自ら作り出した債務危機の責任を中国に転嫁
G7広島サミットを控えた今春以降、「途上国の債務問題の原因は中国」「一帯一路による借金漬けで利権を手にしている」という中国の「債務の罠」プロパガンダが再燃した。
イエレン米財務長官は3月の議会公聴会で、「中国が世界の国々に『債務のわな』を仕掛けている」と述べ、4月20日のジョンズ・ホプキンス大学の講演でも「中国は2国間融資の世界最大の債権国」「途上国債務問題解決の障壁」と公然と中国を批判した。G7広島サミットでは、フォン・デア・ライエンEU委員長が、中国の融資で途上国が債務危機に陥っていると中国非難を展開した。メディアも一斉に、中国が「助けるふり」をして途上国を借金漬けにして支配していると「中国の債務の罠」論を書き立てた。
だが、中国の投融資が途上国を債務危機に陥れたというのは、全く事実に反する。途上国の債務危機を作り出した原因は中国ではない。結論を先取りすれば、「債務の罠」で新興・途上諸国を苦しめてきたのは、IMF・世銀と金融資本、米と西側帝国主義の金融覇権体制である。要するに西側帝国主義とメディアは、新興・途上諸国に対して長年強いてきた借金漬け、自らが犯してきた罪状を並べ立てて中国に責任転嫁し、中国を非難しているのである。
「債務の罠」宣伝の最大の標的となっているスリランカを例に、中国の「債務の罠」が如何にデタラメなものであるか、途上国の債務危機の原因は何か、具体的に明らかにしたい。
「中国が最大の債権国」というウソ
スリランカは2017年以来、ハンバントタ港の運営権が中国に譲渡されたことから、中国「債務のわな」宣伝の格好の餌食にされてきた。さらに昨年4月、スリランカが債務不履行(デフォルト)を宣言したことで、その原因が中国の「不透明な融資」「債務の罠」だというデマに再び火がついた。
朝日新聞は、中国が「民間や国際機関を除いた最大の債権国」「港の運営権は中国へ」などと、あたかも「破産国家」を生みだした原因が中国であるかのように報じた(4月21日)。
スリランカ政府の統計によれば、2国間債務だけ見ると確かに中国が最大となる(図1)。しかし、対外債務全体を見れば、その最大部分は資本市場での調達(36%)であり、次いでアジア開発銀行や世界銀行など国際金融機関からの融資(27%)。中国からの債務は19%であり、決して最大の債権者ではない(図2)。そもそも対外債務の4割にも満たない2国間債務だけを取り出して論じること自体が間違っている。
ハンバントタ港の運営権を剥奪した、軍事基地化を狙っているというのも、憶測に基づく根拠のないデマだ。2017年、スリランカの対外債務は500億ドルを超えていたが、そのうち中国が所有していたのはわずか9%に過ぎない。スリランカが債務超過に陥ったため、政府は国際通貨基金(IMF)を通じて救済策を講じた。その頃、ハンバントタ港は経営不振で赤字が増大していたため、スリランカ政府は経験豊富な企業にリースし、その資金で債務を返済することにした。当時のマヒンダ・ラジャパクサ政権は、まずインドや日本の企業に声をかけたが、いずれも断られた。そこで、中国の国有企業チャイナ・マーチャンツ・ポーツ・ホールディングスと交渉し、11億2000万ドルで 港の99年の経営権を譲渡し、その資金を他の債務の返済に充てたのだ。しかも今回のデフォルトと全く関係ないばかりか2013年以前に契約されたものであり、『一帯一路』とも全く関係ない。中国の「債務の罠」として度々取り上げられるこの事例は中国を貶めるための使いふるされた神話なのである。コホナ在中国スリランカ大使は、「世界銀行やアジア開発銀行、西側関連機構の投資家が最大の債権者」「中国による『債務の罠』という西側のでっち上げは事実無根」と述べ、「中国の債務のわな」をキッパリと否定した。
スリランカ債務危機の真実
スリランカの債務危機を作り出したのは、欧米の金融機関による融資とそれに伴う緊縮財政、新自由主義政策にある。
