[1] 米・NATO・ゼレンスキー政権一体となった停戦妨害、戦争拡大策動を許すな
(1) ウクライナ戦争は重大な転換点を迎えた。ブチャ事件を契機に、いったんは進み始めた停戦交渉を破壊し、戦争の拡大と長期化・泥沼化させる動きが一気に強まっている。米バイデン政権とNATO諸国だけではない。ウクライナのゼレンスキー大統領もまた一緒になって、停戦への動きをつぶし、戦争の拡大へ進もうと全力を上げている。停戦交渉の破壊を許さず、戦争拡大・長期化ではなく、即時停戦・和平を要求し実現することが、世界の反戦運動の喫緊の課題である。
ロシア軍がキエフ州から撤退を始めて4日後の4月3日、突如として西側メディアは一斉に「ブチャの大虐殺」を報じた。それは、3月29日のトルコでの停戦交渉で、不安定ながらも合意に向かう動きが出始めた直後のことだ。停戦の動きに対する妨害、猛烈な巻き返しが始まった。米国を先頭に西側帝国主義諸国による政治的軍事的テコ入れとブチャ事件による大々的なロシア非難である。米・NATO諸国とメディアは「市民ジェノサイド」「戦争犯罪」だとロシアを糾弾し、反ロシア感情を扇動して、ウクライナを停戦協議から引き離し、戦争の長期化・泥沼化に引きずりこもうとしている。ゼレンスキーも国連安保理で「大戦後最も恐ろしい戦争犯罪」だと糾弾し、再び徹底抗戦を唱えて停戦を破壊する側に転換した。ロシアとの協議継続は言明したが、6日にはこれまでの合意内容を覆す提案を行い、停戦交渉を大きく後退させた。NATO首脳会議に参加したウクライナ外相は、「兵器、兵器、兵器」と露骨な軍事支援を要求した。
(2) 「市民虐殺」については、ロシア軍が関与を全面的に否定しているだけでなく、すでに多くの疑義が出ている。真相は不明だ。死亡の原因、時期、場所など法医学的な証拠が何も示されていない。誰が犯人か、死者のうちどれだけが戦闘に巻き込まれた犠牲者か、どれだけが意図的な虐殺の犠牲者かさえ不明だ。われわれもまた強い疑念を抱かざるをえない。これまでロシア系住民に対して容赦ない虐殺を繰り返してきたアゾフ大隊が、今なお虐殺や残虐行為を繰り返しており、それをロシアの行為に見せかけている可能性があるからである。何よりも事件に関する事実調査と原因究明が先決である。
米とNATO諸国はウクライナ側からの情報だけに基づいて、ここぞとばかりロシアを国連人権理事会から排除し、ウクライナへの一層の武器供与に踏み出した。
極めつけは、バイデンによる攻撃兵器の大量供給を柱とする軍事的てこ入れだ。トルコでの交渉の翌日(30日)にゼレンスキーに電話をかけ、5億ドル支援の意向を伝えた。国防総省も1日、ウクライナの安全保障にさらに3億ドル分のレーザー誘導ロケット、ドローン、弾薬等を供与すると決めた。さらにバイデンはウクライナへの旧ソ連製戦車の供与を進めている。チェコがウクライナにT72戦車と装甲車を、スロヴァキアもS300対空ミサイルシステムを供与した。英国も長距離砲や対空ミサイルシステム供与に踏み切ることを決めた。ウクライナを防御から攻勢・攻撃に転じさせるための攻撃兵器の供与だ。米のミリー統合参謀本部長は5日下院でウクライナ戦争は数年続くと語り、米軍は東欧派遣軍の増強に乗り出した。
われわれは、戦争の拡大にも持続にも反対だ。市民の犠牲が増えることに反対だ。直ちに停戦すべきである。
(3) 日本のメディアではほとんど報じられないが、ロシア・ウクライナの停戦交渉に一旦は前向きな変化が生じ、停戦のための条件ができ始めていた。
