○26、27年に米日が中国に軍事衝突を仕掛ける
○日本が対中戦争の最前線に―「安保3文書」と一体
[1]誰が、何のために書いた報告書か?
(1)メディアの対中戦争誘導を批判しよう
米国の国際戦略研究所CSISは1月9日に報告書「次の戦争の最初の戦い――中国による台湾侵攻を想定した机上演習」を公表した。英語で机上演習は「ウォーゲーム」と言う。米軍や米軍産複合体は、まさにゲーム感覚で、戦争計画を立てているのだ。発表後、日本のメディアは、防衛省や自衛隊関係者を招いて、文字通り「ウォーゲーム」さながらに、この報告書を連日、そのまま垂れ流している。そして番組の最後は、中国の攻撃を抑止すべきだと結んでいる。人々を対中戦争に誘導し、岸田政権が強行する「安保3文書」と軍事費2倍化、軍事費増税を後押ししているのである。
メディアは米日政府の戦争宣伝のメガホンになっているのだ。メディアが権力と一体となったらどんな恐ろしいことになるか。それは戦前・戦中の「大本営発表」が教えてくれる。メディアの戦争世論誘導を批判しよう。メディアの過去の戦争責任を改めて追及しよう。
(2)「中国の脅威」と「台湾独立」を煽動
CSISはRAND研究所と並んで米政府・米軍に非常に近い、一体ともいえるシンクタンクだ。今回公表した報告書についても極めて政治的な目的を持っている。単に一研究所の報告ではなく、米政府・軍の対中戦争計画なのである。少なくとも3つの目的がある。
第1の目的は、2026年に、中国軍が台湾侵攻をするというシナリオに典型的に現れている。中国軍の脅威と台湾武力統一の野心を世界中に印象付けること、「台湾独立」を煽動することが目的である。報告書はこうしたプロパガンダの一環だ。
昨年秋に台湾で民進党が統一地方選挙で大敗北して、スローガンを「抗中保台」から「和平保台」に変えざるをえなかった。そのことに現れている台湾の人々の戦争忌避、独立強行に対する警戒心を変えさせ、中国に対する反感を煽り続けようという世論工作の一環である。
また5年間で100億ドルという米国の台湾への武器支援(高額兵器の大量売り付け)を後押しし、米国の対中戦争戦略に協力させるための道具立てでもある。報告書は米が協力しない「台湾単独」のケースでは台湾が大敗北するぞと脅して協力させようとしているのである。
台湾は中国に属している。中国の内政問題なのである。われわれは、このような露骨な内政干渉に断固反対する。
(3)軍拡競争に巻き込み、社会主義中国の発展を阻止する
第2の目的は、米国に追いつき追い越すまで力を付けてきた社会主義中国の急速な発展を阻止することだ。1990年前後のソ連・東欧社会主義体制の崩壊後、米国は一極的な世界覇権を構築し、米国に従わない国々に対しては侵略することで直接軍事的に屈服させ、あるいは「人権」や米欧系のNGOを使って内政に干渉し、クーデターで政権転覆を図って屈服させるか、あるいはドル覇権を使って経済制裁や経済封鎖を乱発し、経済的に弱い国々を経済的危機に陥れ屈服させるか、いずれにしても傍若無人にやりたい放題をしてきた。
かつて米ソ冷戦時代、米国はソ連に超核軍拡や軍拡競争を仕掛けて、ソ連社会主義崩壊を促進させた。この「成功体験」を再び、中国に対して仕掛けようとしているのである。しかし、中国はソ連とは違う。米国の見え透いた策動には簡単には乗らない。国力、経済力の範囲内で自国社会主義の防衛力を整備するが、過剰な対応を避け、基本は平和共存と新興・途上諸国との政治的・経済的協力関係の構築である。だから、米国は、軍事力だけでは不可能だと考え、金融・ハイテク・関税・文化・メディアなど全面的な封じ込めで抑えにかかっているのである。
(4)対中軍拡予算獲得で軍産複合体を肥え太らせる
第3の目的は、米国の予算審議を前に、対中戦争を煽り、米軍と米軍需産業の要求を認めさせようというものである。
