NATO批判をすればバッシングを受ける異様な雰囲気
ウクライナ戦争について、「NATOの東方拡大が根本原因」などと主張しようものなら、「プーチンを擁護するのか」「ロシアの侵略を支持するのか」というような感情的な非難や批判が浴びせかけられる異様な雰囲気がある。「あなたたちは米国の戦争は非難するがロシアの戦争は非難しないのか」とダブルスタンダードを糾弾する声も出る。
われわれは次のように主張する。ウクライナ戦争は、ロシアによる国際法違反の侵略戦争であり、われわれは反対である。すでにウクライナの被害は甚大であり、多大な犠牲者が出ている。ロシアはいますぐ軍事行動を停止し撤退すべきだ。一方、ウクライナ戦争は、米とNATO(北大西洋条約機構)によって仕掛けられた戦争である。米兵の血を一滴も流すことなく、ウクライナ人民に武器を持たせて戦争の最前線に立たせ、膨大な死傷者と難民、避難民、甚大な被害を強いる戦争である。巨額の軍事費と兵器弾薬を費消して軍産複合体に利益をもたらす戦争である。ロシアを戦争の泥沼に引きずり込み、軍事的経済的に疲弊させ、国力をそぎ落としていく戦争である。根本原因はNATOの東方拡大とウクライナ東部のロシア人への弾圧である。ロシア・プーチン大統領が一方的に悪で、米バイデン大統領とウクライナ・ゼレンスキー大統領が正義であるかのように言うのは間違いだ。
われわれがNATOの東方拡大を批判するのは、停戦協定を実現し悲惨な戦争を一刻も早く終わらせるために、ウクライナのNATO加盟=東方拡大の断念を宣言することが不可欠と考えるからである。
NATO東方拡大は国際公約違反
そもそもNATOとは、ソ連・東欧諸国を封じ込めるために1949年に米と西側帝国主義が作った反共軍事同盟である。ソ連は社会主義体制を防衛するために1955年ワルシャワ条約機構を作った。米とNATOは核軍事力を背景にソ連に核軍拡競争と米ソ冷戦を強いてソ連を疲弊させ、崩壊の一つの要因を作った。
1991年のソ連崩壊とワルシャワ条約機構の解体によってNATOの役割は終わったはずだ。しかし米とNATOは冷戦の続きとして、大国であるロシアの国力を徹底的に弱体化することをめざしてNATOを維持拡大し軍事対決を継続した。すなわち経済的には新自由主義的な経済改革=ショック療法を押しつけることで経済を破綻に追い込み、軍事的にはワルシャワ条約機構の解体にとどまらず、自らの侵略的軍事同盟、侵略的軍事ブロックNATOに東欧諸国とかつてのソ連邦構成国をとりこむことを追求し、次々と実現してきたのだ。1999年、チェコ、ハンガリー、ポーランド加盟。2004年、ブルガリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、スロバキア、スロベニア加盟。2009年、アルバニアとクロアチア加盟。2017年、モンテネグロ加盟。2020年、北マケドニア加盟。すでに2008年には、米国は最終的にウクライナをNATO加盟国として組み入れるつもりだと宣言していたのである。
これは重大な国際公約違反であった。ソ連崩壊直前の1990年に締結されたドイツ最終規定条約において統一ドイツの地位とNATO加盟を認める一方、旧東ドイツ領域での外国軍部隊駐留の禁止や「エルベ川を越えてNATOを拡張しない」ことが確認された。翌1991年ゴルバチョフ大統領との間でNATOは「1インチも拡大しない」ことを再度確認している。ところがクリントン政権は1996年、国際公約を反故にして旧ソ連圏へのNATO拡大へ動いたのだ。このときに重大な役割を果たしたのが民主党議員であったバイデンである。バイデンはNATO拡大を熱烈に支持し〝バルト三国への拡大がロシアに対する最大の脅威となり、地域の力関係を変える〟と喜々として語ったのである。
侵略的軍事同盟の性格を露わにしたNATO
NATOは役割を終え解体するどころか、侵略的軍事同盟としての性格を露わにし、数々の侵略戦争を実際に闘いながらNATO東方拡大を進めていった。民族紛争にNATOが介入したユーゴをめぐる一連の紛争、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(1992年~1995年)、コソボ紛争(1996年~1999年)では、おびただしい犠牲者と難民、避難民を生み出した。特に1999年3月、東欧諸国の取り込みの開始とほぼ同時に行われた米とNATO軍による大規模空爆は、政治的に欧米と対立しロシアに親和性のあったセルビアを一方的に悪魔化し、侵略し、多民族国家ユーゴスラヴィアをバラバラに分裂・崩壊させた。