3月29日の停戦協議でゼレンスキー大統領から一歩進んだ譲歩案が提起された。ウクライナがNATO加盟を断念する代わりに、ウクライナの安全保障を(安保理を含む諸国が)国際的に保証する「中立化」提案だ。その下で「非核化」も実施すると。クリミヤの帰属については15年間かけて協議し、東部2州は首脳会談で話し合うという提案だった。それまでの徹底抗戦・軍事的解決一本槍とは異なり、現実的で落ち着いた提案だった。
これに対して、ロシア側は、ウクライナの首都キエフと北部チェルニヒウへの攻撃を「劇的に減らす」と提案した。ロシア軍は予告通り既にキエフ州全体から撤退した。これによる軍事局面の変化もまた、停戦交渉と政治交渉への移行の条件を高めた。
まだ不安定で、未解決問題が残るにせよ、停戦交渉は合意の可能性が出てきていたのである。
(4) ロシア軍のウクライナに対する軍事侵攻は、他国領土を蹂躙し、民衆を殺戮する侵略戦争であり、国際法の公然たる侵害である。我々は断じて許すことはできない。市民の死者は国連統計で1400人を超える。410万人以上の女性や子どもが国外に避難し、国内避難を含めると1000万人、人口の4分の1を上回る。軍事基地だけでなく多くの工場、インフラが被害を受け激戦地では街が瓦礫となった。ウクライナ人民に与えた被害、跳ね返ってロシア兵士などに与えた被害は極めて大きなものだ。プーチン政権は即座に侵攻を中止し、撤退しなければならない。
戦争勃発当初、世界の反戦運動の中では、ロシア非難・即時撤退要求と共に「ウクライナを助けろ」の声が全体を席巻していた。米・NATOに矛先を向け批判する運動に対しては、「ロシアを擁護するのか」といった感情的な非難が浴びせられた。だが、米と西側帝国主義の戦争拡大策動がエスカレートし、停戦交渉を破壊する動きが露骨になるにつれ、戦争拡大と長期化に反対し、停戦と外交交渉による解決を主張する運動が勢いを増しつつある。
現局面における反戦運動の任務は、まず第1に、即時停戦・和平を最前面に押し出すこと、第2に、これを妨害する勢力、米・NATOと西側帝国主義に主要な矛先を向けることである。バイデンと米・NATO、日本を含む西側帝国主義の政府・メディアによる、またアゾフなどウクライナのネオナチ勢力による停戦・和平への妨害、破壊策動を暴露・批判し、これを阻止すること、もう一度、停戦・和平への動きを確かなものとして作り出していくことが喫緊の課題である。
第3は、西側帝国主義の戦争拡大を徹底的に批判し、戦争反対、ロシア軍撤退に共鳴している人々を停戦要求に引き付け、戦争拡大に利用させないことである。異常なまでのロシア憎悪、戦争拡大に直結する扇情的宣伝と明確に一線を画すことが重要である。
これまでアフガニスタン、イラク、シリア侵略戦争に反対してきた反米・反帝の戦闘的な反戦平和グループ(英国でのストップ戦争連合や米国のコードピンクなど)は、「ウクライナでの戦争反対」「ロシアは撤兵せよ」というスローガンに加えて「NATOの拡大反対」を掲げ、自国帝国主義との闘いを第1の課題として闘っている。そして戦争の拡大に反対し、「飛行禁止区域設定反対」でロシア―米・NATOの戦争にすることに反対した。現在は、第1に停戦を要求し、「戦争について話すのをやめて、ロシア・ウクライナの停戦交渉を支えよう」と呼びかけている。ウクライナ外相の「兵器、兵器、兵器!」に対して、「交渉、交渉、交渉!停戦、停戦、停戦!」(コードピンク)を対置した。速やかな停戦を要求し、連帯して帝国主義の巻き返しを抑え込むことこそ反戦平和運動の課題である。
[2] ウクライナ戦争の本質は、米・NATOによる対ロシアの帝国主義戦争