報告書は、勝利のためには以下のことが必要だとしている。①台湾の徹底抗戦。②ウクライナと違い戦争開始後の補給は不可能なので、戦争開始前に大量の武器弾薬を台湾が保有していること。③在日米軍基地だけでなく自衛隊基地および民間の空港、港湾まで自由使用できること――勝利を得るためには日本の基地使用が必須の要だというのが主要な結論の一つである。④米軍が大量の長距離ミサイル、特に対艦ミサイルの在庫を持っていること。⑤反対に高価な戦闘機や軍艦はいらない、必要な能力に特化した兵器が必要。それは、台湾に米国製の大量の武器弾薬を買わせたい、日本の参戦と、基地や民間空港と港湾の自由使用を認めさせ、軍事費の大幅増、対中戦争での全面協力を取り付け、日本に長距離ミサイルや装備を買わせたいという、あからさまな軍事ビジネスを表したものである。
この机上演習のいかがわしさについては、遠藤誉氏が台湾のTV番組のコメンテーターの発言を紹介している。「24のシミュレーションのうち19回は米日台の側が負けた。なぜ平均すれば米日台の勝利になるのかわからない」「シミュレーションは結果ありきで、その結果になるように誘導している。だからゲームに参加していた二人の友人は嫌になって途中で離脱した」と。コメンテーターは意図的な条件設定がされているとも批判していたようだ。もしも本当なら報告書は意図的に操作された結果、初めから、上のような目的を達成するために作られたものであったということになる。
[2]米政府・軍の対中戦争計画を暴露・批判しよう
(1)2026、27年の対中軍事衝突に向けた恐るべき戦争計画
さて、報告書そのものの分析・評価に移ろう。報告書は、2026、27年に向けて、米国と日本の側が何らかの挑発、軍事衝突を仕掛けようとしていることを示している。そもそも、なぜ中国の台湾侵攻を米国が決めるのか。これに疑問を呈するメディアは全くない。根拠もいい加減だ。1月末、ミニハン米空軍航空機動司令部司令官と対中強硬派のマイケル・マッコール米下院外交委員長が「2025年に侵攻する」と発言した。何と1年早まった。「24年に台湾総統選と米大統領選があるから」が理由だそうだ。こんなデタラメな妄言がメディアで「中国脅威論」となって乱れ飛ぶ。
要するに、「台湾有事」は、中国ではなく日米の側が作り出そうとしているのである。すでに米日政府、米軍・自衛隊は、日本国民が知らないところで、公然とあるいは秘密裏に、対中戦争の具体的準備を進めている。
報告書は、2026年に中国が台湾に侵攻したことを前提に、戦争の最初の1か月間の結果を24通りの条件で机上演習したものである。結果は、①ほとんどのケースで中国の水陸両用部隊(上陸部隊と艦船)は甚大な損害を受け、侵攻作戦は失敗した。②しかし、大きな犠牲を伴う。台湾の海軍、空軍は壊滅する。「基本シナリオ」では米は空母2隻を含む艦船17隻と航空機270機を失い、第7艦隊全部が海底に沈み、在日米軍と艦隊の航空機のほとんどを失う。日本は海上自衛隊の艦船の半分(26隻)と航空機112機を失う大きな損害を受ける。③台湾は電気もインフラもない島になり、陸軍の一部が残されただけ。米国も戦力が再建されるまで長い間にわたって軍事覇権を喪失する、というものだ。
(2)報告書の前提、条件、結果の作為とデタラメ
報告書に沿った米日政府の対中戦争準備と併せて、この報告書の前提や作為、デマについて厳しく批判しておかなければならない。戦争を仕掛ける米日側の一方的な楽観論、中国の反撃力の過小評価、双方の被害の過小評価など、米日と中国の間の戦争の徹底的な過小評価が特徴的だ。
①「中国が台湾侵攻」という前提のデマ
まず、中国が台湾に侵攻してくるという前提がデマである。中国の脅威を煽るために「中国は武力統一を目指している」という一方的で悪意を持った設定に基づいている。メディアは「中国が侵攻する」ことをあたかも当たり前であるかのように扱う。しかし、中国は武力統一を目指していない。昨年の中国共産党第20回党大会でも、時間がかかっても平和的統一を目指すと明言している。外部から独立を唆す干渉、外部からの武力介入があるときに武力行使の権利を保留すると言っているだけである。
中国は今世紀半ばまでの「社会主義現代化」をめざして、何よりも、平和的な国際環境が不可欠なのである。「一帯一路」政策も途上諸国との間の政治的・経済的協力関係を強化するためなのである。むしろ、2027~2030年頃に経済力・技術力で中国に追いつき追い越されようとしている米国の側が、この台頭を阻止しようとして、軍事的圧力を加えて、中国の「平和的台頭」を阻止しようとしているのだ。さらに戦争でボロ儲けするのは米の軍産複合体である。このような状況を全く無視して中国を凶暴な悪者として想定しているのが今回の報告書だ。
