【第97号主張】
米日帝国主義の好戦性の異常な高まりと反戦運動の任務

○バイデン=岸田は「台湾有事」挑発をやめよ
○対中軍拡反対 軍事費倍増反対
○沖縄・南西諸島・本土全体を戦場にするな

[1] 米帝一極支配復活の野望と反戦運動の基本的任務

(1) われわれは今、世界的激動のどのような位置にいるのか。
――米帝国主義は、ロシアを挑発し、ウクライナ侵攻に追い込み、それを利用して軍事覇権を世界中に拡大している。ロシア軍を敗北させ、対ロ制裁でロシア経済を破綻させようとしている。NATO諸国とヨーロッパ帝国主義を米軍事覇権に従属再編し、石油・天然ガス利権をロシアから奪い取った。次に、全力を挙げアジアに戦力シフトさせるためにアジアを歴訪した。次の標的を「台湾有事」に狙いを定め対中戦争準備を加速し始めた。
 ウクライナ戦争の挑発者であり、世界最大の侵略国家アメリカが、まるでファシスト・プーチンを撃退する世界平和の守護神であるかのような転倒した、真逆の幻想をつくり出すことに成功した。世界中で世論と、リベラルや左翼や反戦運動の多くが徹底抗戦とウクライナ勝利に加担し、攻撃兵器供与と膨大な軍事費に賛成する異常事態となっている。
――しかし、ロシアの軍事侵攻から100日が経った現在、事態は逆回転し始めている。早期終結というプーチンの思惑も外れたが、快進撃のように見えたバイデンの目論見も崩れつつある。ロシア軍は簡単には崩れなかった。東部ドネツクに兵力を集中し、慎重な戦いを進めている。双方が陣地戦になって長期の時間がかかる攻防になった。とりわけウクライナ軍の疲弊と損耗は激しい。
 今はまだ、世界中で瞬時に形成された米主導の戦時翼賛体制は崩壊してはいない。だが、経済制裁はロシア経済を破綻させるどころか、西側帝国主義諸国に物価急騰となってはね返っている。インフレ物価高と生活悪化は労働者・人民の不満と怒りをかき立てずにはおかない。
――それだけではない。バイデンと米帝国主義の戦時体制絶頂期のここ数ヶ月にあっても、中国やキューバの社会主義諸国、ベネズエラやニカラグアなどの社会主義指向諸国、反米イラン、ロシア経済封鎖に反対したインドやASEAN、アフリカなど数多くの途上諸国が、米帝の戦争動員に真っ向から反対するか、加わらなかった。

(2) そもそもバイデンによるウクライナのNATO加盟策動と対ロシア戦争挑発も、中国社会主義の台頭とその世界的影響力を抑え込むための対中軍事包囲網も、米帝によるグローバルな軍事力の展開や軍事介入も、崩れ始めた米帝一極支配を復活させようとする戦略的野望である。
 米帝一極支配にとっての最大の脅威は、中国の経済力が7~8年後に米国を追いつき追い越すことである。それは中国が新興・途上諸国を引きつけ、西側帝国主義諸国の同盟関係を突き崩す原動力となる。社会主義中国を先頭に反米・反帝諸国が連携を強めることは、米帝を盟主とする西側帝国主義全体の新植民地主義的な収奪と支配を掘り崩す。途上国収奪は、今日においても西側帝国主義とグローバル金融資本にとっての最大の利潤の源泉であり存立基盤なのである。それが奪われるのが恐ろしいのだ。だからそれまでに、中国の経済力をそぎ落とす必要がある。米軍司令官の「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性」発言は、6年以内に中国を挑発して戦争に持ち込むという戦争宣言なのだ。
 米ソ冷戦時代、ソ連は米国と比べて経済力は3分の1だったが、軍事力はほぼ同等であり、米はソ連に直接戦争を仕掛けることはできなかった。現在、ロシアは経済力では米に対して圧倒的に劣位だが核戦力では唯一米と並ぶ核軍事大国だ。中国は核戦力、軍事力では劣位だが、経済力ではすでに米の7割程度に達し、さらに急速に追いつきつつある。中ロが協力と連携を強めることに米は強い危機感を感じている。まず狙われたのはロシアだったが、本命は社会主義中国である。米の軍事的優位がある間に何としても中国に打撃を与えたい。それが帝国主義の階級的本能だ。かつてソ連を崩壊に追い込んだレーガン軍拡の夢をもう一度というわけだ。
 反戦運動の最重要任務は、米国のこの帝国主義的軍国主義の新たな侵略性、好戦性、凶暴性の全体像とその諸原因を暴きだすこと、米帝の強さと弱さを正確に把握し、それをどう押さえ込み阻止すべきかに関心を集中すること、反米・反帝の反戦運動の任務とその闘いの諸条件を明らかにすることである。
米帝国主義が世界平和と人類にとって最大の脅威となっている時に、「ロシアは帝国主義」「中国が帝国主義」などと言っている場合ではない。このような議論は、現在の世界平和への脅威がどこから来るのかを問うこともせず、米帝の新たな侵略性、好戦性、凶暴性を無視・軽視し、米帝と社会主義中国、資本主義ロシアを同列視し、この米帝の侵略策動をいかに阻止すべきかという本質的議論を逸らせる、許しがたい米帝免罪論である。

