【第96号主張】2022春闘からメーデーに向けて
正規労働者と非正規労働者が共に闘う道を探ろう 日本労働者階級の非正規構造の劣悪化の下で

 コロナ禍はリーマンショックよりさらに深刻な打撃を労働者に与えている。非正規労働者、とくに女性労働者の雇用と生活をきわめて悲惨な状態に追い込んでいる。これは重大な労働・社会問題である。にもかかわらず2008年末の「年越し派遣村」から翌年の総選挙大勝利による民主党政権の誕生というような劇的な変動は起こっていない。
 春闘は本来、全労働組合が一丸となり、強力な労働組合が前面に出て闘いとった賃上げ額を全労働者に波及させる舞台である。ところが2022春闘では、中心のトヨタ労使がこの2年間結託して高額の妥結額を非公表とし、他に波及させないようにしている。トヨタの平均賃金は2020年3月期で年収866万円であり、一般の正規労働者の1・75倍、非正規労働者の4・9倍である。年間一時金は6・9ヶ月にもなる。すでに安倍政権の下で2013年以降「官製春闘」となっていたが、今ではこのように一握りの特権的な労組が牛耳るものになっているのだ。
 しかし限られた影響力ではあるが、全労協や全港湾を中心とする「けんり春闘」が全国的に闘われている。たたかう姿勢のある組合を結集し、最低賃金要求や非正規労働者の問題をも掲げて闘っている。
 われわれもこのような闘いに学び連帯しつつ、日本の労働運動の方向を模索していきたい。

[1] コロナ禍で非正規労働者の大多数が最低限の生活をさらに切り縮められている

(1)コロナ禍はリーマンショックより深刻である
 国内総生産(GDP)の落ち込みはコロナ禍の方が急速でしかも深い。そして労働者全体の総労働時間数の減少も大きい。

 
(2)だが従来重視されてきたいくつかの指標はコロナ禍の方が軽い。まず、就業者数の減少が少ない。リーマンのマイナス143万人に対し、コロナ禍ではマイナス93万人にとどまっている。「希望退職者の募集、解雇」も少ない(リーマンの2009年第1四半期は5%、コロナ禍の2020年第2四半期は1%)。リーマン時の方が再契約停止や解雇実施率が高い。
 コロナ禍ではまた完全失業者数の増加も少ない。リーマン時は2009年7月に前年同月比で103万人も増加し364万人(完全失業率は5・5%)になったのに、コロナ禍では2020年10月に同51万人の増加で217万人(同3・1%)にとどまった。
 では、コロナ禍のGDPの落ち込みの深さと労働時間の大幅な減少は誰に打撃を与えたのか?

(3)コロナ禍の特徴――休業者の急増と「見えない失業者」

 コロナ禍の打撃の第1の特徴は非正規労働者の犠牲の大きさだ。リーマンでは正規の解雇は大きかったが、非正規は派遣切りに集中し、非正規労働者全体の減少は2009年を通じて40~50万人程度であった。しかしコロナ禍では非正規労働者は2020年の第3四半期に125万人も減少した。コロナ禍ではパート・アルバイト・契約社員・嘱託といった直接雇用の非正規労働者が急減したのだ。
 コロナ禍での際立った特徴の第2は、休業者の急増だ。休業者数は2020年4月に420万人にもなった。それが収入の減少となってそれでなくても低い収入を直撃した。しかも非正規女性の3人に1人は休業手当を受け取っていない。
 ここから第3の特徴が現れる。政府統計でもメディアでも無視され隠される「見えない失業者」だ。まず週労働時間の短い労働者は雇用保険の対象者でないため失業保険を受給できない。だから「失業者」としてとらえられていない。また「休業」者には、コロナ禍で転職を諦めた人、「失業」ではなく「休業」だからという理由で求職活動をしない人が多い。このような彼ら彼女らが、公式統計では「失業者」ではなく「非労働力人口」の急増というわかりにくい表現で現れているのだ。
 したがって「実質的な失業者数」はきわめて多い。パート・アルバイトの実質的失業者は女性103万人、男性43万人にも上る(野村総研、実質的失業者の定義はシフトが5割以上減で休業手当を受け取っていない人)。実質的失業者のほとんどは非正規労働者なのだ。完全失業者数プラス実質的失業者数は女性183万人、男性157万人にもなる。
 コロナ禍の第4の重要な特徴は、「働き止め」、就業抑制だ。「自発的失業」と言われる。77万人にも上る。小中学校・保育園の突然の休校・休園、本人ばかりでなく家族の感染や濃厚接触で仕事を休まざるをえない、またリモートで家にいる家族が多い、給食がない、さらには入院制限や施設・訪問介護の縮小等で家事負担も増大した。働き続けられない状態に追い込まれているのだ。女性労働者はとくに深刻だ。シングルの場合は死活問題だ。