(1) 今回のウクライナ戦争は2月24日、ロシア軍がウクライナに全面侵攻した2国間戦争として始まった。実際に血を流しているのは、ウクライナの軍および民衆と、侵攻したロシア軍である。その意味では、ロシアとウクライナの間の戦争である。共にオリガルヒが経済を支配する資本主義国家であり、資本主義国同士の戦争である。
しかし、今回の戦争の本質は別のところにある。ロシア―ウクライナの2国間戦争は瞬時にグローバルな規模の世界的な戦争、米を盟主とする西側帝国主義全体によるプーチン率いるロシアを打倒する帝国主義戦争に転化した。
実際に、米帝国主義は、直接派兵を除くほとんどすべての参戦形態を実行に移している。
――ウクライナ政府・軍を実際に指揮・指導しているのは米国務省、米軍や米諜報機関要員、米民間軍事会社である。これにNATO諸国の政府・軍事要員・諜報機関が加わる。
――米・NATO軍は、ロシア軍の位置や軍事行動等の偵察・監視などの衛星情報を米・NATO軍指揮下で提供している。
――米・NATOは、3万発を超える対戦車ミサイル、数千発の対空ミサイル、武器・弾薬など膨大な軍需物資を提供。使用方法を含めて訓練している。周辺国にも軍隊を配備。
――アゾフ大隊などネオナチの武装・訓練も米・NATOがやっている。
――さらに各国から数万に達する「志願兵」=傭兵を送り込んで戦わせている。
――ウソ・デマを垂れ流しているのも戦争広告代理店や米・NATOのサイバー部隊である。その情報垂れ流しを西側メディア全体が行い、これにフェイスブックやツイッターなどが協力している。
――金融・経済戦争もれっきとした戦争行為である。決済システムSWIFTからの排除や石油・ガス禁輸など経済制裁から、スポーツ・メディアの停止・排除などあらゆる制裁を総動員している。
――さらに同調圧力が全世界に広がり、ロシア進出企業を撤退に追い込んでいる。等々。
明らかに米と西側帝国主義の全体が猛烈な規模と勢いでロシアに襲いかかっているのである。
すでに米は、昨年12月段階でロシア軍の集結と、米ロ会談が不発に終われば侵攻する可能性を予見し準備していた。米大使館員や在ウクライナ米国人に避難指示を出していた。それどころか昨春の段階で、ゼレンスキー大統領の冒険主義的な行動の危険性を察知していた。今年2月までに米は10億ドル(ウクライナの年間軍事費の2倍)をつぎ込み数千発の対戦車ミサイルと対空ミサイルを持ち込みロシア軍に備えさせた。だからこそ瞬時に軍事的、金融的・経済的措置を打ち出せたのだ。この意味からも、米ロ戦争なのである。
その本質を端的に表したのが、3月26日ポーランドでのバイデンによる「この男は権力の座にとどまってはならない」という、プーチン打倒宣言だ。はからずもバイデンは、米帝国主義の対ロシア戦争という本質を自己暴露したのである。
(2) 「戦争は別の手段による政治の延長である」(クラウゼビッツ)――レーニンは第一次世界大戦の勃発後、英仏と独との間の植民地領土と勢力圏の略奪を巡る帝国主義間戦争を糾弾した際に、このテーゼを引用した。これに従えば、今回の戦争の本質がより明確となる。
結論をいえば、歴史的起源は「米・NATOの東方拡大」に尽きる。
――そもそもは、ソ連崩壊直前、東ドイツの西ドイツへの併合時に、ゴルバチョフと当時の米欧政府の指導者たちとの間で交わされた外交的約束「1インチたりとも東へ移動しない」を破ったことに始まる。
――その後、米・NATOは、5回にわたり、1000㎞もロシア側に拡大した。1999年3月、第5次拡大(ポーランド、ハンガリー、チェコ)で、あとはウクライナを残すだけとなった。ウクライナを加盟させ、米軍と核弾頭搭載可能な中距離ミサイルを配備すれば完成する。
