[1]ヨーロッパ戦争へエスカレーションの危険
昨年2月以降最も危険な段階ーードイツが最前線に
ウクライナ戦争は、昨年2月以降で最も危険な段階に入りつつある。英独米の戦車の派遣決定が突破口だ。「NATO戦車連合」の供与は、ドイツ軍のレオパルトをポーランド、スペイン、オランダ、フィンランド、デンマークなどNATO諸国から約100両、英チャレンジャー2を14両、米のM1エイブラムスを31両、総計140~150両からなる。ドイツは更に旧式のレオパルト1戦車100両以上の輸出許可を出した。
今回の「NATO戦車連合」の中心はドイツだ。ドイツのショルツ首相は、逡巡してきた攻撃戦車供与を決断した。戦後ドイツ史、ヨーロッパ史を画する非常に危険な決定だ。敗戦帝国主義ドイツは、戦前のナチス・ヒトラーがソ連とヨーロッパ全体を悲劇的・破滅的な戦争の渦に巻き込んだことで自らに一定の制約を課してきたが、それをかなぐり捨てたのである。ドイツの帝国主義的軍国主義は新しい段階に入った。
米・NATOは新装備の部隊で6月以降にも決戦をさせようとしている。当然、ロシアが対抗することは明らかだ。このままでは戦闘が激化し、兵士だけではなく住民を巻き込んだ凄惨で甚大な被害は避けられない。何としても止めなければならない。「今こそ停戦」の声を広げよう。
NATO要人が公然と対ロシア戦争を主張
今回の戦車大量供与は米・NATOのロシアとの直接対決、ヨーロッパ戦争へと直結する危険極まりないものだ。
最近、NATO要人が、平然と対ロシア戦争を主張し始めた。異常としか言いようがない。ドイツのベアボック外相(緑の党)が、1月25日に行われた欧州評議会(PACE)で、「ドイツはいまロシアと戦争状態にある」と言い放った。次いで1月30日、NATO軍事委員会のロブ・バウアー委員長は、「ロシアとの直接対峙の準備ができている」と述べ、欧州東部・北部・バルト3国での戦闘部隊を強化し、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアでさらに4つの戦闘部隊の立ち上げを決定したことを明らかにした。さらに「NATOの優先課題は再軍備だ]「戦時経済体制に入るべき」と提言した。
劣化ウラン汚染の危険 次はF16戦闘機という異常
戦車供与というが、実はハードだけではない。米国の整備・メンテナンス要員、専門家、すなわち米軍要員が随行する。そこで米国人が戦死すれば一気に緊迫する。バイデンにウクライナ上空の飛行禁止区域導入や宣戦布告の理由を与えることになる。特に整備が困難なM1配備は、米が直接軍事介入する危険性を格段に高めるだろう。
さらにM1戦車の対戦車砲弾は劣化ウラン弾だ。使用されれば、東部のロシア系住民も含めウクライナ住民とロシア兵に深刻な放射能被害を与える。劣化ウラン弾が出生異常やがん多発など深刻な健康被害をもたらすことは、イラク戦争の実例が証明している。バイデン政府高官は、劣化ウラン弾装備を否定しなかった。
戦車だけではない。すでに米国防総省はF16戦闘機派遣で動き始めている。ウクライナは、直ちにF16の訓練を始められる最大50人のパイロットをリストアップした。直接米国がF16を送らなくても、他のNATO諸国からの供与も可能だ。オランダの外相は、ウクライナが要請すればオランダのF16供与を検討すると述べた。
さらに米国は、射程150㌔の誘導ロケットGLSDB、レーダー攻撃機、電子戦機、空中早期警戒機AEWなど、様々な武器・軍需品など20億ドル以上の軍事支援を準備している。ウクライナとNATO諸国は長射程ロケットと軍用機の両方を送る可能性について協議を始めた。
東ヨーロッパの一国に、これほど大規模な戦争配備が行われるのは第二次世界大戦後初めてのことである。
[2]米・NATO帝国主義の戦略的迷走、脆弱性
対ロシア戦争を優先するか、対中戦争準備を優先するか
バイデン政権中枢で、当面、対ロシア戦争に全力を集中し、まずは軍事的にロシアを敗北させるべきだという一派と、そんなことをすれば、第一の戦略的主敵である社会主義中国との戦争準備、対中包囲網構築がおろそかになる、ロシアとは一定の妥協をすべきだという一派の対立が随所で出始めている。
両派の妥協策で出てきたのが、早期決戦で停戦への模索を追求するというものだ。それを証拠立てるかのように、米RAND研究所は1月の状況評価で、「長期戦は避けるべき」と決戦と停戦への模索を提案した。バイデン政権内部でも、ロシアを軍事的に屈服させることはできなというコンセンサスが出始めている。