(4)コロナ禍のより具体的な特徴――女性労働者への被害の集中

 第5は、女性に被害が集中していることだ。休業率の男女差は2020年5月末には3倍以上、18歳未満の子がいる男女に限ると7倍にもなる。解雇・雇い止めも女性は男性より1・2倍であり、非正規では1・8倍にもなる。労働時間の半減が30日以上に及んだ人は1・7倍、非正規では2・3倍だ。コロナ禍は「女性不況」と呼ばれている。
 その理由は歴然としている。①飲食・宿泊等、女性労働者の多い業種に打撃が集中している、②非正規労働者の7割を女性が占めている、③家事・育児負担の女性への偏り、である。
 だがこのような女性非正規労働者の実質的解雇・失業が「自発的離職」として扱われているのだ。女性労働者の「自発的離職」は男性の1・4倍、非正規では男性非正規の1・7倍にもなる。彼女らは失業保険も休業手当も支給されていない場合が多い。
 ところが支配層はあろうことか、「夫セーフティーネット」論、「家計補助」論等で事態を過小評価しようとしている。しかし男性雇用者も20代では年収250万円未満が3割を占める。夫は「セーフティーネット」になりえないのだ。夫婦共稼ぎを含む多就業型でも、妻の所帯総収入に占める割合は妻が正規雇用の場合で42・7%、妻が非正規でも23・8%だ。女性所帯主の場合は7割超を占めている。妻の収入なしには家計は破綻するのだ。
 第6に、この結果女性労働者が精神的にも追い詰められていることだ。「雇用に変化」のあった女性で、コロナ拡大後に「精神的に追い詰められていた」人は26・9%にもなる。「変化なし」の1・7倍だ。「うつ病症状(傾向)」と診断された割合は4・3%に上る。「変化なし」の人の2・3倍だ。DV(家庭内暴力)による被害も増大している。
 女性の自殺者数急増はこのもっとも悲惨な現れだ。自殺者数は1998年に前年の2万4391人から3万2683人へと跳ね上がったが、そのときは多くが中高年男性であった。だが03年以降は減少を続け、08年のリーマンショック以降も減少していた。ところがコロナ禍の2021~2年、男性は減少が続いているのに、女性は連続で増大したのだ。
 コロナ禍の諸特徴が示していることは、統計からもメディア報道からも無視された「見えない失業」「見えない犠牲」の形で、非正規労働者が、とくに女性労働者が、自己の責任で生活を限界以下にまで切り下げる形で受け止めさせられているということだ。「見えない」ということは労働者として、人間として見られていないということだ。労働者としての、人間としての尊厳や権利が無慈悲に踏みにじられているということなのだ。

[2] 政府と経団連はコロナ禍に乗じて搾取強化策を新局面へと深化させた

 政府と経団連は、4割近くにもなった非正規労働者、とくに女性労働者を、実質上の解雇、賃金の限界以下への引き下げ等、徹底して非人間的に扱うことによって危機を乗り切るという政策を、コロナ禍から本格的に実施し始めた。この政策の根本的な特徴は、すべての犠牲が資本家の責任ではなく、政府の責任でもなく、非正規労働者個人の自己責任に帰せられるという点にある。

(1)「働き方改革」攻撃は「フェーズⅡ」に入っている

 政府は昨年の6月、経済財政諮問会議で「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2021)」をまとめたが、その中に「フェーズⅡの働き方改革、企業組織の変革」がある。それに続いて経団連は、報告書「副業・兼業の促進~働き方改革フェーズⅡとエンゲージメント向上を目指して」を公表した。政府と経団連は、2017年末から「副業・兼業」促進への転換を皮切りに「働き方改革」の深化を追求してきたが、それをコロナ禍で「危機の克服」策として提起したのである。
 フェーズⅠは、2016年に安倍内閣が打ち出した「働き方改革」であった。それは「残業の上限規制」と銘打って100時間未満の時間外労働を容認し、過労死ラインの労働を合法化するものであった。
 フェーズⅠの段階での「非正規労働者という言葉をなくす」というキャッチフレーズが安倍首相によって唱えられたが、これは美辞麗句でもなんでもなく、それとは真逆の正規労働者を非正規労働者の状態にするというブラックジョークであった。正規労働者への攻撃のスローガンだったのだ。