――米・NATO軍はソ連解体後侵略的性格を露骨にした。95年8―9月にボスニア・ヘルツェゴビナ紛争でセルビアを空爆し、第5次拡大とほぼ同時、1999年3月には旧ユーゴ・セルビアを空爆した。コソボ紛争でセルビアを一方的に悪魔化し、侵略し、多民族国家ユーゴスラヴィアをバラバラに分裂・崩壊させた。その後も、アフガニスタンやイラク、リビア、シリアなどを侵略し占領支配し、これらの国々の元首を公開処刑し、大量虐殺を行い、膨大な難民を生み出し、産業・国土を破壊し解体した。
――第5次拡大以降、旧ソ連圏諸国で、民主選挙で選ばれた反米・反EU指導者を「不正選挙」で指弾し、似非「人権団体」、CIAや米国務省が直接関与するNGO、西側メディアなどを総動員して「カラー革命」なるクーデターを実行し、次々と政権転覆していった。2000年のセルビアのブルドーザー革命、2003年グルジアのバラ革命、2004年ウクライナのオレンジ革命、2005年キルギスのチューリップ革命など。
要するに、米・NATOの東方拡大と反米・親ロ政権の転覆は、米・NATOによる計画的な犯行だったのである。ウクライナが加盟すれば、次はロシアの政権転覆につながるとプーチンが危機感を抱くのは当然であった。
もはや米欧帝国主義の野望、その戦争目的は明らかだ。第1に、ロシアを徹底的に叩きのめし、プーチンを退陣に追い込み、二度と西側帝国主義に逆らえないようにすること。途中でゼレンスキーに降りられては困るのだ。第2は、ロシアを打ち負かすことで、社会主義中国の台頭、中露協力の急拡大の下で、衰退してきた米帝国主義の政治的・軍事的覇権を再確立すること。だから盛んに、米とEUが中国のロシア支援を牽制し、両者の分断を図ろうとしているのである。
それだけではない。第3に、バイデン政権が議会で決めた軍拡予算は軍産複合体に巨利を与え、対ロ制裁の口実の下、ヨーロッパという巨大なロシアの石油・ガス市場を奪うメドをつけた。まさに帝国主義的な市場・経済圏の略奪に道筋をつけたのだ。
(3) もう一つの問題は、ウクライナ戦争がすでに8年前に始まっていたということだ。米・NATOによる親ロ政権の暴力的転覆である。2014年のマイダン・クーデターによる親ロ派ヤヌコヴィッチ大統領に対する暴力的な政権転覆、後継親米政権と政権転覆の立役者であるネオナチのアゾフ大隊によるロシア系住民の排除とロシア語禁止などその後に起こったロシア系住民の企業・公職からの追放、ネオナチ武装組織によるロシア系住民の襲撃・殺戮事件、そうしたクーデター政権に対抗するために防衛的に起ち上がったロシア系住民による住民投票とクリミアのロシアへの併合、東部2州ドネツク、ルガンスクの一部の独立宣言は、連続した一連の政治過程であった。前記の「カラー革命」のウクライナ版であり、米・NATO東方拡大と不可分一体のものであった。
7日のギリシャ国会での演説で自分の後にアゾフ大隊の戦闘員に演説させたことに象徴されるように、ゼレンスキー政権はネオナチと深く融合・一体化した右翼政権である。軍の中枢をはじめ国家機構、行政の多くにネオナチが影響力を持っている。マイダン・クーデター後、共産党、労働組合が禁止された。戦争が始まって成人男子の出国禁止と戦争への協力義務付け、3月には野党の多くに活動禁止を命ずるなど強権政治だ。今や、ウクライナは世界中からネオナチ・ファシストの戦闘員が結集する、世界のネオナチ運動のセンターになっている。