[2]「台湾有事」の特別の危険性と米帝国主義のアジア覇権追求

(1) バイデンと米帝国主義は、ウクライナ戦争に続く次の攻撃の矛先を社会主義中国に、主戦場を台湾に据えた。5月の日米首脳会談で、バイデンは明らかに台湾問題で一歩踏み込んだ。日米共同声明では「不可欠な(indispensable)要素である台湾海峡」と明記し、台湾の位置づけを格上げした。「台湾有事」の際に米国は軍事的に関与するのかと記者会見で聞かれて、バイデンは「そうだ」「それがわれわれの決意だ」と答えた。明らかに従来の「あいまい戦略」を超えて「台湾有事」に軍事介入する発言であった。バイデンはそれ以前にも、大統領就任式に初めて台湾の要人を招待し、超党派の議員を台湾へ送り込むなど執拗な挑発を繰り返している。
 「台湾有事」の特別の危険性を人々に訴えねばならない。民進党は独立志向が強いが祭英文政権の公式の立場は「現状維持」である。習近平も時間がかかっても平和的統一を目指している。「一つの中国」の統一は国内問題として何十年かかっても平和的に解決すべきという立場だ。このままでは、緊張も戦争も起こらない。何が何でも戦争に持ち込まねばならない。バイデンと米帝の最大の関心は、どうやって「台湾有事」を人為的に起こすのか、だ。
 中国の党・国家が恐れるのは、2つのケースだ。一つは、直接的軍事挑発。米日と西側帝国主義が絶えず台湾海峡や南シナ海で中国を軍事的に挑発し続け、帝国主義メディアを使って全責任を中国に転嫁し、中国側に堪忍袋の緒を切らせる策略である。最近では、オーストラリア哨戒機やカナダ軍機が挑発行動を行った。緊張を激化させているのは西側なのに、中国を悪魔にする手法はお手の物だ。
 もう一つは、香港型の「カラー革命」方式だ。米や西側帝国主義が「一つの中国」合意を破棄または骨抜きにし、台湾独立派に政治的・人的・財政的にテコ入れする。総統選挙で勝利させ、独立宣言をした後に、米と西側帝国主義が独立を承認し、米との軍事同盟締結から一気に中国と西側帝国主義の軍事的衝突が現実のものになるケースだ。バイデンの「台湾有事の際の軍事的関与」はこの2つのケースを想定したもので、すでに米CIAや他の諜報機関や国務省、「人権団体」という「大衆運動」煽動組織と西側メディアが一体となって暗躍している。現に台湾軍訓練のために米軍事要員が配属されていることを蔡英文自身が認めた。
 バイデン政権は、ウクライナを台湾に置き換えてこの2つのケースを具体化し始めた。だが、台湾とウクライナは決定的に違う。米国が東シナ海、南シナ海を介して直接中国を包囲し、軍事的に対峙しているのである。米中が直接戦闘になりうる。危険性ははるかに高い。しかし米本土は、太平洋を挟んで中国から遠く離れているから戦場になることはない。台湾や日本が戦場になっても痛くも痒くもない。台湾や日本の人民が反対しなければ、米国の対中戦争挑発のエスカレートは度を超す危険があり得る。