2021年時点で、スリランカの債務の81%は、欧米の金融機関と日本やインドといった欧米の同盟国が所有している。北京が所有しているのは10%以下だった。この間、IMFだけでスリランカに16回融資を行い、経済危機の際には債権者の利益になるよう継続的にリストラしていた。昨年3月、スリランカでは、燃料不足や生活必需品の価格上昇に不満を持つ人々が街頭に出て、大規模な抗議デモが発生した。ワシントンポストなど西側メディアは、スリランカを経済危機に陥れたのは中国の融資だと騒ぎ立てたが、借金漬けにして緊縮財政を押しつけていたのはIMFなどの多国間金融機関と欧米の金融機関だったのである。
スリランカの債務危機に関して、現在最も危険なのは、IMF・世銀と先進諸国による新たな借金漬け、債務危機を一段と深刻化させる動きである。
今年4月、アムンディ・アセット・マネジメント、ブラックロック、HBKキャピタル・マネジメント、ティー・ロウ・プライス・アソシエイツなど30の民間投資会社で構成される国際民間債務委員会は、IMF、世銀をアドバイザーとしてスリランカ政府に債務再編案を提示した。彼らこそ、スリランカ政府発行の高金利の国債を保有し、巨額の富をむさぼる「ハゲタカファンド」なのだ。再建案はスリランカの野党から主権侵害だと批判されている。5月9日、日本、フランス、インドの3ヵ国が共同議長国となり、26ヵ国が参加した第1回スリランカ債権国会合が開催された。デフォルトから1年も経て開かれたこの会合の主要な目的は、「ハゲタカファンド」債権の救済である。
中国は、「債務の罠」どころか、逆に率先して債務危機緩和のための金融支援に乗り出している。今年1月、中国輸出入銀行は2022年が期限だった債務と2023年の満期債務の期限延長を表明した。これは、スリランカがIMFから29億ドル規模の4年間にわたる救済措置を受けるために必要な融資保証の一部となった。中国輸出入銀行はまた、中長期的な債務処理に関する交渉プロセスを加速し、民間債権者や多国間債権者に対しても同様の債務処理を行うよう求めている。さらに、中国からの債務返済や中国からの輸入を支援するため、スリランカ向けに融資10億ドル(約1300億円)と与信枠15億ドル(約1800億円)を発表した。
中国輸出入銀行など政府系金融機関による融資は低金利(2%程度)が基本だ。これに対して、欧米金融機関が資本市場で引き受けるスリランカ国債は、米国の格付け機関が設定する高金利(5%以上)での発行を余儀なくされている。
中国が、他の債権国と協調せず、経済改革(緊縮財政)を求めずに、返済期限の延長に応じていることを「国際ルール」を無視していると批判されているのだ。
債務国に緊縮政策を押し付けるIMFのルールで債務再編会合に参加しろとでもいうのか?
巨額の債務を途上国に負わせている先進帝国主義
現在、スリランカと並んで中国「債務の罠」の標的とされているのが、ザンビアやガーナなどアフリカ諸国である。アフリカもスリランカと全く同じ構図だ。
米政府や世界銀行の高官は、アフリカ債務問題に対して「中国が債務減免の妨げになっている」と批判した。だがそれは、アフリカの債務に最大の責任を負う自らの責任を中国に転嫁するものに他ならない。アフリカ49ヵ国の対外債務総額は6960億ドルだが、そのうちの実に4分の3が多国間金融機関と民間金融機関からのものだ。多国間金融機関の7割がIMF・世銀が保有する債権である。中国は昨年8月、アフリカ17ヵ国に対する23件の無利子融資の返済を免除した。
この20年間の途上国債務急増の最大の要因は、新興国政府が発行するドル建て国債による資金調達が増加したことにある。金融緩和によるドル資金が高金利を求めてこの債権に大量に流れた。その保有者は欧米の金融機関だ。この高金利の債権が支払い不能に陥っているのだ。だから彼らは慌てている。自らの飽きくなき欲望の結果に対して、自らのことは棚に上げてヒステリックに中国を批判しているのである。
中国の「債務の罠外交」とは、IMF・世銀がグローバル・サウス諸国に法外な高金利の略奪的融資を押し付けていることから目をそらし、自らの帝国主義政策を正当化するために米国が仕掛けたシナリオだ。世界銀行のデータによると、多国間金融機関と商業債権者は、121の発展途上国のソブリン債の80%以上を保有している。英国を拠点とする「NGO Debt Justice」の報告によると、アフリカ政府は中国よりも欧米の民間金融機関に3倍もの債務を負っており、欧米の金融機関からは2倍の利息を請求されている。歴史的にも現状でも債務問題の本質は、西側帝国主義の金融資本と金融システムの略奪性にあるのだ。金融資本は途上国を借金漬けにしてその富を略奪し続けている――これこそ「債務の罠」だ!それは途上国の文化と産業を破壊し、その発展を歪め、貧困や飢餓をもたらしている。