(2)「フェーズⅡ」は非正規労働者をターゲットとする究極の新自由主義的労働政策である

 フェーズⅡの本質は、資本家が雇用者としての責任を果たすことなく労働者への搾取をさらに強化するという点にある。
 フェーズⅡの第1の特徴は何と言っても「副業・兼業の普及・促進」である。静かに目立たない形ではじまったのだ。同時に「フリーランス」をも前面に押し出した。経営者が労働者の収入と生活、そして労働時間に責任を持たないことが大きな狙いであった。この新政策のキーワードがなんと「自律」だ。生きていける賃金か否か、過労で心身を壊さない労働時間か否かは、すべて労働者自身が自分で判断して選択する、すなわち労働者自身の自己責任だというのだ。収入不足でもっと働きたいという人の規模は、統計上では「追加就労希望就業者」として現れる。その数が昨年末で195万人である。20年の4~6月には267万人に急増した。政府と経団連は労働者を、生きていくためにはさらに働かざるをえないという状態に追い込んだ上で、その選択が労働者自身の「意思」だと言うのだ。
 第2の特徴は、「多様で柔軟な働き方の選択」というソフトな表現の多用である。
・「テレワークの普及」
・「選択的週休3日制度の普及―育児・介護・ボランティア、地方兼業への活用」
・「働きながら学べる仕組み」
・女性・外国人・中途採用者の管理職への登用
・この体制を下支えするものとして「求人マッチング機能の強化」
 だがこれらは成果主義と一体だ。成果を生み出さない労働時間は無給!多様な人材の登用も「底辺への競争」を激化させる手段なのだ。
 第3の特徴は、フェーズⅠまでは労働者の抵抗で実現できなかった長時間労働=サービス残業の温床となる制度を性懲りもなく持ち出していることだ。
・「裁量労働の拡大」
・「事業場外みなし労働時間」
 第4の特徴は、雇用流動性と賃金抑制のさらなる徹底だ。正社員の解雇が制限されていること、賃金が固定的コストになっていることへの資本家側の不満といらだちを完全に解消しようとしている。
・「メンバーシップ型からジョブ型雇用への転換」。これこそ賃下げと容易な解雇=「雇用流動性」へのスローガンだ。今春闘では大企業が臆面もなく大々的に推進している。企業を雇用責任から解放すること、高賃金となった高齢労働者を簡単に解雇しやすくすること、即戦力を獲得すること等、まさに資本家にとってのみ都合のいい政策だ。
・成果主義賃金に向けた「成果が適正に評価されるような働き方への改革」
・「職務や勤務場所、勤務時間が限定された働き方等を選択できる雇用形態」の拡大。これは非正規という名称を変えただけの限定正社員だ。正社員を無限定に働かせているという問題を逆手にとって、それに不満な正社員を限定正社員として賃金を引き下げ、その地域や職務にかかわる経営が成り立たなくなったときに解雇を容易にするものだ。この限定正社員はすでに正社員の12・3%をも占めている。そしてさらに厚労省は、これを「多様な正社員」と銘打ち、「無期転換ルールによって無期雇用となった社員の重要な受け皿の1つとして期待」しているのだ。
 フェーズⅡは、一見したところ当たり障りのない、強制性がなく自分で選べる形態を装っている。しかしそれは、労働能力のあるありとあらゆる人々を、すべての時間をわずかな空き時間も含めて総動員し、生活の最低限を下回る賃金で酷使しようとするものだ。しかもそれで生活できるかどうかには、使用者も政府も一切責任を持たない。個々の労働者の自己責任なのだ。まさにネオリベラリズムの行き着く先である。日本労働運動の困難の原因を見つめ資本に対する怒りへの糸口を探っていこう

