。
政府・財界の狙いと全貌を明らかにしよう
なぜ、政府はこれほど急ぐのか。マイナンバー制度の目的と全体像は何なのか。その全貌を暴く必要がある。彼らの目的は2つだ。第1に、住民一人ひとりを「プロファイル」(諸個人の情報や経歴を全て集約)して掌握・管理し、そのデータを増税、医療や介護など社会保障費の削減、教育・労働・軍事等の反動政策に利用すること、第2に、それらを財界・独占資本の新たな市場、新たな利潤追求に利用することである。経済同友会代表幹事の新浪は「廃止の期限を守れ」と岸田に要求した。
もう少し具体的に見てみよう。国民が全く知らないところで、政府・財界が、聞こえの良い「デジタル社会」「ITイノベーション社会」の名の下に、とんでもない「監視社会」構想を推し進めているのだ。すでに官民一体の巨大プロジェクトとその実現の道筋(「統合イノベーション戦略(内閣府)」と首相をトップとする推進機関「CSTI(総合科学技術イノベーション会議)」等)が立てられている。マイナンバー制度と全住民情報のマイナンバーカードへの紐づけはその軸である。
政府は今年6月9日に、以下の個人情報とマイナンバーカードとの一体化を加速する重点計画を閣議決定している。一部自治体での母子手帳との一体化(2023年度中)、運転免許証ICチップ情報との一体化(24年度末まで)、カードと生体認証(顔・指紋等)との紐付け、教育データ)との紐付けなどだ。
しかし、構想の全体は10年前の13年に始まっていた。デジタル庁の前身ともいえるIT総合戦略本部が作成したものだ。マイナンバーカードを軸に16年には国家公務員の身分証、民間企業の社員証、住民票や印鑑登録等のコンビニ交付、17年にはマイナポータルシステムを構築することで、税、社会保険料の納付、年金支給等の一体化、18年には運転免許証、医師免許証、教員免許証、学歴証明(卒業証書)、健康保険証との一体化、そして19年にはほぼすべての住民がマイナンバーカードを保有する社会の実現を展望した。並行してマイナンバーカードのIICチップを民間にも広く開放し、資格試験や入学試験等への活用、興行チケットの販売、デビッドカード、キャッシュカード、ポイントカード、診察券とも一体化し、官民合わせてマイナンバーカード一枚で生活にかかわるすべてのことができ、個人情報のすべてが一枚のカードに蓄積、引き出しができるという社会を描いている。すなわち住民一人ひとりの個人情報をかき集めて、プロファイルして掌握・管理するという壮大な計画である。ターゲットを絞れば、リアルタイムでその人物の言動を監視することもできる。空恐ろしいものだ。
これらがすべて強行されれば、住民はマイナンバーカードを身分証として常時携帯することを事実上義務化され、文字通り、赤ちゃんがお腹にいるときから、その先天性障がいの有無や出生地、予防接種の状況、入学以来の成績、高校や大学の学歴、卒業と就職、生活圏や交通機関の利用状況、収入と納税、動産・不動産の売買、いっさいの銀行口座開設、健康診断、通院や投薬、保有資産状況や相続、年金受給までがすべてマイナンバーカードを通じて記録され、個人は丸裸にされてしまう。そして自分に関する情報をすべて一枚のカードに入れて絶えず持ち歩いているというリスクを負うことになる。
マイナンバー制度は戦争する国づくりの一環
それだけではない。政府・支配層が一体となった一人ひとりのプロファイル化は、情報管理による住民の思想や行動の分類化を可能にする。それは国策のための人民支配であり、国家と独占資本の利益を最優先にすることだ。人民大衆からの税金は余さず搾り取る一方、社会保障費は「最小限まで」削減する。住民の国家への貢献度を測り、国家・資本の役に立たない住民、抵抗する住民をあぶり出すシステムでもある。一人ひとりにかかる医療や教育のコストと労働力としての貢献度を測り、国家・資本にとっての「生産的人間」「非生産的人間」を判別し、「改善」を「自己責任」化すること(生き抜く力)やその「能力」を数値化することさえ構想されている。その内容は、「マイナポータル」「学習eポータル」等を通じて本人にも分かるようにし、「貧困は自己責任」「自分は社会のお荷物」などと思うように仕向けるのだ。
また「台湾有事」等情勢が緊迫した場合には、個人情報から戦争に反対する人々をあぶりだして未然に予防弾圧さえできる。同時に、戦争遂行に必要な人材、たとえば救急外来外科医、大型車両や船舶などの特殊免許、車両整備などの有資格者、それに健康状態や家庭環境・収入なども判断して、戦争遂行に最適な人材を選び出すことが可能になるだろう。これは形を変えたかつての在郷軍人名簿(市町村兵事記録)である。「兵事記録」は、本籍地、戸主名、本人と家族の職業・職階・学歴・専門知識と技能・財産・病歴・思想状況・信教・賞罰、健康状況の甲・乙・丙の等級、得意スポーツや近隣での評判まで記録されていた。マイナンバーカードに紐づけされる個人情報の巨大な集積は、戦前よりずっと精緻なものとなり、戦争動員(徴兵・徴用)の最も有効な道具となるであろう。
健康保険証廃止方針を撤回させ、マイナンバー制度を廃止させよう
あたかも日本の個人ID化が遅れているかのようなイメージがふりまかれているが、G7でIDカードと健康保険証を紐づけている国はない。プライバシー侵害の懸念や漏洩・窃盗の恐れがあるからだ。
我々は以下を要求する。まず第一に、国民皆保険制度を揺るがしかねない健康保険証廃止法を次期国会で破棄すること。第二に、マイナンバーカードと各種証明書、各種情報との紐づけをやめること。マイナンバーカードを廃止すること。第三に、マイナンバー制度そのものを廃止すること。
私たちは、マイナンバーカードを持たないことを呼びかける。すでに持っていたとしても健康保険証や運転免許証と紐づけないこと、紐づけた場合は解除すること、そしてカードの返納を呼びかけたい。
マイナンバーカードに個人情報を吸い上げられ、国と独占資本によって情報を握られ、マイナンバーカードなしでは生活できなくなってからでは遅い。マイナンバーカードを拒否しよう。制度としてマイナンバーカードの廃止、マイナンバー制度の廃止を求めよう。健康保険証廃止方針を撤回させよう。
2023年8月7日
『コミュニスト・デモクラット』編集局