ペロシ米下院議長の訪台を糾弾する

「一つの中国」原則を踏みにじるな
○「台湾有事」挑発を即刻中止せよ

バイデン政権もペロシ訪台を支持・支援。対中挑発に利用

(1) 米国下院議長ナンシー・ペロシが8月2日、米空軍機で台湾に入った。「一つの中国」政策を空洞化させ、台湾独立派を鼓舞し、中国の国家分裂を煽動することが目的だった。われわれは、米国による対中内政干渉、国家分裂策動に強く抗議する。国家主権、領土主権の侵害を厳しく糾弾する。
 ペロシ議長は確信犯の反中強硬派だ。冬期北京オリンピックへの各国首脳の不参加を呼びかけ、中国攻撃と台湾独立を唆してきた。今回のアジア歴訪も他の国はカムフラージュにすぎず、はじめから台湾独立の煽動が目的だった。
 中国はペロシ訪台に毅然とした態度で厳しい批判をあびせた。先月7月28日、バイデン・習近平会談でもペロシ訪台を取り上げ、「火遊びを止めろ」と最大級の警告を行い、中止を要求した。中国国防部も「絶対に指をくわえて見過ごすことはない」と警告した。それにもかかわらず強行したのだ。
 台湾でも緊張を持ち込むなと抗議の声が上がった。ペロシが泊まったホテルの前では抗議活動が続いた。ペロシのお膝元サンフランシスコなど米国内でも起こっている。
 ペロシは蔡英文との会談や声明で、「揺るぎない決意で台湾と世界の民主主義を守る」など、好戦的発言を連発した。「民主主義」はまさに米帝国主義が繰り返してきた侵略戦争の旗印だ。

(2) 今回の訪台はペロシ議長単独の暴走、個人的スタンドプレーではない。バイデンとペロシは三文芝居で対立を演出して見せたが、政治の世界ではこれを「連係プレー」「役割分担」という。バイデンはペロシに訪台中止を要求しなかった。結局は対中挑発加速の方向で両者が一致した。対中軍事緊張を煽ることで中間選挙での劣勢を挽回しようと、実際には政府による全面的な支援での訪台となった。ペロシが搭乗したのは米空軍機であり、軍による大規模な護衛とバックアップ体制をとり、ペロシ訪台を「台湾有事」の予行演習として最大限活用した。
 カービー戦略広報調整官は「ペロシ議長には訪台する権利がある」と開き直った。ブリンケン国務長官は「我々は彼女の決断を尊重する」と政府として支持を表明した。
 今回の訪台は、米帝が欧日の帝国主義に呼びかけ対中軍事包囲と挑発を強め、アジアのNATO化を進める中で起こった。それが25年前のギングリッチ下院議長の訪台との決定的な違いだ。当時は米中関係が良好な方向に向かう中でのことであり、しかも彼は台湾海峡危機の修復が目的で、直前に北京を訪問した。
 ところが今回は米主導での新たな戦争挑発の号砲となった。「台湾有事」は米中間、中国・台湾間の両岸関係だけの問題ではない。日本やアジア太平洋を含む全世界を巻き込む大惨事を招きかねない。余りにも危険な火遊びだ。

西側各国指導者に訪台攻勢を要求。「一つの中国」破棄の突破口狙う

(1) われわれは、「一つの中国」原則をないがしろにし、破棄する動きに断固反対である。それは中国が強硬に反対する国家分裂に直結するからだ。また、中国人民にとって、アヘン戦争以来、帝国主義列強が中国を侵略し、分裂させ、半植民地化してきた屈辱の歴史の再来を彷彿とさせるからだ。
 台湾でペロシは自分に続いて西側各国指導者に訪台するよう呼びかけた。「一つの中国」原則のなし崩しの破棄に向けて新たな突破口を開くこと、これが最大の狙いだ。すでに英国下院議員団が年内に訪台することを表明している。下院中間選挙で共和党が大勝すれば、共和党議長が超党派議員団を引き連れて大挙して訪台する可能性が高い。米国は様々な国際機関に対しても、台湾を独立国家として代表を受け入れるよう働きかけを強めるつもりだ。

(2) ペロシ訪台は、「一つの中国」原則、1972年以来米中間で交わされた三つの共同声明に対する完全な違反である。これら米中間の公約で米国は「台湾は中国の一部であること、中華人民共和国政府が正統な政府であること」を認め、米と台湾との関係については「商業的、文化的、その他非公式の交流に限る」ことを認めてきた。三次共同声明(82年)では米側が「台湾関係法」で始めた台湾への武器供与を減らすことを認めた。米国政府のナンバースリー(大統領権限継承2位)