アフガニスタン戦争では、2001年10月2日にNATOとして集団的自衛権を発動し、NATOを中心に編成された米と同盟国が激しい空爆を行い、タリバン政権を崩壊させ、国土を焦土化した。2003年開戦のイラク戦争は国連安保理決議が出されずNATOとしての参戦はしなかったが、NATO加盟諸国が有志連合軍を結成し、イラクに総攻撃を加えた。この攻撃には、チェコ、ポーランド、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア等東欧の新たなNATO加盟諸国が参加している。2011年からはじまる「リビア内戦」は、NATOが大規模な空爆を行い、直接の軍事支援をした反体制派による戦争であり、カダフィ政権打倒とカダフィ暗殺を実行した。米国にさからえば制裁や軍事恫喝にとどまらず、政権が打倒され、国家元首さえ絞首刑・爆殺され、国土が破壊され、国民の命も人権も蹂躙されることを現実の戦争で示しながら、侵略戦争への協力とNATOへの加盟を強硬に推し進めてきたのである。NATOに加盟した東欧諸国も米国に踏み絵を踏まされてきたことになる。これが「NATO拡大」の姿だ。
ロシアのプーチン政権はNATOに対する警戒を強める。NATOはリビアに軍事介入しカダフィ政権を打倒した。また反動アラブ君主諸国と一緒にロシアの同盟国シリアに対して「内戦」を仕掛けた。ロシア政府はアサド政権の防衛と支援に明確に舵を切った。さらに2014年に米政府が主導したウクライナでのクーデター(「マイダン革命」)、その後の東部ドネツク、ルガンスクのロシア系住民への攻撃・迫害、そして昨年の2月の、NATO加盟と東部2州およびクリミア奪還を今年中に実現するとのゼレンスキー大統領の表明は、軍事的危機がロシアそのものに迫っていることをプーチン大統領に確信させたのである。
ユーゴ、アフガニスタン、イラク、リビアと続く米とNATOによる侵略戦争と国家破壊、元首殺戮を目の前で見せつけられ、モスクワにミサイルで数分のところまで包囲網が狭められ、ウクライナのNATO加盟までが日程に上る事に対しての、ロシアの恐怖はどのようなものか。現在、エストニア、リトアニア、ルーマニアに空軍基地がおかれ、米軍とNATOの多国籍軍は、エストニア、リトアニア、ラトビア、ポーランド、ルーマニアに集結している。NATOミサイル防衛施設はポーランドとルーマニアにある。これらすべての前方軍事施設の対象はロシアだ。「もしミサイルがカナダやメキシコとの国境に置かれたら、アメリカ人はどう反応するだろうか?」とのプーチンの言葉がこの恐怖をよく表している。
NATOは戦争の元凶 東方拡大策動を中止し解体せよ
西側メディアは、東欧諸国が自らの安全保障をNATOに求めたかのように言うがそれは全くのウソだ。米政権が恫喝と懐柔、軍事介入や制裁を使い分け、CIAやNED(全米民主主義基金)などがあの手この手で工作を行い、踏み絵を踏ませ、20年以上にわたって進めてきたのである。「ロシアが軍事的圧力をかける中でウクライナではかえってNATO加盟を望む世論が高まっています」(日本共産党)のような見方は、完全に西側メディアに毒された本末転倒である。このような論を主張するならば、旧ユーゴへの空爆もアフガンとイラクへの侵略戦争もリビアやシリアへの軍事介入もすべて「NATOの防衛措置」として正当化されるだろう。それだけではない「中国の軍事的脅威」なるものへの対抗として日米安保を支持しなければならないだろう。ウクライナ・ゼレンスキー政権への支持や連帯は、NATOの東方拡大だけでなく数々の侵略戦争を正当化することだ。
米国とその同盟諸国が30年近くにわたって追求してきたNATO拡大と侵略戦争、ハイブリッド戦争は、どのような結果をもたらしたのか。20年に及ぶアフガニスタン戦争は、米軍の撤退と共にタリバンが政権に復帰した。シリアは引き起こされた「内戦」によって深刻な人道的危機に見舞われながら、アサド政権は持ちこたえている。イラク、コソボ、ハイチ、リビア、ソマリア、イエメンでの戦争と暴力的な政権交代は、腐敗、貧困、混乱をもたらしているだけだ。キューバ、ベネズエラは、米国の制裁と反革命策動、クーデタ画策をはねのけ政権を維持している。
NATOは、ソ連社会主義圏・ワルシャワ条約機構への対抗という役割を終えたにもかかわらずその後も維持され、反米国家を恫喝し、東欧諸国を従わせ、途上諸国への侵略と略奪を行い、世界で軍事的脅威をふりまく戦争の根源として存在し続けてきた。ウクライナ戦争はその結果だ。世界から戦争を無くすために米・NATOは東方拡大策動を中止し、NATO解体へ進むべきだ。 (N)