(2) 岸田政権は、沖縄だけではなく日本全土を対中攻撃基地に変貌させようとしている。しかもその全貌を政府もメディアも伝えないため、人民は全く知らない。われわれは日本全土の基地化を暴露する必要がある。
――米軍は「6年以内」に向けて台湾作戦計画を立てている。自分の方から仕掛けるつもりだ。自衛隊も米軍と連動して動く計画だ。安倍元首相が「台湾有事は日本有事だ」と公言したのも、米軍のこの作戦計画を知っているからだ。
――岸田は「骨太方針」に初めて「台湾」を明記し、米の「6年以内」に合わせて「5年以内の防衛力抜本強化を確認し、NATOはGDP比2%以上が目標だと書き込んだ。
――緊張が高まれば、米軍は海兵隊対艦ミサイル連隊を南西諸島に送り込む計画だ。嘉手納や岩国は最前線基地だ。さらに米は日本への中距離ミサイルの配備も行うつもりだ。既に南西諸島には自衛隊の対艦・対空ミサイル部隊配備を進め、対中国戦争を前提に軍事要塞化を進めている。
――自衛隊は、中国が台湾周辺で軍事演習や航行禁止区域の設定を行うと想定して、米軍と一緒に「航行の自由」作戦の実施を計画している。
――米軍は過去2~3年、中国との戦争準備を念頭に日米豪等同盟国との共同演習、共同行動を緊密に繰り返すようになり、南シナ海、台湾海峡、東シナ海で空母機動部隊、艦隊を行動させ、「航行の自由」作戦などの威嚇、偵察を繰り返した。対中国の戦争準備とそのための同盟国との軍事態勢構築の危険性はトランプ時代の態勢とは比較にならない。
 軍事包囲=NATOの東方拡大とウクライナの軍事挑発がロシアの侵攻を引き起こしたことを忘れてはならない。同様の挑発を中国に仕掛けることは戦争への道だ。

(3) バイデン大統領は5月20~24日に就任後初の訪韓、訪日を行い、それぞれ首脳会談を行い、さらに東京でクアッド首脳会談を行った。米韓首脳会談では対北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)での同盟強化と軍事力増強と核による拡大抑止、北朝鮮の非核化と包囲を確認し、さらに米韓日の軍事同盟強化の方向性を確認した。だが、中国を名指し非難することは韓国が反対した。クアッド首脳会談では、米日豪が求めたロシア、中国に対する非難と対決にインドを引き込むことはできなかった。
 対中戦争準備で好戦性を前面に出したのは日米首脳会談であった。中国を「力による現状変更」を目指す勢力と頭から決めつけ、台湾への脅威、南シナ海・東シナ海での脅威を訴え、中国非難を垂れ流すものであった。対抗するために「拡大抑止」(日米の軍事力強化による封じ込め)、米による核抑止を確認した。軍事だけでなく政治・経済での包囲を確認し、中国の参加するTPPやRCEPに対抗して、露骨に中国外しを前提とする「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)を提唱し、日米を中心に13か国で発足させた。日米帝国主義が軸になって中国社会主義に対抗し、経済的「デカップリング」を推進する計画だ。しかし、これも危険性と同時に、参加各国は面従腹背を決め込んだ。

[3] バイデン政権の異常な侵略性・好戦性の全体像、軍事・政治・経済構造を暴こう

(1) バイデン政権の軍事外交政策は、トランプ政権をはるかに上回る侵略性、好戦性がある。これまで米帝国主義は途上国や自分より弱小の国を相手に侵略戦争を仕掛けてきた。ウクライナ戦争は、直接的にはウクライナが戦っているが、本質的には米帝による対ロシアの帝国主義戦争である。米・NATOとの欧州規模の戦争拡大の危険があるのに、さらには核戦争の危険があるのに、核・軍事大国ロシアに戦争を仕掛けたこと自体が異例なことである。
 しかも米ロ戦争の最中に、インド太平洋で社会主義中国に対して「台湾有事」を梃子にもう一つ戦争を仕掛けているのだ。直近では北朝鮮に対抗して地対地ミサイルを発射した。
 それだけではない。欧州とアジアだけでなく、アフリカやラ米カリブで米軍統合司令部(米軍アフリカ軍、南方軍)がフル稼働し、世界中で侵略・介入を繰り返している。コロンビアの大統領選挙で先頭を走る左派候補を恐怖し、公然と脅迫し、CIAが大統領候補暗殺を企てている。ソマリアには再び米軍を送り軍事介入に踏み切った。シリアでも軍事顧問団がイスラム武装組織とアサド体制転覆を企てている。
 米帝国主義がこれほどグローバルに戦争や軍事挑発を同時に進めたことは過去に例がない。