ゼレンスキーは大統領選時には東部2州問題の平和解決を掲げたが、極右派に迎合して方針転換した。昨年2月21日、支持率を低下させていたゼレンスキーが、起死回生の博打を打つ。NATO加盟、クリミアと東部2州の奪還、これを何と2022年、つまり今年中に実現すると演説した。3月にはミンスク停戦合意の不履行を宣言した。対立は決定的となった。NATO加盟すれば、米が核弾頭搭載可能な中距離ミサイルを配備する可能性が大きかった。マリウポリを軍事的に支配するアゾフ大隊とこのネオナチ部隊を統合したウクライナ軍が、クリミアと東部2州の軍事的奪還に動くことは明らかだった。ネオナチと組んで軍事的冒険主義に打って出ようとしたゼレンスキー政権が今年中にNATO加盟すれば、数年内に「集団的自衛権」発動によってロシアと米・NATOの全面戦争になる。その危険が極度に高まった。しかし、ゼレンスキーはロシア側からの度重なる警告を無視し、NATO加盟も困難であったにも関わらず、加盟再考も緊張緩和、戦争回避のための行動も何一つ取らなかった。米から大量に供与された武器を頼りの軍事的冒険主義を取ったのだ。
(4) 歴史的経緯を見る限り、今回の戦争の本質、責任が米・NATOと米欧帝国主義にあることは歴然としている。
現に戦争直前、昨年12月と今年の1月、プーチンは大きく3つの要求を掲げてバイデン政権に交渉を呼びかけた。ところがバイデンはゼロ回答、門前払いを繰り返し、交渉する態度を全く示さなかった。約30年もの間、ロシアは米・NATOが東方拡大する度に、米欧政府に警告し、ソ連崩壊過程の国際公約に立ち返るよう求めてきた。西側はこれをすべて拒否し続けた。ゼレンスキーはNATO加盟再考もミンスク停戦合意の履行も行なわず、外交的話し合いも求めなかった。
ロシアの戦争目的は、はっきりしている。ウクライナ領土の獲得ではない。ウクライナのNATO加盟断念(これが「中立化」)、アゾフ大隊などネオナチの解体・解散とウクライナ軍への打撃(これが「非軍事化」)、中距離ミサイル配備断念(これが「非核化」)。これに東部2州の安定化、独立の承認がある。
しかし、米欧日の西側政府も西側メディアも、戦争に至る詳しい歴史的経緯にも停戦・和平交渉の詳細にも関心がない。メディアも正確に伝えていない。
エリツィン時代には米・西側帝国主義に屈従的・迎合的であり、石油資源をも西側石油メジャーに差し出すまで買弁的であったロシアの政治家・官僚・オリガルヒが、プーチン時代に一転して、自立した国家資本主義を目指し、米・西側帝国主義に逆らうようになった。米帝国主義にとって従順でない軍事大国・核大国は打倒の対象でしかない。これが米と西側帝国主義のロシア打倒の衝動力である。ましてや、このロシアが社会主義中国と準同盟関係に入るのは許しがたいのだ。
(5) NATOは米帝国主義の軍事覇権、世界覇権のための道具である。冷戦時代だけでなく、むしろソ連崩壊後、対ロシア、対途上国で侵略性、攻撃性は増している。
NATOの東方拡大は単に欧州だけでの問題ではない。米に屈服し従属しない国家を標的にしているのだ。だから中国封じ込めのためNATOをアジアまで拡大しようとしている。今回もNATO外相会議に日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを初めて参加させ、対ロ制裁・包囲、ウクライナ軍事支援とともに、中国の対ロ支援を封じる圧力形成に動き出した。NATOをアジアまで広げ、アジア版NATO=AUKUS、日米同盟、米韓同盟と一体化すること、対中軍事包囲を狙っている。
(6) 米バイデンが執拗に停戦・和平を妨害し、武器援助で戦争を長期化・泥沼化させようとするのは、今日の国際的力関係、反米・反帝の側に有利に進みつつある国際的力関係を再逆転する絶好の機会と見ているからである。停戦・和平への局面転換が進めば、この格好のチャンスを失い、米・NATOと西側帝国主義の対ロ戦争政策が窮地に陥れられるからだ。だから彼らは妨害に必死なのである。