で米政府の高官である下院議長が議会幹部を伴い訪台することは、米台の関係を事実上の公式外交関係にレベルアップする試みだ。
 台湾の独立志向の蔡英文や独立派の動きを「台湾の民主主義」と称賛し激励することは、中国の一地方である台湾の分離独立と中国の国家分裂を唆す国家分裂工作そのものだ。明らかに中国の主権と領土保全を侵害し、台湾海峡と周辺の平和と安全を損なう行為である。ペロシ訪台は、中国に対する公然たる内政干渉、主権と領土の侵害であり、「一つの中国」原則を公然と蹂躙する行為である。われわれは断固反対する。

(3) 米インド太平洋軍司令官が発言した「中国は6年以内に台湾に武力侵攻する」という神話が、西側政府・メディアで増幅されて世界中に垂れ流されている。だが、これは全くのウソ・デタラメだ。これは、中国のGDPが米国を追い越す7~8年後を見据えて、米政府が中国の国力の弱体化、戦争挑発と国家分裂の目標を設定した対中戦争計画なのである。自分の戦争計画を中国の侵攻計画としてでっち上げたのである。中国の党・政府が、台湾問題が「レッドライン」であり、「核心的利益」と主張しているのは、この米帝国主義の戦争計画に警告しているからだ。
 台湾問題は中国の内政問題だ。中国自身が台湾との対話で解決していく問題である。中国共産党と中国政府は、「92共識(92コンセンサス)」に基づいて動いている。それは、たとえ時間がかかっても両者が同意した上での平和的統一である。
中国側からの武力統一の選択は、米軍と台湾独立派が暴走した場合に限られる。現に、台湾の世論は圧倒的に「現状維持」だ。誰も戦争の危険を自分から求める者などいない。だから「独立志向」の民進党と蔡英文も住民に独立を問うことができる状態にない。中国と台湾が自分たちで将来を選択できるように、内政干渉しないことが重要なのである。

訪台は単なる政治外交問題ではない。軍事問題だ

(1) ペロシ訪台は、単にペロシ下院代表団が台湾を訪問するという政治外交問題ではない。ほとんど報道されていないが、米軍事力が大々的に台湾周辺に動員されたのだ。軍隊を伴うペロシ訪台は戦争の危機をはらむ軍事問題でもある。
訪台計画は、バイデン大統領の指示、政府・国務省の協力の下でしか調整できない。米政府・米軍は7月上旬から南シナ海各地で対中軍事威嚇と挑発を繰返してきたロナルド・レーガン空母打撃群を7月31日に台湾近海に呼び戻した。南シナ海を飛ばず迂回してフィリピン南方から台湾に向かったペロシ搭乗機を空母艦載機に護衛させた。台湾近くの沖縄近海にはF35を積んだもう一隻の準空母=強襲揚陸艦トリポリを配備した。ペロシ訪台の2日には嘉手納基地には22機もの空中給油機が結集し、嘉手納のF15全機を台湾周辺に送り込んで戦闘を支援できる体制を取っていた。いわば準戦時体制で臨んでいたのだ。4日以降は中国軍の演習、ミサイル発射を観測・監察するために多数の偵察機を飛ばしている。
つまり、ペロシ訪台時、台湾周辺は極度の軍事的緊張状態にあったのだ。中国側が猛反発する中でペロシが米軍の大規模な護衛を伴い強行着陸することは、一歩間違えば中国軍機がペロシ搭乗の米空軍機の阻止に出たり、警告射撃につながる。両軍の衝突があり得る事態であった。米政府による冒険主義的戦争挑発行動だったのだ。習近平の「火遊びをするな」は文字通りそういう意味であった。
 しかし、中国側は自制し、あえて強硬な対抗措置をとらなかった。米・NATOは、ウクライナ戦争では、ウクライナのNATO加盟と中距離ミサイル配備、ロシア語系住民虐殺、対ロシア戦争準備などで、繰り返しロシアを挑発して先制攻撃させることで主導権を握った。今度は対中国で同様の計画を立てているのだ。米帝と西側帝国主義は、徹底的に中国を挑発し、チキンゲームのように内政干渉や戦争挑発を繰り返し、中国に手を出させようとしている。中国側はこの挑発に乗らなかった。

(2) 今回のペロシ訪台は米主導の「台湾有事」での典型的な挑発の姿を明らかにした。要人を軍用機で訪台させる。搭乗機を米軍が空と海からの両方で「護衛」する。周辺海空域で米中両軍は極度の接近、緊張状態に入る。これをメディアを使って全世界に中国の「蛮行」とプロパガンダし、台湾独立の宣伝と軍事的挑発を同時に推し進めよういうものだ。
 実際、中国は米の「台湾有事」計画には2つの柱があると考えてきた。①台湾の独立派を支援し暴走させて独立宣言させ、武力紛争になる場合。民衆の暴動を政治的・資金的・組織的に指示・支援し、世界中のメディアで煽り立てる、いわゆる「カラー革命」方式。②「航行の自由」と称して、東シナ海、台湾海峡、南シナ海で米軍主導で日本や西側の軍隊が軍事挑発する場合。まさに今回のペロシ訪台は、この二つのケースを同時に実行したのだ。この意味で、西側諸国要人と軍事力による護衛のセットでの挑発は、極めて危険な新たな方式である。米帝国主義の冒険主義的戦争挑発を許してはならない。

