【シリーズ反中・嫌中・戦争プロパガンダ批判】
「ピークチャイナ論」批判~西側の新たな「中国崩壊論」~

はじめに――「台湾有事」とセットの新たな「中国崩壊論」

(1) 英『エコノミスト』誌は最近の5月13日号で「ピークチャイナ?」をタイトルとする特集を組んだ(日経新聞5・16に翻訳記事「米中経済、2050年までは拮抗」で紹介)。以後、西側の論壇やメディアで一斉に「ピークチャイナ論」が拡大している。これは、「中国崩壊」論の新版であり、帝国主義者たちの主観的願望に過ぎない。
 同誌は、3つの予測を根拠にしている。一つは、米国の外交政策専門家ハル・ブランズと准教授マイケル・ベックリーの昨年の著作『デンジャー・ゾーン 迫る中国との衝突』だ。中国のピークは終わり衰退に直面する、しかもピークは予想された水準を遙かに下回るという「ピークチャイナ論」を唱えた。もう一つは、ゴールドマン・サックスの予測だ。同社は昨年末に、2011年の予測(中国のGDPは2026年に米国を抜き、50年には1・5倍になる)を下方修正し、35年までに追いつくことはなく、ピーク時でも米国を14%上回る程度だとした。三つ目は、英調査会社キャピタル・エコノミクスで、中国経済が世界一になることはない、35年に米国の90%に達し、その後失速するというものだ。
 西側政府・支配層は、この「ピークチャイナ論」を「新冷戦」「台湾有事」と直結させている。「中国は急速に衰退するから台湾侵攻を急ぐ」、「米中は今後数十年間、ほぼ互角状態が続き、中国は米国の地政学的ライバルになり続ける」と。

(2) 「ピークチャイナ論」の根拠は大きく人口動態と労働生産性の2つだ。以下、詳しく考察する。
 中国の研究者たちは「ピークチャイナ論」に事実と理論をもって丁寧に反論している。われわれもこれを参考にした。しかし、彼ら、特に政府系研究者は、手放しで自国経済を自画自賛しているわけではない。自国経済の弱点や欠陥を熟知した上で、対策を立て、それを実行する自己修正能力を備えている。だからこそ、改革開放後長期の経済成長を達成してきたのだ。
 そもそも、中国の党・政府にとって、米国経済を追い越すのが目的ではない。持続的な経済成長を実現し、2035年の社会主義現代化強国を建設し、2049年の中国建国からの百年を達成し、第二の百年に向けて、人民第一の共同富裕を勝ち取ることを目指しているのだ。
 ちなみに、IMFのデータを使うか世銀のデータを使うか、実績値を使うか予測値を使うか、為替変動、コロナの影響などで違うが、2028年~2031年に中国は米国を追い抜く。
 インフレ・物価高の下で、西側で金融恐慌、経済恐慌の爆発が差し迫っている。帝国主義者たちが一番恐れているのが、西側の混乱をよそに成長を続ける社会主義中国の姿だ。世界中の多くの人民が体制の優劣を感じかねないからだ。ここに社会主義中国への階級的恐怖、階級的憎悪の最大の理由がある。
(渉、韮)

「ピークチャイナ論」の2つの根拠――「労働人口減少論」「資本投入大幅減少論」

(1)「労働人口減少論」は「ピークチャイナ論」の根拠になり得るか?

 「ピークチャイナ論」に共通するのは、労働人口の減少から経済成長のピークアウトを導く手法である。しかし、中国の経済発展における人口増加が果たす役割は小さい。
① 経済成長と人口動態の関係について。1978年から2022年まで、中国の人口は年平均0・9%で増加し、同期間、中国のGDP成長率は年平均9・0%。つまりこの差年率8・1%、90%は人口動態の変化で説明することはできない。
② 2010年から2022年にかけてのインドと中国の比較。インドの方が中国よりも人口増加率が圧倒的に高いにもかかわらず、中国のGDP成長率はインドを上回っている。中国の一人当たりGDP成長率は105%で、インドの69・6%よりも51%も高い。経済成長に対する労働人口の役割は中国では小さいのだ。社会主義中国は、資本主義インドよりも一人当たりGDPの成長がはるかに効率的である。
③ 確かに、中国の労働人口増加はすでにピークアウトしている。反中宣伝は「だから中国は豊かになる前に老いる」と主張する。だが、「労働人口減少論」に欠落しているのは、「労働の量」だけを根拠にし、「労働の質」を無視することだ。実際、図にあるように、2011~2021年のGDP成長率に占める「労働力の質」(上端)プラス4%と「労働力の量」(下端)マイナス4%は相殺され、「量」の減少が決定的でないことを示している。