(2) このような米帝国主義の好戦性、侵略性、凶暴性の異常なまでの高まりは、一体どこから来るのか。その全体像、軍事・政治・経済の構造を列挙しよう。
 まず第1に、米軍事戦略の侵略性がかつてなくエスカレートしている。軍・諜報機関の対中強硬派が前面に出ている。バイデンは今年3月の「国家防衛戦略」で中国を「最重要の戦略的競争相手」に定めた。トランプ時代には中国とロシアを脅威・競争相手とする戦略に転換したが、バイデンは中国を戦略的主敵に格上げしたのだ。そして軍事同盟国・準同盟国を総結集し、軍事・非軍事を含めた多様な手段を総動員する新しい「統合抑止」という概念を打ち出して、中国を打倒する戦略を公然と掲げたのだ。ウクライナ戦争も、経済制裁も、対中軍事シフトとバイデンのアジア歴訪も、全てこの新しい軍事戦略に基づくものである。トランプは同盟国と対立する傾向があったが、バイデンは同盟国・準同盟国を広範囲に抱き込もうとしている。
 バイデン政権は、この軍事戦略に基づき、新たな戦争をつくり出した。バイデンは去年8月末、20年間にも及ぶ対アフガニスタン侵略戦争に事実上敗北しカブールから軍を撤退させた。だがその時期に、すでに米国はウクライナへの大量の武器供与(ジャベリン対戦車ミサイル、スティンガー対空ミサイル等)を開始していた。昨秋にはウクライナのNATO加盟がロシアにとっての「レッドライン」であり、ウクライナが固執すれば戦争になることをわかった上で、ウクライナにNATO加盟をそそのかし続けた。アフガニスタンから撤退するや間髪を入れず、対ロシア戦争の準備を進めたのである。そして今、この戦争を継続しながら同時に、社会主義中国に対して「台湾有事」をつくり出し始めた。
 第2に、米国経済の構造的衰退の下で、ますます米経済全体が戦争と軍産複合体に依存する傾向がエスカレートし、米グローバル金融資本の中から対中強硬論が台頭している。その背景に米国経済が恒久的な戦争経済となり、成長産業がもはやなくなったという事情がある。
 重厚長大産業や耐久消費財産業は自らが推し進めたグローバル化の下で崩壊した。その後、米国経済を維持してきた金融・証券産業も金融バブル膨張の限界に達している。金融=投資ファンド大手が次々と軍需産業や民間軍事請負会社への投資を増やしている。ジョージ・ソロスやチャールズ・コッホなど大富豪が、中国の共産党支配を打倒し、ごっそりその市場を略奪する野望を露骨に前に出している。半導体産業やハイテク・通信産業も宇宙軍拡を梃子に軍需への依存を強めている。ビッグ・テック(Alphabet・Apple・Meta・Amazon・マイクロソフトなど)も軍需産業との取引を増大させている。イーロンマスクのSpaceXもテスラだけではなく宇宙産業=軍需へ傾斜し政府調達を拡大している、等々。米のグローバル金融資本は目先の中国市場に左右されるよりも、次第に全体として対中強硬論を支持するようになっている。極めて危険なことだ。
 アフガニスタン戦争の後、戦争で人々の生き血を吸う吸血鬼である産軍複合体は、次の戦争利得を求めていた。だから、軍産複合体も石油メジャーも巨利が転がり込むウクライナ戦争を歓迎し、その継続を望んでいる。ウクライナ追加支援の400億ドルの大半がレイセオン・テクノロジーズ、ジェネラル・ダイナミクス、ノースロップ・グラマン、BAEシステムズ、ロッキード・マーチン、ボーイングなど軍需産業の売り上げに消えている。軍需独占体や石油メジャーなど米グローバル金融資本のむき出しの戦時利得追求が戦争を長期化させ、新たな戦争を生み出しているのだ。
 第3に、軍・産業に民主・共和党と議会が加わる。今米国は、準戦時体制の下で、秋の中間選挙に挑もうとしている。バイデン民主党は、対ロ・対中戦争挑発の真っ只中で、共和党に勝利しようとしているのだ。バイデン政権下で、旧来からの金融寡頭制支配層の2つの潮流、新保守主義とリベラル強硬派が合流・一体化し、民主党も共和党もそろってウクライナへの武器援助と戦争継続を支持するという戦争国家体制が歯止めなく暴走している。400億ドルの軍事費は、上院では賛成86、反対11、下院でも賛成368、反対57で可決。反対票は全て共和党だった。民主党プログレッシブ(左派)も全員が賛成した。かつて、ベトナム戦争やイラク戦争で反対票を投じたリベラル派は消滅した。民主党全体が「戦争党」に変質したのだ。武器・軍事支援を行うレンドリース法も超党派で可決された。このことは、「台湾有事」と対中戦争時も再現される危険がある。
 左翼・共産主義運動の最左派が率いる反米・反帝の反戦運動が孤軍奮闘しながら、草の根から労働者・人民を組織しようとしている。

