リーマンショック後も持続する日本の「特殊な慢性不況」(その2)

岸田政権の物価高=人民生活悪化政策を許すな
消費税5%への大幅減税を!最低賃金の1500円早期実現!

物価高騰と人民生活防衛が7月の参院選の中心争点に躍り出た。現在終盤国会で与野党が論戦を繰り広げている。野党は現在の物価高騰ラッシュを「岸田インフレだ」とし、岸田政権の物価対策への無策を批判している。一方岸田は、現在の日本の物価は前年比2%強しか上昇していない、欧米の8%増に比べれば上昇スピードは緩やかだ、政府の物価対策は効果をあげているなどと強弁し、一切の追加対策を拒否している。物価高騰による人民生活悪化を放置しているのだ。
そんな中、物価高の張本人の一人、黒田日銀総裁が「家計が値上げを受け入れている」と値上げ許容発言を行った。絶対許してはならない。食料品や電気代・ガス代の値上げが7月以降に控えている。選挙が終わると同時に一気に値上げの波が押し寄せる。職場・地域から、政府の物価高容認政策に反対し、人民生活防衛の闘いに取り組もう。

(佐竹)

(1)岸田の軍事費倍増=物価高容認政策を暴露・批判しよう

岸田政権は4月26日に、参院選に向けて「物価上昇に対する緊急対策」を決定し、その財源確保のために総額2兆7千億円に上る補正予算を成立させた。しかし、この対策のどこにも物価高騰を抑える政策はない。一言で表現すれば、物価高騰に名を借りた独占へのさらなるくれてやりだ。
①原油価格高騰対策に1兆5千億円:これは、ガソリン価格高騰を緩和するために、石油元売り独占に多額の補助金(約1兆2千億円)をばらまくという代物だ。石油高騰で過去最高益を更新しボロ儲けをしている石油元売りに、更に補助金をばらまき利益を膨らませるものだ。
②原材料・食料安定確保に5千億円:これは、輸入小麦から国産小麦や米粉に材料調達先を変えた企業に補助金を支給するが中心。これもくれてやりの一種だ。
③中小企業対策に1兆3千億円:物価高騰に打撃を受けた中小企業に対し貸付金の利子を引き下げることを主眼としている。だがこの程度では物価高騰で打撃を受けた膨大な数の中小企業を救えるものではない。
④生活困窮者への支援に1兆3千億円:これは、「住民税が非課税の子育て世帯や児童扶養手当が支給されているひとり親世帯に対し、新たに子ども1人当たり5万円を給付する」というもの。住民税非課税世帯等に限られると対象者が大きく限定されたものとなる。
 上記以外にも選挙目当ての政策が多い。そのひとつが地方創生と称して、各地方自治体へのバラマキ財源を確保し、各地方政権党の後押しをしている。

(2)始まったばかりの物価高 人民の消費生活を直撃

 連日物価値上げラッシュの報道が続いている。今年通年での食品メーカーによる値上げ品目は1万品目を超え、うち今年6月以降で6000品目前後の値上げが予定されている。値上げ率は平均13%に及んでいる。
 今年に入って、あらゆる食料品が上がっている。サラダ油、即席めん、パン製品、マヨネーズ、ケチャップ、しょうゆ等の調味料類、コーラ、ビール、ウィンナー、ちくわ、ポテトチップス、冷凍食品等々、スーパーや店頭に並ぶ基礎食料品が対象だ。価格は据え置くが、内容量を減らしたり、ピザなどのサイ

ズを小さくしたり、といった姑息な「ステルス値上げ」も目白押しだ。
 外食においても値上げラッシュが続き、主要100社のうち3割で平均単価70円の値上げがすでに行われた。ダブルワーク等で調理の時間が取れない下層労働者にとって、頼みの綱であるファストフード(コンビニ弁当、ハンバーガー、牛丼、うどん等)において、昨年後半から数十円~百円もの値上げが続き、ワンコインで済ませることが難しくなった。文字通り死活問題だ。
 さらに家計を直撃しているのが、ガス・電気代の高騰だ。昨年末から前年比20~30%に及ぶ大幅値上げが続いている。原因となっているのが、図1にある21年に入ってからの前年比30%に及ぶ輸入物価の高騰だ。4月の輸入物価はさらに上昇して44・6%増という異常さだ。食料品原料や燃料を輸入に頼る日本資本主義の脆弱な対外依存構造を直撃している。