 [3] 日本の労働運動の現状はきわめて厳しい。この原因の主要なものを何点か検討してみたい。

(1)難しさの原因の第1は、連合指導部が労働者階級のための労働組合とは無縁の存在となっていること

 労働運動はリーマン時よりさらに一段と後退している。リーマンの時は、連合でさえ曲がりなりにも「年越し派遣村」に参加していた。当時は運動全体に勢いがあり、民主党が政権奪取に向かう時期でもあった。しかし2012年末に民主党が大敗し第2次安倍政権が成立して以降形勢は一変した。それでも15年の戦争法反対闘争では官公労が前に出ていた。
ところが芳野会長が就任して以降、連合指導部の政治への関与、保守化・反動化が一段とエスカレートしている。非正規雇用の救済に尽力するどころか政府と自民党にすり寄っている。傘下の組合の中には労働組合運動の基本を大切にしながら奮闘している部分が多数存在する。しかし、指導部は、経団連傘下のグローバル金融資本の牙城をなす企業の労組―自動車や鉄鋼などの金属労協―と旧同盟系の労組が主導権を握るようになり、労働者階級の利害を守るのではなく、露骨に金融資本の利益を代弁する階級協調主義的な方向で動いている。立憲と国民民主を分裂させ、遂に国民民主の与党化を実現し、国民民主を介して改憲に加担するまで腐敗が進んだ。連合指導部は、野党共闘潰しの急先鋒、参院選での与党勝利の立役者になろうとしているのである。それに対しては全国ユニオンだけが公然と批判している。
 このような事態の根底には日本帝国主義の海外からの超過利潤の問題が横たわっている。さらに国内での非正規労働者や女性労働者、外国人労働者への差別賃金、無償の家事労働からの超過搾取の問題も横たわっている。
 しかし、このような超過利潤のおこぼれに与る特権的な労働者は一握りにすぎない。正規労働者の大部分は、非正規労働者が増大しその状態が悪化するにつれて、経営者から脅され、戦々恐々とし、賃金と労働条件を悪化させられている。

(2)難しさの原因の第2は、当事者である非正規労働者自身が生活に追われ活動どころではないという矛盾

 非正規労働者の大部分が雇用の不安定状態やダブルワーク・トリプルワークに、また限界を下回って破綻しつつある生活に追われて、組合や活動どころではないという問題だ。さらに雇用の不安定と生活の悪化が深刻化した場合には、就労は二の次でまず生活保護や住宅保障が緊急の課題となる。

(3)難しさの原因の第3は、労働者がさまざまな形で分断され、それが意識にも深く浸透していること

 日本の労働者階級の構造において、団結・連帯を掘り崩す階層的・差別的構造が拡大している。労働者は、①大きくは正規と非正規、②男性と女性、③外国人労働者、④職種、⑤元請けと下請け、請負、等々に分断されている。また非正規労働者といっても一様ではなく、直接雇用と間接雇用(派遣)に分かれ、直接雇用もフルタイムと短時間雇用、無期雇用と有期雇用とに分かれている。直接雇用の非正規労働者はパート、アルバイト、契約社員、嘱託社員、等である。派遣労働者の中では、3ヶ月契約の土建、警備、配送、さらにはネットでの日雇い派遣などがとくに厳しい。これらに、近年急速に増大し広義では1670万人(ランサーズ「フリーランス実態調査2021」)にものぼるフリーランスの問題が付け加わる。
 最大の分断は正規労働者と非正規労働者のあいだにある。格差の問題が重要であるがそれだけではない。あたかも身分制度、雇用主と非雇用者、あるいは管理者・命令者と絶対的服従者のような関係に置かれている場合がある。雇用主に向かうべき憎しみが、目の前の正規労働者に向かうことが極めて多い。パワハラ・セクハラも後を絶たない。
 