[4] 米帝一極支配を突き崩す諸条件――社会主義中国が構築する「多極化」世界

(1) 「台湾有事」で米帝と西側帝国主義が対中戦争に踏み切るのが早いか、それとも社会主義中国の防衛力と経済力の総合力の急速な高まり、それと連帯した反米・反帝勢力の対抗力が未然に対中侵攻を阻止できるのか。時間と闘いになっている。
 米と西側帝国主義の強さだけではなく、その脆弱性を正確に捉えなければならない。帝国主義の強さと弱さは同時に進行しているのである。
 何よりもまず第1に、米帝の軍事政策の行き詰まりである。侵略国家は戦争で行き詰まることが最大の致命傷になる。ウクライナに対するロシアの軍事侵攻から3ヶ月半、ウクライナ軍がロシア軍を押し返し、有利に闘いを展開しているという西側諸国のストーリーは崩壊しつつある。
 第2は、米国経済の戦争経済化、軍国主義の死のスパイラルは世界平和と人類全体の最大の脅威になると同時に、米国経済の基盤そのものをさらに破壊し、空洞化させ、労働者・人民の不満・憤激の諸条件は確実に蓄積されている。インフレと物価騰貴、所得格差・貧富の格差、労働者・人民の貧困化、巨額の借金に苦しむ学生、国民皆保険制度の欠如、インフラ基盤の老朽化、等々。
 一方で、製造業の崩壊と過剰消費体質と輸入依存経済は、「双子の赤字」(貿易赤字と財政赤字)を膨張させている。今は、基軸通貨ドルの特権で世界中の余剰資金を環流させ、ドル暴落を回避している。だが、この間のウクライナ戦争から全面化した経済制裁、貿易禁止、SWIFTからの締め出しやドル決済の禁止は、インフレ・物価騰貴となってはね返っているだけではなく、多くの途上国が人民元やデジタル通貨へのシフトを加速させている。米国債とドルの信認が動揺する時代が到来する条件が徐々に形成されつつある。
 第3は、対ロシア経済制裁の破綻である。対ロ制裁に賛成したのは50ヵ国以下、3分の2以上の国がロシア制裁に非協力の態度を明確にしている。とくにアジアで対ロ制裁に同調するのは数か国にすぎない。アフリカ、ラ米では皆無だ。クアッドの一角を占めるインドもそうだ。産油国も米の増産要求には応じていない。制裁のSWIFTからの排除も、大手の消費国は石油・天然ガス代金のルーブル払いを逆に認めさせられ、またそれを契機に新しい国際金融通貨取引の仕組みができかねない。G20からのロシア排除にも失敗した。
 対ロ制裁はNATO諸国自身にもはね返り、矛盾と対立を生みだしている。EUは4日、ロシア産原油の禁輸と、ロシア最大手銀行ズベルバンクのSWIFTからの排除を柱とする新たな対ロ制裁を発動した。だが原油禁輸は海上輸送に限定し、ハンガリーが反対していたパイプラインでの輸送は対象から除外せざるをえなかった。海上輸送もまた、タンカー積み替えによる迂回も可能で実効性に疑問が持たれている。ロシアへの依存度が5割に近い天然ガスは対象にさえなっていない。欧州への打撃は大きい。