 現在の値上げは始まりに過ぎない。先述したようにメーカーが行う値上げ予定のうち半数以上の品目が6月以降に実施される。更に、現在でも大幅値上げとなっている電気代・ガス代が、7月から平均世帯当たり電気代で月2000円弱の値上げ、ガス代は月1000円強の値上げ、合わせて約3000円もの値上げとなる。世界的なエネルギー価格高騰が続けば、8月からはさらなる大幅値上げになること必至だ。1家庭当たりの年間負担額がこれだけで5~10万円の負担増となる。さらに、図2にあるように企業間で取引する物価指数は昨年後半より一直線に急上昇しており、4月の企業物価指数は、前年比10%増まで跳ね上がった。1960年の統計開始以来最高となった。この大幅上昇が、今のところ前年比2・1%増にとどまっている消費者物価に及んでくるのは時間の問題だ。

(3)実質賃金低迷下の物価高の破壊力

 日本の物価高の恐ろしいのは、実質賃金が低迷・減少する中で起こっていることである。米欧では実

質賃金が3割、4割上昇している中での7~8%の物価上昇だ。日本の生活破壊の方が致命的であることは明らかだ。図3に見られるように、日本の労働者の実質賃金は、バブル崩壊後の90年代以降約30年にわたり全く上昇していない。なぜ上昇しないのか。一番大きな理由が、労働者の多くが正規から低賃金の非正規に変換させられたこと、そしてその苦しい生活状態の中で、女性・高齢者を中心に非正規の中でもより低賃金のパート・アルバイトで就労せざるをえなくなったことによる。このようなぎりぎりの雇用・生活状況のところへ逃げ場のない物価高騰が襲い掛かっているのだ。
この図では、実質賃金は低迷状態を示しているが、今年4月には前年同月比1・2%減とマイナスに転じた。今後実質賃金低下が続くことは間違いない。

(4)消費税3%増に匹敵 物価高の「逆累進性」を暴露しよう

 バブル崩壊後の構造的な景気停滞、長期デフレが続いてきたので、インフレ的物価高は1970年代以来である。しかし、1970年代の物価高とは異質の打撃を労働者・人民の下層に与える。それは、1990年代半ばから政策的に導入された非正規雇用労働者の持続的増大、所得格差・貧富の格差の拡大だ。すなわち、消費税と同様に、低所得階層ほど重大な影響を与える「逆進性」をもたらすのである。
 1ドル=130円という20年ぶりとなる円安レベルが継続すれば、低所得階層にとっては消費税3%増に匹敵する打撃となる。また現在の前年比2%増の消費者物価上昇レベルで年間6万円の出費増につながるなど、家計を直撃する試算が相次いで出されている(この試算には、今夏の電気代・ガス代の大幅値上げは考慮されていない)。もし物価上昇レベルが欧米並みの8%増レベルにまで跳ね上がると、単純計算で家計に対して年間24万円の負担増になる。この負担は、平均家庭の1か月分の月間消費支出に匹敵する額である。低所得者層への打撃は計り知れない。今春闘で大手企業従業員の賃上げは定昇込みで2・3%増にとどまっている。電気代・ガス代の値上げだけで吹っ飛んでしまう。人々は唯一削れる家計支出項目である食料品の節約に苦しむことになる。民間の緊急アンケートでは、回答者の7割以上が、物価値上げですでに生活に打撃を受けていると回答している。

(5)「見えない失業者」を物価高が直撃

 今回のコロナショックは、女性・高齢者を中心としたパート・アルバイト層を直撃し、「女性不況」といわれる実態を明らかにした。実際にシフト減や休業に追い込まれた人は少なくとも4百万人に上るといわれている。ところが、失業率は微増にとどまった。なぜか。これら収入減に追い込まれた人の多くが、再度の就業を「あきらめざるをえなかった」ことが大きな要因の一つだ(第96号主張)。2020年から女性の自殺が増加した背景には、この「見えない失業」がある。生活保護申請は20年、21年と増加し続けている。女性労働者を長年調査・報道してきた竹信三恵子氏は、このような状況を「沈黙の雇用危機」と言って警鐘を鳴らしている。また生活困窮者向けの無料食料配布に並ばざるを得ない人は、コロナショック前の約2~4倍と高止まりしている。今の物価値上げラッシュが生活困窮者対し、さらなるとどめを刺そうとしている。