(4)難しさの原因の第4は、真の労働者政党が存在していないこと

 労働運動の活性化にとって真の労働者政党の存在

の有無は決定的に重要なことだが、短期的には実現の見通しがない困難な課題である。しかし、最低賃金の抜本的引き上げや非正規労働者の雇用不安定の克服、長時間労働の規制、医療・社会保障の切り捨て反対や消費税減税・廃止など、労働者・人民の切迫した生活を守るには、部分的にも自公政権の反労働者的・反人民的政策を転換させなければならない。そのためには当面、労働組合運動が全力を挙げて大衆的な闘争を展開し、これらの政治的要求を実現するよう諸野党を突き上げ続けるしかない。労働運動と政治闘争の結合が不可欠である。
 ところが昨年の衆議院選挙での立憲民主党の議席激減と維新の躍進、泉立憲の「提案路線」が国会の雰囲気を与党ペースに一変させた。加えて反中・反ロの挙国一致で国会は与野党対決から翼賛体制状態に陥っている。諸野党は、ウクライナ問題ではバイデンやゼレンスキーの戦争政策を全面支持し、香港問題・新疆ウイグル問題・尖閣諸島問題・南シナ海問題・「台湾有事」問題では中国に対する好戦的な態度を鮮明にし、れいわ新選組を除き挙国一致で、米日帝国主義批判もNATO批判もまったくない。しかも日本共産党がその先頭に立っている。同党は反ロ感情に乗じて千島列島全体の返還要求、領土ナショナリズムを改めて掲げた。今、反中・嫌中、反ロ・嫌ロを露わにすることは、政府・自民党、維新が「ロシア脅威論」「中国脅威論」に乗じて加速する対中軍拡・戦争準備や「核共有論」や9条改憲に事実上同調することになる。共産党は、一方で野党共闘の軸として自公政権との対決を進め、軍拡反対・戦争法廃止・9条改憲阻止を掲げていながら、他方でこの闘いに冷水を浴びせているのだ。
 労働者階級の利益を守る真の労働者政党が切実に求められている。

[4] 日本の労働運動に求められているもっとも切実な要求

 日本の労働者階級の状態の一段の悪化と労働運動のさらなる後退のなかで、そして政府と経団連の政策の深化に対抗して、闘う労働組合は、どのように課題を設定すべきか、またどのような要求を前に出すのかを迫られている。

(1)直面している最大の課題は「見えない失業」を「見える化」すること

 リーマンショックの時は「年越し派遣村」という形で可視化された。派遣切りで主として若い男性の労働者が仕事とともに住居からもたたき出され、野宿に耐えられない年末に、地方から炊き出しを求めて日比谷公園へ歩く姿が連日テレビで報道された。多くのユニオンと労働組合、ボランティア、そして政党を中心に結集し強力な実行委員会が結成され、大規模で活発な活動を展開した。
 ところがこの「見える化」という課題が今回はもっとも難しい。だがこれが現在の日本の労働運動が抱えている奥深い問題である。「見えない失業」の見えない理由は、直接には労働組合の主力になっている正規労働者の問題ではなく非正規労働者の問題であること、男性ではなく女性労働者の問題であること、そして大学生や高校生、高齢者のアルバイト労働者の問題であることにある。しかし政府と資本家の新自由主義的政策によって最も追い詰められている労働者のこのような問題こそ、今日の労働問題の集中点だ。労働組合が自分の問題として取り組んでいくべき課題なのだ。
 われわれは、非正規労働者は現代資本主義における「相対的過剰人口または産業予備軍」の一形態であると考えている。これは資本主義的生産が不可避的に生み出す失業者・半失業者として存在する、資本の中位の増殖欲求にとって過剰な労働者人口である。そしてこの「相対的過剰人口」は「資本主義的蓄積の槓杆、いやそれどころか資本主義的生産様式の実存条件」(資本論第1巻第23章第3、4節)である。すなわち非正規労働者の存在は正規労働者を資本に縛り付ける役割をも果たしているのだ。もっと言えば非正規労働者の解放なしには正規労働者の解放もありえないのだ。われわれは、あらためて非正規労働者の問題を全労働者の問題として闘うよう働きかけていかねばならない。