要するに、2026年、27年に「中国が攻めてくる」というのは米国の完全な作り話なのである。2021年にロバートソン元インド太平洋軍司令官は「6年以内に中国の侵攻の可能性」があると発言した。共同通信の石井暁記者は、自衛隊幹部が米軍幹部から(5から6年で戦争の可能性があり)「政治的決定を待っていたら間に合わない」と言われたことを伝えている。決定的なのは12月に閣議決定した「安保3文書」が5年以内に中国と戦える体制を目指し、対中戦争態勢を作るために、5年以内に1000発以上にも及ぶ大量の長距離攻撃ミサイルを装備すると決めたことである。
②対中戦争の被害と結果のデタラメと過小評価
報告書の示す結果についてはどう考えるべきか。報告書は軍の損害を取り上げるだけで、戦争によって民間人が受ける被害については全く無視している。民間人については、破壊された台湾の状態がわずかに記述されているだけだ。それは「舞台となった台湾では電気もインフラも失われた島に陸軍の一部が残っている」だけだと。
中国との戦争になれば、国土も産業も壊滅的な被害が避けられない。日本も他人事ではない。報告書では艦艇の大半、航空機の9割は基地、港湾、空港でミサイル攻撃などを受けて壊滅するという判断である。つまり、基地、港湾、空港に大量のミサイルが飛んでくることになる。基地周辺を含めて被害は想像を絶するものになる。台湾だけでなく、日本も戦後の再建の目途が立たない程の壊滅的な被害を受けることになる。
軍の被害も過小評価だ。それでも米軍は1万人(死傷・行方不明)、台湾軍は3500人、中国軍は2万2千人の被害を想定している(日本の想定はない)。この大きな軍事的人的被害に対して、報告書は、たとえ一か月でベトナム戦争以来経験したことがないような大量の人的被害があっても、ひるまずに戦争を遂行し続けることが重要だと主張している。日本はこんな壊滅的な侵略戦争に突き進むのか。
③戦争終結を想定せず
それだけではない。CSIS報告は戦争の初めの1か月間のシミュレーションに過ぎない。報告書は戦争終結の見通しや条件に全く触れていない。しかも、机上演習のシナリオでは「中国本土に対する戦争は起こらない/なるべく回避する」というご都合主義的な想定がされている。それは過去の中国本土を対象とした戦争机上演習がすべて中国軍に勝てない/米軍の敗北という結果に終わったからだ。中国との全面的な通常戦争はあまりにも恐ろしくて想定することを避けているのである。いわば思考停止だ。少し考えればわかることだが、上陸部隊と上陸と補給に従事する艦隊が壊滅しただけで戦争が終わる保証はどこにもない。一旦戦争が始まったら1か月で終わるはずがない。ウクライナ戦争でさえすでに1年が経とうとしている。
米日が中国に侵略し、岸田が「敵地先制攻撃」をするのに、戦場は台湾海峡、東シナ海、南シナ海、日本に限定される、中国は反撃しないと、どの口が言うのであろうか。アヘン戦争以来の帝国主義列強の侵略と半植民地化、明治維新から日中全面戦争までの天皇制日本軍国主義の侵略、戦後の中国革命封殺のための朝鮮戦争と軍事的封じ込め。これら西側帝国主義との180年以上の侵略と圧迫をはね返してきた社会主義中国は、党・国家と全人民の主権と威信をかけて反撃するだろう。
[3]日本の参戦が大前提
沖縄と本土が戦場に
(1)日本・自衛隊の自動参戦計画ー「CSIS報告書」と「安保3文書」は一体
報告書で恐ろしいのは、岸田政権が閣議決定で強行した「安保3文書」が、この報告書と一体となっていることである。日本の参戦が大前提になり、日本にある米軍基地だけでなく、自衛隊基地、民間の空港、港湾まで勝手に勝利の決定的な要素にされていること、多くのシナリオで自衛隊が参戦していることである。
報告書には、日本に対する攻撃から始まるシナリオなどない。「台湾侵攻」に防衛義務などない米軍が勝手に参戦し、自衛隊が連動して即座に参戦するか、米軍の参戦で米軍基地が攻撃されたことを口実に参戦することになって