(2) 第4は、米帝国主義の一極支配の終焉と「多極化」の着実な進行である。社会主義中国を先頭に、社会主義と社会主義指向諸国、反米・反帝の途上諸国と新興諸国、世界の進歩的諸勢力は、米帝の野望を阻止し、米と西側帝国主義の軍事、貿易、ドル・金融、メディア等々の世界覇権に抗い、これを掘り崩す動きを強めている。
 ロシアのラブロフ外相は3月30日、中国の王毅外相との会談で「『多国体制』への移行」で米国の包囲を打ち破ると明確に述べた。とくに「真の多国間主義外交」「ウィンウィン外交」を掲げる中国の、一帯一路、BRICS、上海協力機構(SCO)、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、さらにラ米・カリブ諸国との協力関係、等々による「多極化」政策は、米帝の野望を阻止し、その世界覇権を掘り崩す決定的な役割を果たしている。
 SCO諸国は、米と西側帝国主義の経済制裁を回避し、米のドル・金融・貿易覇権体制に公然と反旗を翻す動きが加速している。SCO未加盟のイランは、中国、ロシア、インド、パキスタンをはじめ他のSCO加盟国と貿易を行うための新通貨発行を提案した。すでに中国は人民元でロシア産石油の購入を開始し、インド・ロシアもまた自国通貨での取引を行っている。世界人口の40%以上、GDPでは約3分の1を占めるSCOが、脱ドル化=ドル金融覇権の弱体化に向けて重要な一歩を踏み出したのだ。
 BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)もまた対ロシア制裁を拒否し、相互連携を強めながら多極化政策を進めている。中国は、BRICSの枠組みを他の新興諸国、途上諸国へと拡大する方針を決定した。早速アルゼンチンが加盟する予定だ。
 中国王毅外相の南太平洋諸島(ソロモン諸島、キリバス、サモア、フィジー、トンガ、等々)訪問は、平和共存と互恵平等で中国との協力関係を強化するものであった。日本を含む西側メディアは一斉に、中国の「南太平洋への進出」「覇権主義」などと騒ぎ立てたが、実態は全く逆である。米国や豪州など西側帝国主義のように覇権体制に組み込み、従属させるのではなく、「真の多国間主義外交」によって経済協力開発、電力、橋、道路などのインフラ建設支援、気候変動に関する技術訓練、マングローブの生態系保護、等々、南太平洋諸国が諸困難を克服し、平和的に発展を遂げるために、相互尊重と相互利益に基づく協力関係を打ち立てようというものだ。
 ラ米カリブ諸国でも、ALBA運動に象徴される反米・反帝の人民運動の高揚、ラ米カリブ諸国共同体(CELAC)の「一帯一路」への参加による中国との協力強化など、米帝支配の弱体化が急進行している。さらに米国が米州首脳会議にキューバ、ベネズエラ、ニカラグアを招待しなかったことで多くの国々がボイコットを表明し、米州サミットの開催自体が危機に陥っている。
 左翼・共産主義者の一部には、中国が進める「多極化」を没階級的だと批判する人々がいるが、全く皮相な見方だ。米帝国主義に矛先を集中し、米帝一極支配を突き崩す「多極化」攻勢は、まさに反米・反帝の優れて階級的・攻撃的な政策に他ならない。

(3) 第5は、米帝一極支配の終焉の新たな始まりの下での、資本主義・帝国主義諸国の循環的・構造的危機の激化である。米と西側帝国主義諸国では、とくにリーマンショック以降の長期的な過剰流動性供給から引き締め政策への転換という金融・経済政策の行き詰まりが顕著になってきた。対ロ経済制裁はブーメランのように自分にはね返り、すでに始まっていたインフレーションと物価騰貴を加速し、株価の持続的低落、景気後退が急速に進み始めた。とりわけ物価高騰の波が労働者・人民、とくにその下層に打撃を与え、労働者・人民の不満と怒りが次第に

高まりつつある。その最大の集中点はバイデンの米国である。11月の中間選挙に向け、ウクライナ戦争によって国内の結束と支持を得ようという目論見は大きく外れた。物価対策など生活関連の支援予算を切り捨てたことに不満が高まっている。追いつめられているのは、ロシアではなくて当のバイデン自身なのだ。このままいけばバイデン民主党の敗北は決定的となる。
 欧州諸国も同じだ。欧米諸国の戦闘的な反戦運動は、自国政府のウクライナへの軍事支援、戦争長期化の目論見に反対すると同時に、インフレと物価高騰対策、気候変動対策を要求して闘いを展開している。