だがもう一つ、メディアが全く問題にしない西側帝国主義の犯罪がある。それはG7をはじめとする先進諸国が、巨額の負債をグローバル・サウスに負っているという事実だ。世界の貧困・不正を根絶するために持続的に活動している国際団体オックスファム(Oxfam)によれば、先進諸国が気候変動対策支援や開発援助で途上諸国に約束した資金は実に13兆ドルに達する。先進諸国は、この約束を全く果たしていないばかりか、これら諸国に2028年までに1日当たり2億3200万ドルの債務返済を求めている。先進諸国が、この莫大な借金を途上国に返済すれば、IMF・世銀や金融資本に対して払い続けている資金を、学校や病院、インフラ改善、農業と食料などに使うことができるはずだ。オックスファムが要求しているように、途上諸国の債務帳消し、気候変動対策での約束履行、大企業と富裕層への新たな課税、等々が不可欠である。
脱ドル・脱IMFの模索と中国「一帯一路」の貢献
先進諸国とメディアの中国「債務の罠」批判の最大の矛先は、「一帯一路」構想である。
日米欧など先進国で構成する「パリクラブ(主要債権国会議)」が途上国の債務問題を仕切ってきた時代は変わりつつある。中国の「一帯一路」は西側帝国主義の債務による途上国支配と略奪の体制を掘り崩し始めている。西側帝国主義は、これを怖れている。これが中国に対する難癖の原因だ。G7で中国に対抗しクローバルサウスを取り込むことに汲々としている。
中国は「債務の罠」など作ってはいない。逆に一貫して、途上国債務の削減に取り組み、実際に多くの債務免除を行ってきた。途上国の債務負担軽減に向けた20カ国・地域(G20)の「共通枠組み」にも積極的に参加し、債務サービス停止イニシアティブ(DSSI)の実施に誰よりも貢献してきた。ジョンズ・ホプキンス大学の最新の調査結果によると、中国はG20の DSSIに積極的に参加し、債務サービス停止の63%に貢献したという。チャド、ザンビア、エチオピアでは、債務軽減に向けて他の債権者と協力することにも同意している。
すでに中国は、今年2月中旬までに世界151ヵ国、32の国際機関と「一帯一路」共同建設に関する200件以上の協力文書に署名している。これら諸国の中で、中国の「債務の罠」を認めている国は1つもない。
中国、インド、サウジなど新興国の政府機関からの融資も増加している。特に一帯一路を掲げる中国からの融資拡大は顕著だ。長らく帝国主義の独壇場であった国際金融市場に中国が登場した。帝国主義の融資の性格、その略奪性は明らかだったが、途上国はそれに従うほかなく帝国主義に金融を通じてほしいままに略奪されてきた。中国の融資の性格は、新興国の生産力の発展に貢献している。その特徴は長期の相互の経済的利益を重視していることだ。途上国のインフラ建設のニーズは、欧米諸国の金融機関からは無視されてきた。中国はそうした国に手を差し伸べインフラ建設に中国の資金と技術を提供している。それは中国国内で貧困の撲滅に効果をあげた経験と実績、技術力に基づいている。インフラ投資により経済発展を促進し税収を増すことで、人々の生活向上に貢献していくことをめざしている。欧米からの不利な融資の返済にも役立つ。一帯一路の提唱から10年、困難もありリスクもあるが、帝国主義の敵視と憎悪、妨害にも関わらず、長期の展望に立ってともに発展を目指す目標に向かって実績を積み上げるプロセスが進んでいる。
途上国の債務危機は中国を非難するだけでは解決しない。むしろ中国の対応が途上国のデフォルトの拡大を防いでおり、FRBの無責任な利上げが途上国の債務危機に拍車をかけている。これは西側帝国主義もよくわかっているはずだ。
先進諸国は、中国の「債務の罠」などいう中国に対する誹謗をやめ、途上国の債務問題に真剣に取り組むべきだ。これまで蓄積されてきた民間債権を含む膨大な債務の放棄こそ必要である。IMFによる債務返済の条件=緊縮財政の要求こそやめるべきだ。
(NOW)