(2)重要な要求内容

 日本の労働者の賃金引き下げに歯止めをかけ、それを下から底上げしていくためには、またそれと一体である雇用の不安定と闘うためには、次の2つの要求が不可欠である。
 第1は、最低賃金要求の決定的重要性だ。非正規労働者が大きな比重を占める以前には、最低賃金は組合運動の主要な課題とはならなかった。だが現在は最低賃金の1・3倍未満が31・6%にもなる(2020年、後藤道夫)。3分の1の労働者にとって影響があるということだ。韓国では2019年の最賃引き上げによって直接影響を受けた人はなんと25・0%にもなった。だから今では、最低賃金要求こそが正規労働者を含む全労働者の状態の改善にとっても根本的に重要なのだ。
 確かに、闘う姿勢を持っている労組は共通して最賃要求として時給1500円(月収で22万5000円になる)を掲げている。これは最賃の重要性を訴えるきわめて重要な運動である。単身労働者の必要生計費を考えると客観的には妥当な要求額でもある。しかしこの最賃要求を実現する具体的道筋は見えてこない。最賃は政治的要求でもあるので、連合や野党の現状を考えるとなおさらだ。だがそれだけではない。1500円要求がアメリカの「Fight for $15」の直輸入としてはじまったこともあり、まだ日本の労働者の内部から湧き出た切実な要求とはなっていないのだ。
 だから、最低賃金をできるだけ多くの労働者が自分の問題だと実感しうるような形で要求することが切実に求められている。まず最初に必要なことは宣伝活動の強化である。周辺のとくに若い労働者や女性労働者に自分の時給を自覚してもらい、それを最低賃金と比較して一緒に考える。その上で、自分の属している企業や業種、産業に対する最低賃金要求について真剣に考え直してみる。この作業を周りの仲間に広げていくことで大きな一歩になる。
 最低賃金と関連して、条件のあるところでは公契約条例制定の闘いが大きな意義を持つ。これは自治体に、率先して低賃金を許さない取り組みをさせることである。官製ワーキングプアを減らす取り組みをさせることである。自治労や地域の労働組合、部落解放同盟や市民運動等々を巻き込んだ運動を展開する必要がある。
 第2は、非正規労働者の問題だ。この問題は根本的には正規労働者との差別的扱いである。したがってたえず格差是正、同一価値労働同一賃金要求として闘われている。だが直接的には、極度の低賃金の問題である。第1の最低賃金の問題と切り離しがたく結びついている。女性の非正規労働者の場合はフル勤務でも平均賃金が19万3300円なので、時給換算では約1300円で最低賃金930円の1・3倍にすぎない。半数が最低賃金引き上げの影響を受けうる範囲にあるのだ。
 非正規労働者を直接に苦しめているもう一つの問題は雇用不安だ。すなわち有期雇用の問題である。この有期雇用の問題には3つの側面がある。1つは何年働いてもどれほど経験を積んでも給与が上がらないこと。2つ目はたえず雇用不安にさらされており、長期的な生活設計が立たないこと。そしてこのことと関連して3つ目の側面がある。労働者としての権利の側面である。有期雇用の労働者は、少しでも反抗的なそぶりを見せれば、「合法的」にごく普通に解雇される。だから有期雇用の問題は、労働者の闘う権利にかかわるきわめて重要な問題なのだ。
 非正規の研究者に対しても、理化学研究所が「無期転換ルール(研究職は10年)逃れ」のため、2023年3月末に期限のくる約300名を中心に約600名を雇い止めにしようとしている。労働組合は闘いを開始した。
 公務員の非正規雇用問題である会計年度任用職員については、本紙でも2回連続して取り上げている。これは、政府と自治体が政策的に労働者に低賃金と無権利状態を押しつけているということであり、この問題に対する闘いは政治的にもきわめて重要である。
 以上の2つの要求(最低賃金要求と非正規労働者の問題についての要求)は一体であり、労働者の生存にかかわる切実この上ない問題である。そしてその直接の当事者である労働者の問題であると同時に、正規労働者を含む全労働者、全労働組合の課題である。すなわち労働者階級の政治的要求である。

[5] 現に闘っている労働組合の活動に学び連帯し共に闘おう

 労働運動の新しい方向を探っていくためにはいくつもの難しい課題がある。だがそれらの課題に挑戦し闘っている多くの労働組合がある。

(1)連合の指導部と一線を画し粘り強く闘う労働運動が存在している

 連合は日本の労働組合運動において決定的な力を持っているが、すべてを支配しているわけではない。さまざまな形で積極的な運動が展開されている。
 正規が主体の労働組合でも非正規労働者の問題に真剣に取り組んでいるところがある。成功しているのは郵政産業労働者ユニオン(郵政ユニオン)である。郵政ユニオンは非正規労働者を組織しているだけでなく、その課題を積極的に取り上げて闘っている。2020年10月には非正規労働者に対する差別を訴えた労働契約法20条をめぐる最高裁判決において、差別的制度を前提とする限界内ではあるが画期的な勝利を勝ち取った。
 各地でもさまざまな取り組みが進んでいる。自治労Y労組は結成当初から、正規のみならず非正規の嘱託員・非常勤嘱託員(現在の会計年度任用職員)を積極的に組織し、その賃金・労働条件の改善に積極的に取り組んできた。今では組合員の半数を非正規労働者が占め、その中から書記長および執行委員も選任されている。
 現に組織されている労働者が正規だけである場合も非正規労働者の時給のあまりの低さに、また権利の劣悪さに、組合と正規の労働者が強い怒りを持っている。とくに非正規労働者が圧倒的多数を占めている職場では、組合は、彼ら彼女らを組織するか、別組織として連帯するか、いずれにしても強い共感と一体性なしには運動の本格的な前進はありえない。