[5] 岸田政権ーー「台湾有事」を梃子に日本軍国主義をさらに新しい段階へ

(1) 「台湾有事」策動と対中戦争挑発、戦争準備は、従来とは根本的に異なる新たな段階に入った。ところが、「台湾有事」策動の切迫性、日米両帝国主義が共同して進める対中戦争準備の危険性について、日本国内では沖縄を除きほとんど意識されていない。「台湾有事」は米日の方から中国を威嚇、挑発するものだ。衝突あるいは戦争になれば台湾、日本が最前面に出て戦うことになる。
 日米首脳会談で岸田首相は、中国を対象に「力で現状を変えることに反対」「人権問題への取り組みを強める」と対中非難と米の対中対決政策への全面支持を表明した。そのために日本は、①軍事力の抜本的強化、②防衛費の相当な増額、③反撃の自由を含め検討、④辺野古基地建設等、これまでと次元の違う、明確に中国を主敵とする格段に強力な軍事力増強を約束し、中国排除の経済枠組みであるIPEF参加を決めた。
 「台湾有事」となれば、真っ先に対中戦争の最前線に立たされるのが沖縄である。だがそれだけにとどまらない。文字通り日本全土が最前線に立たされることになる。「第2のウクライナ」は台湾だけではない。日本本土全体が戦場になるのだ。在日米軍基地、沖縄の嘉手納・普天間、呉・横須賀、岩国などがフル稼働している。今や岩国海軍基地は嘉手納空軍基地を上回る極東最大の米軍航空基地だ。すでに最近の日米共同演習では北海道から陸上自衛隊の部隊、兵器・兵士・武器弾薬を西日本・九州・沖縄へ長距離移動させる訓練が繰り返し行われている。2900㌔にわたる日本列島全域で、「機動展開前進基地作戦」(中国の接近阻止・領域拒否に対して、前進基地を設置し、これを海軍・海兵隊部隊の拠点として制海支援などにあたる)を組み込んだ「統合抑止」で航空自衛隊、米空軍、米陸軍、米海軍、米宇宙軍が動員されたものだ。

(2) 岸田政権は、対中軍備増強の質的転換を狙って、対中軍事包囲=戦争準備を全面的かつ具体的に推し進め始めた。
――GDP比2%を目標にする軍事費の大幅増大。政府は5年間で軍事費の2倍化、すなわち一挙に5~6兆円もの拡大を計画している。軍事費2倍化は、単なる装備増強にとどまらない。高額で攻撃的な装備の大量導入はもちろんのこと、これまで手を付けられなかった定員、兵器を操作する兵員そのものの増強、基地の増強、演習や対中国での威嚇活動の増強が組み込まれ、これまでとは質的に異なる超軍拡である。5年で2倍という軍事費急増は、これまでさんざん脅威だと非難してきた中国の軍事費の増加テンポをはるかに上回るものだ。
――岸田は日米首脳会談で、「反撃能力」(敵基地攻撃能力)獲得に言及した。メディアは未だに「日本は盾、米は矛を受けもつ」と言うが大きな間違いだ。集団的自衛権の容認、戦争法と新ガイドラインの下で、日本は米と肩を並べて攻撃に参加すると規定された。そのための装備、例えば長距離巡航ミサイルや空母などの装備はすでに導入が始まっているが、それを本格的・大量に導入するものだ。自衛隊と米軍の一体化運用も軍事威嚇や攻撃作戦への参加を前提に進んでいる。
――同時に、南西諸島軍事要塞化、海兵隊ミサイル連隊緊急配備受け入れなど最前線基地・出撃基地と位置付ける南西諸島などの軍備増強、要塞化と結びついている。そして、これら対中国戦争準備を進めるとともに、今年改定を進めている日本の軍事戦略全体(国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防)を事前に米の軍事戦略とすり合わせる。日本自らが進んで対米軍事一体化を加速している。
――岸田は6月末のNATO首脳会議に参加する意向を表明した。NATOは攻守軍事同盟だ。このような軍事同盟に加わることは憲法上、許されない。では岸田の目的は何か?NATOのアジア拡大に加担し、米とNATOが世界中に軍事支配の枠組みを広げることを見越して、今から関与し将来のグローバルなNATOに参加するつもりなのだ。アジアでは米英豪同盟AUKUS、米日韓3国同盟、日米豪印クアッドなどの枠組みを強化し、対中国軍事包囲網の強化を目指して働きかけている。
――米国の対ロ制裁、対中制裁参加、中国に対する新疆ウイグル問題などでの「人権」非難、中国経済のデカップリングとIPEF結成、政治経済の面でも対中対立を強めている。岸田は今国会で経済安全保障法を通した。これは対中戦争勃発に備えて日中経済を「デカップリング」(切断)することだ。
――改憲策動のエスカレートは、日米が一体となった「台湾有事」と密接不可分である。政府与党はすでに集団的自衛権容認と戦争法で「専守防衛」は完全に捨て去った。今やろうとしているのは、米国が仕掛ける「台湾有事」に自衛隊が直接参加し、米軍と一体となって行動するためには、憲法改悪が不可欠なのである。いまや改憲が対中戦争と直結するところまで来ているのだ。

