「人権侵害」認定の政治的報告書を糾弾する
国連高等弁務官事務所(OHCHR)は、8月31日「新疆ウイグル自治区における人権問題の評価」なる報告書を発表した。同自治区における「人権侵害」を国連として初めて公式に認定した報告書だ。中国政府は「予断と偏見に基づく」「はじめから結論ありき」として即座に抗議した。米の圧力に屈した、ニセ証言、デマ情報に基づく報告書発表は、OHCHRの活動そのものを傷付けるものだ。
バチェレ高等弁務官は、5月の末に中国新疆ウイグル自治区を訪問した。「収容所」と非難されている「職業教育訓練センター」(VETC)など関連施設を視察し、元入居者などとも対話した結果、中国政府の説明におおむね納得した上で「テロ対策の方法に改善の余地がある」とのコメントを出した。このバチェレ発言に対して米政府が激しい非難と介入を行い、ウイグル人権抑圧を認める報告書を出すよう圧力をかけた。一方、これに対して、人権を口実に中国への内政干渉をやめるよう求める声明もキューバ主導で69カ国によって署名された。報道によれば、「OHCHR上層部」は報告書を出すことに抵抗したが、バチェレ高等弁務官が退官する8月31日の期限ギリギリに米国に押し切られた形になったという。だが決して米国の思惑通りにはなっていない。10月6日に行われた国連人権理事会(47理事国)で、米国はウイグル人権侵害をめぐる討論の開催を提案したが、賛成はわずか17カ国で葬られた。国際政治の舞台で今後もこの問題は政治的対決点となっていくだろう。
われわれは、「人権」を振りかざした米国の内政干渉、国連への介入を糾弾する。米国こそ人権侵害大国だ。アジア・アフリカ系市民への差別と排除、ムスリム系住民の敵視、警察による暴力的弾圧、刑務所における囚人の虐待、カラードの移民労働者への迫害、新型コロナ放置による膨大な死者等々。自国で人権抑圧・人種差別を拡大している米政府が「ウイグル人の人権」を考えているはずがない。「人権」は中国の威信を傷つけるための道具に他ならない。
ニセ証言、デマ情報をもとにした「人権侵害」でっち上げ
あまりにもいい加減で、ずさんな報告書だ。人権侵害を認定するほとんど唯一の根拠は、全面リモートで行われたという「40人の証言」である。これを軸に、衛星写真や政府の公式声明、白書、統計の恣意的な引用などによってあたかも人権侵害が本当に存在するかのように粉飾されているのである。しかしこれらは全て、これまでエイドリアン・ゼンツやウイグル協会など無差別テロを繰り返してきた東トルキスタンイスラム運動の関係者、オーストリア戦略研究所など西側諜報機関がねつ造してきたものだ。新しいものは何もない。ゼンツは反中・反共情報のねつ造・流布を専門にしている有名なデマゴギストで、主宰する財団は米CIAの隠れ蓑である「全米民主主義基金」(NED)からの資金援助で運営されている。
①証人とされる40人は、女性24人、男性16人、うちウイグル人23人、カザフ人16人、キルギス人1人ということ以外、素性も証言した経緯も全く明かされていない。「収容所」での不当拘束、行方不明、虐待、性的暴力、拷問、強制労働等を証言しているが、2/3はこれまでゼンツや「人権団体」などが「証人」としてきた人たちだ。多くがニセ証言者として明らかになり、中国政府がすでに反論している。元収容者という26人のうち2/3が人権侵害を証言したというが、残り1/3の証言は記されていない。
②人権侵害の裏付けとされる衛星写真はたった2組である。一組は「収容所の拡大」、もう一組は「宗教施設の消失」。衛星写真は、オーストリア戦略研究所が得意とする証拠ねつ造の手法である。しかし報告書は「収容施設の増加を示唆していると推測できる」「宗教施設の破壊の程度について確固たる結論に達することはできない」などとする。衛星写真を証拠として載せながら「示唆と推測」「確固たる結論はない」と、自ら証拠能力を否定する結果となっている。
すでにオーストリア戦略研究所が証拠とした衛星写真は、「収容所」ではなく中学校や高校などの教育施設であることが明らかになっている。同じく「宗教弾圧」の証拠とした宗教施設の破壊は、老朽化や過激派のアジト、カフェへの改装などの理由で施設が改修・廃止されたことを中国政府は認めており、宗教破壊、宗教弾圧ではないことが明らかになっている。
③強制労働は、テロ活動から抜け出すために手に職を付けることがあたかも「勝手に仕事に就かされた」かのように書かれているだけだ。「人権団体」が主張する「新疆綿」の農地の強制重労働・奴隷労働の証拠は示されていない。苦し紛れに「職業選択の自由を奪う」を根拠として「強制労働」と批判している。