(2)非正規労働者自身も多くの困難を抱えながら徐々にではあるが組織化に進みつつある

 非正規労働者が自ら闘いを組織しているところもある。T市の図書館非常勤職員&嘱託職員の組合である。女性非正規労働者中心の組合で、T市当局と交渉し重要な成果を勝ち取っている。諸ユニオンも非正規労働者の組織化とその定着に苦闘している。NPOやさまざまな支援団体も献身的な努力を重ねている。あるユニオンのように、ダブルワーク・トリプルワークの女性労働者を中心にゆるやかにつながり、農園などを楽しみながら学習をするユニークな取り組みもある。また部落解放同盟は地域組織であるが、非正規労働者が多い。非正規労働者の問題を、共闘している労働組合と共通の課題として取り組んでいる。

(3)安定した雇用と生活できる賃金を政府・資本家の責任として追及していこう

 新自由主義時代における「雇用責任」=「使用者概念」をめぐる最大の争点は、それを広義に解釈するのかそれとも狭義にしか解釈しないかである。経営者は、非正規労働者に対し、さらには「雇用関係がない」とするギグワーカーやフリーランスに対し、「雇用責任」を回避しようとしている。最近では、葬儀会社ベルコの「個人請負」や、ヘアカット「QBハウス」の「労働者が労働者を雇用」という形の「偽装雇用」のような異常に悪質な事例まで現れている。だから非正規労働者の闘いは資本家に「雇用責任」を認めさせることからはじまる。それは生活できる賃金、正常な労働時間を保証させるための基礎だ。この闘いは同時に、すべてを労働者の「自己責任」に帰するものにさせようとする政府と経団連への反撃の集中点なのだ。
 雇用責任を明確にさせる闘いは全国で展開されている。「無期転換ルール」に関する脱法行為に対して闘いが広がっている。派遣労働者の雇用責任を派遣先に対して追及する闘いも少しずつはじまっている。ギグワーカーやフリーランスについても、ヨーロッパ諸国と韓国、米カリフォルニア州では労働者と見なし、プラットフォーマーの雇用者責任を認定する動きが進んでいる。
 以上のような闘いを足がかりとしながら、われわれはあらためて、資本家と政府に「雇用責任」を果たすよう要求していく必要がある。
 資本家と国家の責任を追及する闘争は権利のための闘争でもある。この権利は基本的には憲法に基礎を置いている。だから憲法改悪反対闘争は労働者自身にとってもきわめて重要である。とくに第25条を中心とする条項は非正規労働者の問題に直接にかかわる。非正規労働者の問題を、あらためて労働者の権利の問題として、かつ人間らしい生活を営む権利の問題として、9条改憲反対と結びつけて闘争の前面に押し出していく必要がある。
 経済闘争、思想闘争、そして政治闘争はどれも階級闘争の不可欠の一部である。

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 春闘は後半戦に入った。連合春闘は早々と山場を終えたが、中小企業を中心とする春闘はなお続いている。「けんり春闘」も本番である。
 まん延防止等重点措置は全面解除されたが、感染者数は高止まりしたまま、早くも第7波の恐れが予測されている。コロナ禍で1年以上の長期失業者が64万人にもなっているが、雇用調整助成金によって休業者にとどまっていた労働者も失業者に転落する可能性がある。
 さらに物価が急激に上昇し始めた。円安と原油高が原因だ。ウクライナ戦争がこれに拍車をかけている。食料品、ガソリン、電気代等が急上昇して、わずかばかりの賃上げを吹き飛ばすだけでなく、生活を一段と脅かしている。
 連合のメーデーは単なる祭典になっているが、闘う労働組合の日比谷メーデーなども計画されている。
われわれは、そのような闘いに連帯し、足元の労働組合や地域組織、市民運動を強化しつつ、労働者の状態を少しでも着実に改善していけるような労働運動を目的意識的に追求していきたい。

2022年4月8日 『コミュニスト・デモクラット』編集局

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