G7後に西側の反中プロパガンダは新しい特徴が追加されるようになった。2018年のトランプに始まり、バイデンが、同盟国を巻き込む形でそれを西側全体に拡大してきた対中攻撃は、関税戦争、ハイテク戦争、「台湾有事」と軍事包囲、政治・経済制裁など、全面的なものに膨れ上がっている。当初、中国は、この攻撃が一過性のものかどうかを慎重に見極めていたが、長期的なものだと分かって以降、断固たる対抗措置を取り始めた。
ところが、米国と西側は、この対抗措置に牙を向け始めたのだ。「被害者は米国だ! すべての責任は中国にある」と。中国に逆ギレし、中国を加害者に仕立て上げ、自らの攻撃的かつ横暴で傲岸な振る舞いを正当化しようとする。この間、明らかになった「偵察機・駆逐艦妨害」「経済的強制」「対話拒否」等はすべて、この新手のプロパガンダだ。
シャングリラ対話に合わせて「偵察機・駆逐艦妨害」宣伝
直近の反中プロパガンダの場は6月初めに開催された「アジア安全保障会議」(「シャングリラ対話」)だ。米国は、自らの戦争挑発行為を、まるで中国の戦争挑発のように仕立て上げた。会議では、世界の平和共存を目指す中国と、ブロック化と対立を煽る米国の「安全保障」政策の違いが明らかになった。
5月26日の発表は、「米空軍の偵察機が国際空域で、南シナ海上空で安全かつ日常的な作戦を行っていたときに、中国戦闘機が『不必要に攻撃的な作戦』を行った」というもの。6月4日の発表は、米海軍の駆逐艦とカナダ海軍フリゲート艦が、台湾海峡での「通常任務中」に中国軍艦船に「危険航行」された、というものである。会議に合わせて米軍がわざと中国を挑発し、中国の対抗措置を騒ぎ立てたのは明らかだ。
案の定、オースティン米国防長官は「アジア安全保障会議」の演説で「台湾海峡で紛争があれば壊滅的だ」と挑発し、米国が提案した米中国防相会談にも互いの「安全保障」「危機管理」にも応じないと、中国を非難した。
少し考えればわかることだが、米軍は米本土をはるかに離れ、中国近辺で何をしているのか。米軍偵察機は、南シナ海での中国軍による日常演習を常にスパイし妨害している。中国南部の広東省嘉陽からわずか50㎞未満!に接近した。報道されていないが重要なことは50㎞ほど離れたところに中国空母山東の部隊が台湾海峡に向かって行動しており、米偵察機はその訓練区域に侵入して近接偵察・傍受を行っていた。とうてい「安全で日常的な作戦」などとは呼べない挑発行動だ。台湾海峡強行通過についてもわざわざ2隻が編隊航行しながら行動しており、通過しただけなどとは言えない。ニューヨークやワシントンやロサンゼルスなど米本土付近で中国軍機・艦船が同じ行動を取り、米軍が出動すれば、戦争挑発をしたのは米国の側になるというのか。
逆に「経済的強制」のプロパガンダ
「デカップリング」についても同様だ。米政府はTikTokから気球、冷蔵庫に至るまで、あらゆる中国の技術が「スパイ技術のリスク」に該当するとする。ありもしない「安全保障上」の懸念を理由に、米国はこの間、ファーウェイの5G技術と機器の世界市場での採用を阻止するため同盟国に協力するよう要請してきた。また新疆で生産されるすべての製品が「強制労働」に汚染されていると、ありもしない「人権問題」を口実に新疆関連製品の輸入を禁止してきた。新疆で生産された商品を含むすべての対米輸出は、〝自己の無実を証明する〟ことを宣言しなければならないのだ。これのみならず、米国は中国製造業への攻撃として、数百の中国の「事業体」に制裁を加えている。
目下の最大の焦点は「半導体戦争」だ。米政府は「CHIPSおよび科学法」を制定し、中国の半導体産業を兵糧攻めにしようとしている。日本と韓国やオランダを巻き込み、半導体の製造装置や材料の対中輸出を禁止させようとしている。
中国政府はこうした状況下で、米国の半導体メモリー大手マイクロンに、サイバーセキュリティ問題を理由に調達禁止を命じた。背景には、何よりも中国で財をなしたマイクロンが恩を仇で返すがごとく、中国に牙を向いたことにある。マイクロンは、2018年から2022年
まで米中貿易・技術競争の過程で、米国政府に170以上のロビー項目を提出し、貿易、知的財産権、中国の競争、産業支援など多岐にわたる対中制裁の材料を米国に与えるまでになっていた。要するにマイクロンは米国政府に必死に働きかけて中国企業の制裁を行おうとした。そして米国政府はマイクロンの情報を基に中国企業を制裁していたのだ。中国がマイクロンを米国への反撃のターゲットとしたのは、いわば当然のことだった。