 また、労働力の教育・訓練が総労働投入量を増やしていること、農村から都市への労働シフトがまだあること、中国の退職年齢の低さ(男性60歳、女性50~55歳)と寿命の延長など、中国政府の労働人口対策にはまだ多くの余地がある。

(2)「労働生産性減少論」=資本投入(設備投資)大幅減少論の誤り

 「ピークチャイナ論」のもう一つの根拠である「労働生産性減少論」はどうだろう?確かに、中国の経済成長を主導してきたのは設備投資(資本投入)である。2011~2021年のGDP成長率に占める貢献度の割合を見れば、上図にあるように、6・7%の成長率の78%、5・2%は資本投入(設備投資)だ。中国の経済成長における資本投入への依存度は圧倒的である。
 『エコノミスト』誌は、ローランド・ラジャとアリッサ・レンによるローウィー研究所の分析を引用し、「資本投入が現在のGDPの43%から33%に減少し、2030年までにGDP成長率は年3%程度に急減速する」と言う。ゴールドマン・サックスも同様で、2013~2022年のGDP成長率の平均6・0%は2023~2032年には3・4%に低下するが、その主因は資本投入が4・8%から2・4%へ大幅に減少するからだと言う。
 では、なぜ資本投入は大幅減となるのか?一つは、「民業圧迫」「利益率低下」論だ。資本だけが成長をもたらすという幻想だ。だが、中国は社会主義であり、党・国家・公的部門主導でここまで長く高い経済成長を実現したのだ。現実が論破している。彼らは、階級的本能から、社会主義計画経済の力、中国共産党の指導力を認めたくないだけである。もう一つは米国の対中制裁である。だが、党・政府は新たな対抗戦略を掲げて自力更生の巨大な供給力=設備投資戦略で立ち向かう決意を決めている。これもありそうにない。

直近の中国経済の回復が「ピークチャイナ論」を反駁する

(1)中国経済は緩やかな回復過程に入った

 中国経済は、今年4月までの統計で明らかだが、新型コロナ終了後に緩やかな回復過程に入った。米国や西側による「デカップリング」や制裁攻撃、西側の景気後退という外部環境の悪化にもかかわらず、鉱工業生産、小売売上高、投資規模の安定的な回復・拡大が始まっている。
① 中国経済の第1四半期GDPは前年同期比4・5%成長だった。政府は今年度5・0%前後の成長目標を掲げている。
② 全体として、個人消費を軸とする内需が経済成長に大きく寄与している。4月の小売売上高が前年同月比18・4%増と3月の10・6%ペースから加速したことが大きい。住民の旅行と一部のサービス消費は抑制された3年間の反動で急速に成長した。飲食店の収入が前年同月比43・8%増となるなど消費部門が50%前後の急増を記録した。
③ 4月の工業生産高は前年同月比5・6%増と3月の3・9%増から上昇、2022年9月以降最も速い成長を記録した。固定資産投資は、インフラ投資の伸び率の加速や製造業投資の底堅さから急成長を遂げた。1~4月期の固定資産投資は、第1四半期の5・1%増から鈍化したが、前年同期比4・7%増と急増した。

(2)弱点克服に全力を挙げる党・政府

 西側メディアは、予想より悪い断片的なデータをかき集め、早速「ピークチャイナ」の証拠として援用し喧伝している。とりわけ問題視されているのは、輸出不振、不動産部門の不振、若者の高失業率の3つだ。しかし、中国政府(国務院)と研究機関は、直近の経済回復に慢心せず、むしろ弱点を洗い出し、その克服に全力を挙げている。
① 輸出が、外部環境の悪化で成長のマイナス要因となっている。5月の輸出が前年比7・5%減と1月以来の大幅減少となり、4月の8・5%増から大きく落ち込んだ。それでも1~5月