(3) 反中・嫌中プロパガンダとのイデオロギー闘争は、日本の反戦運動の最大の課題の一つだ。朝から晩まで垂れ流される中国敵視のプロパガンダに対し、一つ一つの具体的事実に基づいて暴露し、説明し、説得する活動を強めていこう。米日帝国主義から戦争挑発を受けている中国の側が加害者であるかのようにされているトリックを暴きだそう。
 ウクライナ戦争での「プーチン悪玉論」、無数のデマ宣伝は、ブルジョアイデオロギーの恐ろしさをわれわれに見せつけた。それは岸田の対中軍拡や軍事費倍増、改憲策動を一挙に可能にした。同様に、中国侵略に抵抗感が出ないよう、敵を悪魔化することで予め人民の意識を洗脳しておく必要があるのだ。「中国脅威論」「中国大軍拡論」「ウイグル・ジェノサイド」「独裁国家」「拡張主義」「人民を無視したゼロコロナ政策」等々。

(4) 国会の体制翼賛化が加速している。ウクライナ戦争では、与野党を問わず国会全体がロシア憎悪に染まり、西側帝国主義諸国に同調し、戦争拡大・長期化=対ロ制裁に加担した。「台湾有事」策動をめぐっても全く同じ状況が生まれつつある。米日が台湾有事」を梃子に対中戦争挑発を推し進めている時に、国会ではその事態を中国の脅威と騒ぎ、「防衛力増強が必要だ」「軍事費倍増だ」と、事態を転倒した姿にねじ曲げている。
 政府・与党だけではない。ほとんどの野党が「中国脅威論」で一致し、日本が被害者であるかのようにねじ曲げ、対中軍拡を正当化している。「積極防衛能力」と称して中距離ミサイル保有、9条改憲と専守防衛の放棄を公約に掲げる維新は論外だが、立憲民主も参院選公約では「抑止力と対処能力強化を重視し、着実な防衛力を整備する」と公然と軍事力増強支持に踏み出した。
 反戦運動で深刻なのは日本共産党の裏切り行為だ。同党は今年4月に一線を越えた。即時停戦・和平を掲げねばならない時にロシア侵略を非難するばかりで、米・NATO批判は全くない。バイデンの戦争国家化を批判せず、その政策を「ニューディールだ」と支持する。反中・嫌中の先頭に立ち、遂に志位委員長は「自衛隊で日本の主権を守る」「有事の際には自衛隊を利用する」と発言するに至った。何と那覇市議会では、自衛隊と海上保安庁の任務遂行に感謝する決議を公明・立憲民主・社大が退席する中で、自民と共産党の賛成多数で可決した、等々。
 岸田が対中戦争準備と対中戦争挑発を加速し、軍事費倍増を公言しているのに、支持率は6割を超えている。しかし、物価高と生活悪化は、必ず労働者・人民の不満をかき立てずにはおかない。反戦運動と生活防衛闘争を結合し、自公政権と闘おう。

 われわれは、以下の諸要求を掲げて闘う。

1.「台湾有事」策動、対中戦争準備、大軍拡を阻止しよう。
・憲法改悪を許すな。参院選で改憲勢力3分の2を阻止しよう。
・軍事費GDP2%=6兆円倍増をやめよ。大幅に削減せよ。

2.敵基地攻撃能力獲得を阻止しよう。
・長距離巡航ミサイルの開発・取得、新型極超音速ミサイル開発反対。
・石垣、宮古、奄美など南西諸島のミサイル要塞化反対。
・辺野古新基地建設反対。
・米海兵隊の対艦ミサイル連隊、米陸軍の新中距離ミサイル配備阻止。

3.対中戦争のための日米軍事同盟強化反対。
・日米共同軍事演習、帝国主義連合軍の共同訓練反対。
・岸田はNATO首脳会議に出席するな。

4.政府・メディアの反中・嫌中プロパガンダと闘おう。

5.ウクライナ戦争の早期停戦・和平を実現しよう。
・バイデンと西側諸国は停戦交渉を妨害するな。
・米・NATOは武器供与をやめよ。
・日本・西側諸国は対ロ経済制裁をやめよ。
・ロシア軍は撤退せよ。

6.対中戦争準備ではなく、日中平和共存を。
・東アジア全体の平和共存を実現しよう。

2022年6月9日『コミュニスト・デモクラット』編集局

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