(3) 今回に似た事態は1996年に米が仕掛けた第三次台湾海峡危機でもあった。台湾総統選挙での独立派伸長を米政府は2つの空母機動部隊を台湾周辺に派遣し、遊弋させて全面支援した。「一つの中国」原則に風穴を開ける勝負に出たのだ。これに対抗して中国側は軍事演習・ミサイル発射で牽制したが、空母展開を阻止できなかった。当時、米軍の軍事力、空母部隊の攻撃力が圧倒的だったからだ。
 中国が台湾海峡や中国周辺で防衛力強化に着手したのは、この台湾海峡危機が転換点であった。その結果、この25年で中国軍は、この地域で米国に対抗できる軍事力を持つようになった。中国側が一方的に圧倒される姿はもはやない。その証拠にペロシ訪台時には護衛についた米空母は直ちに台湾東方の沖縄方向に退避した。同じ戦域に入るが、武力衝突の可能性から遠ざかったのだ。逆に中国側はミサイル発射も軍事演習も、即応対応した。中国周辺の軍事バランスは中国の側に有利に変わったのである。戦争挑発を繰り返し「台湾有事」を振りかざしても、米軍の冒険主義的行動は、今後ますます限定されていくだろう。中国を屈服させることができなくなった、これが西側帝国主義が騒ぎ立てる「ルールに基づく国際秩序の現状変更」の本質なのである。
 中国はペロシ搭乗機を阻止する等の行動は取らなかった。しかし、台湾海峡中間線を越えた行動、ミサイルの台湾島越え、海岸から12海里以内への演習領域の設定など、これまで中国側が自制してきた制限を一部取り払った。米に対しては8つの制裁をおこなった。そのうち3つは米中軍間の協議や対話の中止であり、残り5つは気候変動問題や国際間犯罪などでの協力の棚上げだ。慌てた米は偶発衝突防止などの「ガードレール」を置こうとしたが、挑発を止めることが先決と拒否された。元々今回の事態を招いた原因と責任が自国であることを自覚すべきだろう。

岸田政権の対中戦争先兵化反対 中国との平和共存を

(1) 日本政府はペロシ訪台でも米政府の最も忠実な追随者、同調者となった。韓国・尹大統領が直接会談を見送り、中韓外相会談で内政不干渉を確認したのとは対照的に、岸田首相は8月5日、ペロシと会談し、ペロシ訪台を支持した。両岸関係に緊張と対立を持ち込んだのが米であるのに、中国軍の演習だけを「中国による脅迫的行動」と非難した。さらに、G7外相会議は、中国に全責任をなすりつけた。これに対して中国は、まるで1900年の義和団の乱の際に内政干渉した8か国連合軍のようだと非難した。
 日本政府はASEANの会議でも同様の主張を繰り返し、軍事演習の中止を主張した。中国の王毅外相は、中日の外相会談を拒否し、米国の主権侵害に手を貸すな、50年も台湾を植民地にして苦しめた日本には発言資格はないと批判した。当然のことだ。

(2) 何よりも問題は、日本政府が米政府に同調し対中で政治的軍事的挑発をエスカレートさせていることだ。岸田首相は、「台湾有事」を念頭に「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と発言し、「中国の脅威」を煽り立て、それを対中軍拡・対中戦争準備に最大限利用している。軍事費倍増、9条改憲に利用している。
 日本の反戦平和運動の最大の課題は、日米欧政府と主要メディアが作り上げる恣意的で悪質な「中国の悪魔化」「中国脅威論」など反中・嫌中イデオロギーを徹底的に批判し、対中戦争準備・対中軍拡を阻止することだ。
 ペロシ訪台に先行して、石破ら防衛大臣経験議員団が訪台し、中国の脅威、「台湾有事」対応の必要と蔡英文政権への連帯を確認した。米政府の「台湾有事」策動への同調、東シナ海、台湾海峡、南シナ海での米海軍の軍事挑発への協力、新疆ウイグル問題などの中国制裁とデカップリングの対中政策など、日本の対米追随はさらに加速している。
 日本政府は、この地域での緊張激化、戦争挑発の共犯者である。日米両帝国主義が地域の不安定と戦争の脅威の最大の源泉だ。今回の事態でも明らかなように、日本・南西諸島の米軍と自衛隊基地は「台湾有事」での最も重要な出撃拠点であり、自衛隊部隊は対中戦争の先兵を目指している。一旦、戦争が勃発すれば、台湾と日本はウクライナのように米軍に代わって中国と戦争することになる。南西諸島・沖縄だけではなく、日本全土が戦場になる危険がある。
 米主導の「台湾有事」挑発に断固反対する。自衛隊の対中戦争先兵化に反対しよう。岸田政権に対して、中国との平和共存と経済協力体制を要求して闘おう。

2022年8月9日『コミュニスト・デモクラット』編集局

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