④新疆におけるウイグル人の出生率低下をゼンツは「人口の減少」にすり替え、「民族抹殺」を喧伝した。報告書は、同じ統計を利用して出生率低下を「避妊具使用の強制」と結びつけている。しかし、ウイグル族の間で避妊具の使用率が高いことは学術研究で示されている。「避妊を強制された」という証人は人物まで特定されウソであることが明らかになっている。報告書はウイグル族に対する人口削減政策を証明できていない。むしろ一人っ子政策での少数民族優遇を認めた上で、中国の産児制限政策を「性・生殖についての自己決定権」の人権侵害を指摘するにとどまっている。
⑤報告書は、ウイグル語を教える学校が閉鎖された等の証言に言及している。しかし他方で小中学校での少数民族言語教育のカリキュラム化や、大学・大学院での民族言語を学ぶ学生の増加などを指摘している。少数言語を尊重しながら標準語教育を進める政府の政策を肯定的に評価する記述となっている。これまで標準語教育の拡大を「民族言語教育禁止」「民族文化抹殺」などと煽ってきたメディアとは一線を画している。
トランプ政権以降、ウイグル人権問題をターゲットに国連に介入
報告書は、2017年後半から新疆ウイグル自治区の人権侵害についての報告が国連に寄せられ、OHCHRが対応せざるをえなくなる経緯が書かれている。それはちょうど、トランプ政権が誕生し、米中貿易不均衡を使って対中対決を前面に押し出す時期と重なる。
もともと中国と国連は協力しながらテロ対策を進めてきた。発端は09年のウルムチでの暴動事件だ。中国政府は国連に対して「テロリスト、過激派勢力によるテロ攻撃である」との報告書を出し、国連は中国にとどまらず「国際社会」全体にかかわる問題として対応する必要性を確認した。14年に中国は「ストライク・ハード・キャンペーン」を開始し、中国テロ対策法や新疆テロ対策法を策定し、その一環として「職業教育訓練センター」が作られた。国連はテロ対策と人権保護を両立させるよう助言し、中国政府もこれに応じて慎重な対応をとってきた。新疆ウイグル自治区はもっとも貧しい地域の一つだが、14年から18年にかけて230万人が貧困から抜け出した。貧困対策とテロ対策をセットとして遂行し、16年以降テロ事件が発生しないまでに抑え込んだ。このような協力関係をトランプ政権がひっくり返したのである。
中国の真実を伝え、バッシングに対抗しよう
米国は新疆ウイグル自治区をターゲットに「100万人の拘束」「ジェノサイド」「奴隷労働」「民族文化抹殺」等々と非難してきた。メディアも垂れ流してきた。しかし報告書はそのような結論を出していない。制裁と不買運動にまで発展している新疆綿の強制労働、奴隷労働についての言及がない。「100万人の拘束」の認定もない。「数万人から100万人」の推定があるだけだ。「宗教施設の破壊」も「現段階では確定できない」。「ジェノサイド」も「民族文化抹殺」もはじめから報告書の検討対象になっていない。あるのは、信憑性が疑わしい、リモートで行われた人権侵害の証言の個々の事例だけだ。
中国は突如起こった人権批判の高まりの中、新疆ウイグル自治区の本当の姿を見てもらおうと、18年8月に国連人権高等弁務官に招待状を送った。結局新型コロナの拡大などで訪問がかなわず、今年5月にようやく実現した。ところがこの訪問の内容が報告書にない。バチェレ高等弁務官は職業教育訓練センターで元研修生と話をし、市民社会組織のリーダーや学者、宗教指導者などと交流したと伝えられている。これらが一切証拠・証言として出てこない。本来まず第一に「証拠」として示されるべき内容だ。
新疆ウイグル自治区については、送電線網・通信網の整備や貧困からの脱却の実現、教育施設・職業教育訓練センターを出ての自立、標準語教育による就業、「新疆綿」の収穫への出稼ぎによる生活安定化などの積極的な政策が報じられているし、具体的な証言もある。報告書はこのような事例や証言を一切書いていない。中国に不利な証言だけをつなぎ合わせて報告書に仕立て上げた、そのようなお粗末なものなのである。
だが、人権侵害を認めた報告書を国連が公式に発表した意味は決して小さくない。人権侵害の証言部分だけがひとり歩きし、新疆ウイグル問題が今後も中国バッシングの主要な矛先であり続けるのは間違いない。米の介入による国連報告書の偏向、偽情報による人権侵害のウソを暴露・批判し、新疆ウイグル自治区における貧困撲滅の闘いなど真の姿を伝えていこう。
(NS)