(1)利上げを拒否し円安を放置し続ける日銀

 なぜこのような世界的な物価高騰が起こったのか。最大の原因の一つは、日米欧の各中央銀行が市中に野放図なまでにマネーを放出したことだ。2007~08年のリーマンショック対策、これに続く2020年からのコロナショック対策である。その背景には、もはや先進資本主義諸国は、実体経済の成長はあり得ない歴史的な限界状態にあり、過剰流動性による金融バブル膨張に依存するしかない、という実情がある。この大量のマネーが商品市場に流れ込み、石油、小麦といった最も基礎となる(工業)原料に殺到し、あらゆる物価の高騰を招いたのである。
 先進国でも突出しているのが日銀だ。米FRBが今年3月から、ECBもこの6月から利上げに舵を切り、曲がりなりにもインフレ抑制に政策を転換する中、日銀だけが量的緩和を続け、利上げ拒否を続けているからだ。これにより日米の金利差は広がり、図4のドル円相場に見られるようにFRBが利上げを開始した21年3月ごろから急速に円安が進行し続け、この6月6日には134円と、2002年4月以来20年ぶりの円安を記録し、物価高騰に拍車がかかった。海外との物価上昇率格差も考慮した円の総合的な価値(実質実効相場)は、約50年来の水準に低下している。日銀は人民の生活悪化の元凶である円安・インフレを放置し続けているのだ。

(2)物価高の階級的本質 空前の利益を上げるグローバル独占 資本と物価高に苦しむ労働者・人民

 自動車業界は、円安が完成車や海外生産用の部品の輸出採算の改善につながり、さらに海外子会社の利益を連結決算に取り込む際に円建て換算金額が拡大し空前の利益を計上している。日系主要完成車メーカー8社の今期(2023年3月期)の合計営業利益は、前年同期比36%増の6兆6650億円、トヨタだけで約3兆円と「円安頼みの増益」の予想だ。ソフトバンクは86%がドル連動資産で円安効果は莫大になる。
 元々、安倍・黒田の異次元緩和によって、グローバルな生産・販売拠点を世界中に張り巡らせてきたグローバル金融資本が海外で稼いだドル利潤を円換算で膨張させてきた経緯がある。これが2010~19年度の間に内部留保(利益剰余金)を294兆円から475兆円に181兆円(61・6%)も増加させたのだ。これがさらに膨らむのだ。
 また、石油価格の急騰が直接利益増につながるのが商社=流通独占体であり、石油独占体だ。日本の大手商社7社やエネオスのような大手石油元売りは、21年度過去最高益になることを相次いで発表した。例えば日本最大の商社・三井物産は、石油高騰等により過去最高益の2倍以上にあたる9147億円もの利益を計上した。この莫大な利益は配当や自社株買い等を通じて株主に総額約3400億円を還元する予定だという。その他の大手商社も1兆円近い過去最高益だ。
 要するに、円安・物価高騰が人民生活を直撃する一方、グローバル独占資本やその株式を保有する富裕層には巨額の利益が還元されるという、まさしく資本主義の搾取者的本質が明白になっている。