しかし、何も「停戦」「和平」そのものが目的ではないということだ。ロシアを敗北させらないのに際限のないウクライナ支援を続けることへの危惧であり、何よりも戦略的主敵である中国への軍備増強が遅れるという恐れからである。
ウクライナ政権の危機 焦るゼレンスキー
ゼレンスキーは、主力戦車に続いてF16や長距離攻撃力へと要求を次々エスカレートし、好戦性をむき出しにしている。
しかし、政権内部の矛盾が先鋭化している。すでに野党の非合法化・活動禁止や組合弾圧など反対派を徹底的に封じ込めてきたが、この間、軍事援助をめぐる政府内の大規模な腐敗・汚職を口実に政府内反対派、和平派の粛清を断行し、対ロ決戦に踏み出そうと躍起となっている。ウクライナ全土で徴兵制が強化され、若者が路上で強制的に徴兵されている。世界中の帝国主義メディアはロシアの反戦運動や反対派は大々的に報道するが、ゼレンスキーとウクライナの強権弾圧や和平派の粛正は報じない。
米・NATOのロシア打倒の野望は困難に直面
米・NATO帝国主義のロシア打倒戦略は、ますます大きな困難に直面している。何よりも対ロ制裁は失敗した。対ロ制裁に参加したのは48国だけで、経済制裁でロシア弱体化という思惑は完全に外れた。逆に、BRICSや上海協力機構など、米帝一極支配に抗う動きは中国、ロシアを軸に多くの新興・途上諸国が加わり拡大している。対ロ制裁でエネルギー危機、食糧危機を激化させるだけの帝国主義陣営に対して不満が高まっている。
ラ米諸国は、米・NATOの対ロ「代理戦争」を批判し、ウクライナへの軍事援助要請を拒否している。キューバ、ベネズエラ、ニカラグアは、ウクライナで戦争を引き起こした米とNATOを非難した。ボリビアとホンジュラスは、ブラジル、アルゼンチン、コロンビアと共に「代理戦争」加担を拒否した。独ショルツ首相はラ米諸国を訪問し、ウクライナに武器供与させようとしたが、ことごとく失敗した。ブラジルのルーラ大統領は、ブラジル軍の105ミリ弾薬など軍事物資の対ウクライナ輸出要請を明確に拒否した。
[3] 高まる即時停戦、戦車供与反対の国際反戦運動
国際反戦運動は米・NATOに矛先
米・NATOの軍事援助をやめさせなければ戦争は終わらない。停戦・和平の鍵は何よりも米・NATOが握っているのだ。帝国主義に矛先を向けた国際的な反戦運動こそ、戦争を止めるための最大の現実的力である。
独ショルツ政権が対ロ戦争の最前線に躍り出たことは、ドイツの反戦運動に火をつけた。1月31日、ドイツニュルンベルクで大規模な反戦デモが行われ、戦車供与反対、「これは超えてはいけない一線だ」と叫んで行進した。2月18日には、ドイツ共産党が「ミュンヘンNATO戦争会議」に対する行動を呼びかけている。
英国ではストップ戦争連合が、英国最大の労組ナショナルセンターTUCの軍事費増要求決議を撤回させ、労働組合が反戦政策を掲げるための活動を強めている。2月25日には、「今こそ和平を」を前面に掲げ、主として米・NATOに矛先を向けたストップ戦争デモを行う予定だ。
米国では、先行して1月13~22日のルーサーキング週間に、全米反戦連合(UNAC)、国際行動センターなどの呼びかけで90以上の反戦行動が行われた。この行動は「米・NATOの代理戦争NO!」を掲げ、反帝国主義・反NATOの姿勢を鮮明にしたものであった。ウクライナへの武器供与に反対する反戦世論も高まりつつある。3月18日には、イラク侵攻20年に合わせてANSWER連合、人民フォーラム、コードピンクの主催で、ウクライナへの武器輸出中止、NATO解体、戦争経済反対、即座に交渉を、中国との戦争反対などを要求する全米行動が開催される。これらの国際的反戦行動に連帯しよう。
日本政府は米・NATOへの加担・支援をやめよ
岸田首相は、5月のG7広島サミットにゼレンスキーを招き、G7帝国主義諸国が結束してウクライナ支援と対ロ制裁強化を決意する首脳宣言を打ち出す方針を固めた。G7に向けて米・NATOの軍事支援を積極的に支持し、ウクライナを訪問してゼレンスキーと会談することも検討している。岸田はNATO事務総長ストルテンベルグと会談し、ロシア非難と日本・NATO連携強化で一致した。岸田政権は、米国だけでなくNATOとも直接連携を強化することで、対ロ「代理戦争」を積極的に支援し、本格的な対中戦争準備を進め始めたのだ。
岸田政権とメディアは、停戦と交渉による解決は全く口にせず、ロシア非難を垂れ流している。米・NATOの軍事支援に反対し、「今こそ停戦」の声を上げていこう。
2023年2月6日『コミュニスト・デモクラット』編集