の対外貿易は前年同期比4・7%増、輸出は同8・1%増、輸入は同0・5%増となった。政府は外需の減少をヘッジすべく内需拡大に重点を置いて財政政策などを打ち出している。
② 個人消費の回復は確実だが、問題はその持続性である。政府は、持続的拡大に向け個人所得の持続的な増大、大胆で大規模な雇用対策に重点を置いている。
③ 不動産投資はGDPの11%を占めるが、1~4月期の住宅投資は6・2%減少した。習近平が2年前に、「住宅は住むものであって投機するものではない」と不動産投機を非難して以降、政府は成長率の低下を覚悟している。政府は、膨大な人口と中長期の所得増は潜在的な不動産部門の回復につながると確信し、政府主導で不動産の「新開発モデル」を推進している。
④ 失業率は、今年2月から4月にかけて、5・6%、5・3%、5・2%と減少傾向にある。問題は若年層(16~24歳)の失業率だ。今年4月は20・4%を記録した。政府は、コロナの影響で打撃を受けたサービス業や中小企業へのテコ入れ、労働市場の需給の構造的ミスマッチを改善すべく、公共サービスと民間サービスを結び付け、科学、教育、文化、健康とスポーツ、エンターテインメント、デジタルサービスなど新しい雇用吸収能力の復活を支援している。農民工についても、建設や中小零細企業の起業促進、技能訓練など就労支援に力を入れている。

社会主義現代化強国に向けた新たな戦略

(1)国内大循環=双循環の新戦略、輸出主導型から内需主導型へ

 中国共産党は、数年前から先行的に準備し、昨年10月に開かれた中国共産党第20回大会で「国内大循環=国内外の双循環」という新戦略を正式決定した。国内需要(個人消費と投資需要)を拡大すると同時に、この国内大循環に国際的な貿易・投資循環を結合するものだ。マルクス主義再生産論に従って、個人的消費と生産的消費、第一部門(生産手段生産部門)と第二部門(消費手段生産部門)の拡大再生産を実現させる戦略だ。これを「新たな発展パターン」戦略とも呼ぶ。
 それは、米帝主導の西側帝国主義による対中戦争準備と「デカップリング」政策に対抗し、中国国内の個人消費の増大と、イノベーション主導の国内の供給構造改革=設備投資の同時推進を内容とする。だが、それは、単なる西側への受動的対抗戦略ではない。1987年から採用された輸出主導工業化戦略(「国際大循環戦略」)を大転換し、今後社会主義経済を持続的に発展させていく長期的・能動的な戦略である。今年に入っての経済回復は、この新戦略の最初の成果だ。
 また、それは単なる経済戦略ではない。14億人の人民の所得増で拡大した自国市場を「メガ市場」に育成し、これに新興・途上諸国や西側の資本や商品を磁石のように吸い寄せることで、これを武器に、一方で新興・途上諸国全体を巻き込み、他方で西側帝国主義を分断し、対中戦争への衝動を抑制する外交戦略でもある。

(2)「中国式現代化」の世界史的意義

 実は、中国の党・政府は、もっと壮大な歴史的スケールでこの新戦略を構想している。それが、同じ第20回大会で提起された「中国式現代化」論だ。大航海時代以降四百~五百年にわたり、工業化と経済成長は「西洋式現代化」以外は不可能だと考えられてきた。世界中がそう思わされてきた。だが、その「西洋式現代化」は、金銀や鉱物資源の略奪、他国への侵略や軍事介入、植民地・半植民地・従属国への支配、多民族の収奪などによる野獣のような獰猛な「現代化」であった。
習近平総書記は、この西側帝国主義の野蛮な発展に、中国式の発展、侵略や資源略奪や多民族収奪のない平和的な社会主義発展を毅然と真正面から対置したのである。中国式現代化は「中国共産党が主導する社会主義的現代化」であり、「西洋式現代化とは違う」と。「西側文明の優位」「中所得国(途上国)の罠」なる西側中心主義神話を粉砕し、途上諸国を見下してきた西側帝国主義に挑戦状を叩きつけたのである。
 中国が特に強調するのが、金融経済を膨張させ、他国に対する金融収奪に依拠し、自国工業を破壊してきた、腐敗した西側資本主義・帝国主義経済に対する糾弾であり、高度なイノベーションに依拠した実体経済の発展、「新しい型の工業」「デジタル経済」「質の高い発展」、それを「グリーン経済」で実現する、新しい社会主義的経済建設、新しい社会主義の未来像の提示である。それが、2035年を目標とする「社会主義現代化強国」だ。そしてこの自国の「現代化」の果実を貿易・投資と「一帯一路」で新興・途上諸国全体に波及させる。それは、西側帝国主義の「発展」の最大の源泉である植民地主義的収奪基盤を掘り崩す。こうして社会主義経済の自力の持続的な発展を武器に、自国経済発展の実例の力で、国際的な階級的力関係を変え、世界革命過程を前進させる。
 われわれは、中国のこの遠大な社会主義構想の成功を望む。そして、この成功の最大の障害である西側帝国主義の「新冷戦」策動と闘うことで、これに連帯する。



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