(3)限界に来ている国債大量発行 金融政策の行き詰まり

 安倍・黒田の異次元緩和の最大の柱が国債の大量発行だ。これを軍事費と独占資本へのくれてやりなど支配階級のための階級予算に消尽してきた。政府が国債を発行し、それを日銀が引き受ける財政拡張構造(日銀引き受け=財政ファイナンス)――これがアベノミクスの本質であった。岸田はこれをそのまま引き継いでいる。それどころか、軍事費倍増など財政破綻まっしぐらの財政・金融政策を突っ走っている。
 図5を見て欲しい。このグラフは、日銀が金利を人為的に低下させてきたために、国債残高が膨れ上がっても、利払費が増えず低下すらしたことを意味する。また、図6は、黒田が日銀総裁に就任した13年から日銀の国債引き受けが急増したことを示している。
 政府・日銀は、この赤字国債大量発行のつけを、金利据え置きによる円安の進展=インフレの急伸・物価高騰を放置するという形で、人民への負担として押し付けようとしているのである。
 しかし、日銀の目的、存在意義は「物価の安定」のはず。実は、日銀は金利を引き上げたくてもできない状態に追い込まれているのである。それは日銀のバランスシートに端的に表れている。日銀バランスシートの資産の項目にある500兆円以上の国債は、低金利を前提に発行されているため利子が入ってこない。一方、負債の項目にある民間銀行の当座預金約400兆円に対しては、金利引き上げに合わせて利払いをしなければならない。1%金利が上がると日銀は数兆円に上る損失となる。すなわち500兆円以上引き受け買い取ってきた国債が不良債権寸前の状態になっているのだ。
 欧米の中央銀行のように利上げができなくなり、一方で物価が上がり続ければ、円安―物価高―円安のスパイラルになる可能性、資金流出の可能性も出てくる。中央銀行が金融政策を発動できない状態が長引けば一体どうなるのか。誰も予測できない。
 ただ一つはっきりしていることは、政府支配層は、財政破綻、日銀破綻を回避するために、必ず大増税を強行するだろうということだ。マルクスは、吸血鬼のような人民収奪で「資本」が誕生した資本主義の原始的蓄積期の秘密を暴露したが、その一つが国債であった。国債は「租税の一定額を先取りする権利」(『資本論』第三部第30章「貨幣資本と現実資本」)であり、未来の租税を担保とした国家の借金であり、租税(増税)の一形態である、と。増税か減税か、租税をめぐる階級闘争は今後ますます先鋭化するだろう。

(1)軍事費倍増計画阻止
   消費税5%への大幅減税、法人税・富裕者大増税を実現しよう

 岸田政権は、物価高騰を容認しながら、ウクライナ戦争を口実に、軍事費の6兆円倍増の公約を打ち出している。軍事にだけは湯水のごとく予算を付けようとしている。この軍事費倍増を阻止しなければ、生活防衛はおぼつかない。今のエネルギー・小麦価格高騰の原因の一つはウクライナ戦争と西側諸国による対ロシア制裁だ。だからこそ、ウクライナ戦争の即時停戦と生活防衛の闘いを結合する必要がある。
 労働者・人民の下層にとって緊急に必要なのは、消費税大幅減税と最低賃金引き上げだ。前述したように物価の高騰は、消費税と同様に、逆累進性を持つ。だからこそこの物価高騰に際して、消費税を減税し、下層への打撃を少しでも減らさなければならない。そして、その財源を赤字国債の増発ではなく、内部留保をため込むグローバル独占資本への法人税大増税で賄わなければならない。

(2)最低賃金1500円を実現しよう

 もう一つは、最低賃金1500円の早期実現を勝ち取ることだ。日本では、最低賃金近傍の収入しか得られない層が、大きな比重を占めている。女性・高齢者を中心として、就業形態の中では最も劣悪で低賃金であるパート・アルバイトという非正規労働者が着実に増加している。その人たちの生活悪化を少しでも防ぐためには、最低賃金アップが必要不可欠だ。さらに、研究者の調査では、日本の労働者が生活できる最低生計費としては、単身世帯で最低月額22~24万の収入となっている。それを時給換算すると約1300~1400円。これからしても最低賃金1500円が実現しなければ、日本の労働者は「健康で文化的な生活」を送ることができない。
 スタグフレーション(物価高下での景気後退)が現実のものになっている。日本の22年1~3月期GDPは▲1・0%とマイナス成長だ。コロナショックでの急落後1本調子で急伸してきた日米株式市場も、5月のFRB利上げを受け下落の局面に移行している。秋の米中間選挙でのバイデン民主党の大敗予想の最大の理由も異常な物価高・生活苦だ。
 今でこそ岸田政権の支持率は6割を超えているが、今後の物価高と景気後退による失業の深刻化は、労働者・人民の政府批判を間違いなく引き起こすだろう。

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