中国の当然の対抗措置に対して、米国はじめG7が打ち出したのが「経済的強制」なる新たなプロパガンダだ。中国は経済力を使ってさまざまな「強要」を行うから、対抗しなければならないと言うのだ。やりたい放題に対中輸出規制や制裁を乱用した結果、正当な反撃をした中国を今度は、「経済的強制」をする横暴な国だと非難する。加害者が被害者面をするのだ。
巨大な中国市場を失ったマイクロンはこのままでは早晩、経営危機に陥る可能性がある。しかも今、世界的なスマホ不況、半導体不況の真っただ中にある。中国半導体産業の発展に恐怖して攻撃した米半導体企業が自らを破綻の淵に追い込むという自業自得。「デカップリング」の典型的な矛盾が早くも明らかになった。
対立を煽る「対話拒否」批判のさかさまの論理
米国務長官ブリンケン、財務長官イエレン、そしてバイデン大統領自身が、中国のカウンターパートとの会談を繰り返し求めている。しかし、中国側はそれを拒否している。中国は、まずは攻撃を始めた米国側が信頼醸成措置を整えよと求めているのである。当然だ。ありもしない「スパイ気球問題」をでっち上げて大騒ぎし、予定していた米中外相会談を潰したのは米国側である。また、米国の対中制裁が脱ドル化を加速する現状に危機感を持ち、同時に債務危機に危機感を持ったイエレンが中国に米国債購入を打診するための会談を呼びかけた件についても、会談をぶち壊したのはイエレンの側だ。「中国は不公正な経済慣行をやめるべき。米国は同盟国と断固として経済安保政策を進める」「中国は米国に従うべきだ」と居丈高な態度に出たからだ。バイデンも、G7の場で、「非常に近いうちに雪解けがあるだろう」と何の根拠もなく首脳会談に言及した。
アジア安全保障会議での米国防長官の「中国の対話拒否」批判のデタラメさはすでに述べた。中国は、ただ当然の要求をしているだけだ。米国に対し、形だけの対話のための対話には反対すること、実質的な対話には、その対話の条件を作り出す誠実な行動をとることが必要なこと、中国の国防相への制裁を解除することなど。
そもそも一体誰が緊張を煽っているのか。中国の内政に関わる台湾に、元下院議長を送り込み、台湾総統を自国に招き入れ現下院議長と会談させたのはどこの国か。他国の内政問題に荒々しく手を突っ込もうとしているのは一体どこの国か。台湾へ武器を売却し、フィリピンやオーストラリアの軍事基地を増設、拡張させ、日本の南西諸島にミサイル搭載海兵隊の配備を計画し、大規模訓練を実施しているのはどこの国か。「台湾」分離独立派を煽動し、統一に抵抗させているのはどこの国か――言うまでもない、それは米国だ。米国はそんなことには一切頬被りし、アジア太平洋地域に緊張をもたらすのは中国だとうそぶくのである。
「アジア安全保障会議」の中で、オースティン米国防長官の「対立を煽る対話要求」に対して、中国の李国防部長は「中国の新しい安全保障イニシアチブ」を対置した。会議参加者の前で、米国と中国が戦争か平和かの2つの異なる道筋を示した。一方の米国は「インド太平洋の共通ビジョン」。それは、覇権の追求、ジャングルの法則、ブロック化と陣営対立であり、軍事同盟を求めるものだ。中国は、「グローバル・セキュリティ・イニシアティブ」。それは、平和共存、相互尊重、公正と正義、相互信頼と協議、開放性と包括性の促進、パートナーシップを求めるものだ。
我々日本人民や世界の人民、とりわけ途上国人民がどちらを求めるかはもはや明らかだろう。
潮目は大きく変わりつつある「デカップリング」政策が行き詰まる
だが、潮目は大きく変わりつつある。本稿で紹介したG7での「経済的強制」についても、「デカップリング」政策の行き詰まりの現れだ。先のG7を前に、仏や独をはじめヨーロッパが、「デカップリング」の代わりに「デリスキング」(リスク回避)を打ち出したが、今では米政府もこの政策を口にするようになっている。対中封じ込め政策で帝国主義間矛盾が表面化しつつあるのだ。もちろん、まだ「デカップリング」と「デリスキング」の概念は曖昧で、経済制裁(経済安保)政策を放棄するまでには至っていない。
こうした西側の間の矛盾の背景には、米欧日のグローバル金融資本の間の中国市場をめぐる争奪戦がある。これら金融資本がそれぞれの政府の対中「冷戦」政策、経済安保政策に異を唱える動きが出始めている。先のフランスのマクロンの訪中にはフランスの財界代表団が大挙して同行したし、直近では、テスラのイーロン・マスク、スターバックス、銀行大手JPモルガン・チェースなど、米国の大手企業トップが中国訪問を再開している。米半導体エヌビディアのCEOも今月に訪中する予定だ。マスクは、「米中互いの利益は切り離せず、デカップリングに反対する」と述べ、中国事業を拡大する方針を強調した。
(MK)