いる。台湾は中国の一部であり、仮に本土との間で紛争が起こってもそれは中国の「国内問題」であり、日本の「防衛」や「存立」には何の影響も及ぼさない。にもかかわらず、日本は事実上、自動的に参戦することになっているのである。机上演習だけでなく、実際にも日米共同作戦では同様のことが想定されているはずだ。参戦の根拠や国民の意思など問われることもなく、自動参戦、戦争への参加の強制の仕組みが作られようとしている。
(2)自衛隊の無責任な徹底抗戦計画「統合海洋縦深防衛戦略」
岸田政権・防衛省・自衛隊は、この自動参戦を前提に、米政府・軍に指示されるまま最後まで徹底抗戦を考えている。琉球新報は、元旦号で、防衛省の「防衛研究所」が中国との戦闘を想定した研究「統合海洋縦深防衛戦略」を2021年度中にまとめ、ミサイル攻撃を受けることを前提に、残存兵力で中国を海上で阻止する作戦計画を提言していることを暴露している。
報告書をまとめた防衛研の防衛政策研究室の高橋杉雄室長(ウクライナ戦況でメディアに出ずっぱりのあの人物で、れっきとした自衛隊員だ)は、「攻撃を受ける地域の一つとして南西諸島が想定される」「ミサイル攻撃の能力を考えれば、短期決戦では中国が有利となる。しかし、半年~1年ほど時間を稼げば、他地域に配備されている米軍が駆け付けて日米が有利になる」との考え方が構想の根本にあると答えている。
CSISのシナリオは、米軍と自衛隊がすでに作成しているといわれる「台湾有事共同作戦計画」に沿ったものである。それに沿って日本は軍事力だけでなく産業や人々の命や生活が破壊され、瓦礫になっても闘い続け、米軍がやってくるまで待つなどというばかげた妄想にとりつかれている。
(3)「沖縄、日本本土を戦場にするな」の声を挙げよう
岸田政権は対中外交を全くしていない。外交がないのだ。外交ではなく、「対中抑止」=対中軍拡・対中戦争こそが、「日本国民を守る」という詭弁を使っている。CSISや防衛研究所が言うように甚大な被害を受けるが勝てる、だから軍備を増強し、長距離ミサイルを増強して勝利を目指せと進軍ラッパを吹き続けている。
しかし、日本が自動参戦し、「敵基地先制攻撃」をして、戦争に勝利すると考えること自体、常軌を逸した妄想である。戦争では何が起こるか分からない。GDPで2位の中国に、1位の米国と3位の日本が侵略を仕掛けるのである。最初は抑制していても、偶発的衝突がエスカレートする危険は常にある。中国本土への戦争拡大の危険は常にある(シナリオでも一部はそうなっている)。いつ終わるか分からない戦争が続く場合、日本も台湾同様、軍事力だけでなく産業が崩壊するほどの被害を受けて降伏し、それを見て米中が停戦に踏み出すか、あるいはさらに戦争が拡大し米中の核戦争にまで拡大する――地獄のような結末しか待っていない。
しかし、米政府・米軍は、「米国本土は戦場にならない」と高をくくっている。戦場になったのは、アフガニスタンやイラク、シリアへの侵略では中東であり、ウクライナ戦争ではヨーロッパだ。米政府は、無責任に撤退するか、「代理戦争」で逃げる。対中戦争でも、米軍は、不利となればグアムやハワイに主力を撤退させ、戦争は台湾や日本に押しつけるだろう。台湾や中国や日本で大勢の死傷者が出て、国土が荒廃するのを眺めているだけであろう。岸田政権は、このような無責任な米国の戦争計画に、日本全体を引きずり込もうとしているのである。
(4)対中戦争準備ではなく、対中平和共存外交を
日本の反戦・反基地運動にとっての最重要課題は、以下の通りである。
――第1に、矛先を米帝国主義と自国帝国主義に向けて、米日に対中侵略戦争を起こさせないこと、5年後、10年後を想定した戦争計画に反対すること、その具体化の一つ一つに抵抗し、阻止すること。
――第2に、沖縄の闘いと本土の闘いを結び付け、連帯の輪を広げること。
――第3に、対中戦争準備のイデオロギー的準備としての反中・嫌中プロパガンダ、「中国脅威論」に反対し、イデオロギー戦を強化すること。
――第4に、米政府に加担して「経済安全保障」に名を借りた日中経済協力関係の断絶や「デカップリング」、似非「人権」を口実にした対中制裁に反対すること。逆に、日中平和条約の取り決めや基本精神に則り、日中経済交流、人的交流を支持すること。
――第5に、中国に対する軍事的、経済的、政治的な対中包囲網への反対を広く人々に訴え、平和共存外交を要求すること。
(Y)