実際、米・NATOの対ロ戦争政策が国際的な支持を得ているわけではない。7日の国連総会は人権理事会でのロシアの資格停止を決めたが、193か国中93か国の支持にとどまった。反対24、棄権58、無投票18と、支持を上回った。前回のロシア非難決議(支持140)と比べて支持が大幅に減少し、反対、棄権が大幅に増えている。対ロ経済制裁に踏み込んだ国は米、EU(27国)を含めて48国に過ぎない。中東・ラ米・中央アジアではほとんどの国が加担せず、アジアでも日本・韓国・台湾以外はほとんど制裁に参加していない。中国もインドも制裁には反対だ。
その背景には、米欧日の西側帝国主義による事実上の戦争行為=経済戦争に匹敵する経済制裁・経済封鎖に苦しみ、歴史的にも現在も、絶えず西側帝国主義からの内政干渉や軍事介入を受けてきた事実がある。さらに制裁を通じて米欧帝国主義が支配力を強めようとしていることに警戒しているのだ。
[3]翼賛国会を許すなーー岸田政権の対ロ制裁、改憲策動、対中戦争準備のエスカレートに反対しよう
(1) 日本国内においても、ブチャ事件を契機としてロシア非難と対ロ強硬姿勢が一気にエスカレートした。岸田首相は8日、ロシア外交官8人の即時国外追放、石炭の輸入禁止、機械、木材、ウオッカ等の輸入禁止、ロシア最大手銀行の資産凍結など、西側の帝国主義諸国に同調した追加の対ロシア制裁に踏み切った。対ロ対決・強硬姿勢への転換である。
岸田政権は、ウクライナ侵攻に対して即座に、西側諸国の経済・金融制裁への参加を表明した。SWIFT排除を支持しロシアのドル決済からの排除=貿易からの排除、領空内のロシア機飛行禁止、日本企業のロシアでの営業中止や新規投資凍結などの措置を行ってきた。さらに従来の武器輸出3原則を捻じ曲げ、輸出禁止先である紛争当事国に軍用ヘルメット、防弾チョッキ等武器(軍装品)を供与した。どさくさ紛れに武器輸出の制限を取っ払い、ウクライナ軍増強と市民の兵士化に協力してきた。
われわれは、日本の対ロ制裁とウクライナ戦争継続への加担に断固反対する。
(2) 対ロ強硬姿勢だけではない。ウクライナ戦争に乗じて、改憲策動、軍事費増と対中戦争準備を一気呵成に進めようとする危険な動きが前面に出てきた。自民、維新を始め極右・改憲勢力が調子に乗り、勢いづいている。
衆参院の憲法審査会は毎週開かれ、そこでは与党に加え維新と国民民主が改憲議論を加速する姿勢を強めている。自民党の憲法改正実現本部は8日、自衛隊を明記する9条改憲を柱に「機運醸成運動」=草の根の改憲運動を全国に広げることを確認した。安倍晋三を「目玉講師」として前面に押し立て極右・保守層に訴え、ウクライナ危機とコロナ禍を最大限に利用して改憲機運を全国に押し広げることを目論んでいる。
彼らは「ウクライナは他人事ではない。今度は中国が台湾を攻撃する」「ウクライナがミサイル攻撃にさらされているのは敵基地攻撃能力がないから」「軍事費を大幅に増やすべき」「『核共有』が必要」「憲法9条では国は守れない」などと言いたて、対中国戦争準備、敵基地攻撃能力獲得、そのための軍事費大幅拡大を、憲法改悪と連動させて一気に推し進めようとしている。自民党はこの期に軍事費GDP比2%を政府方針とすることを目論んでいる。さらに、今年中に国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防を全面改定し、南西諸島等への対艦ミサイル、対空ミサイル部隊の配備と要塞化を進め、日米安保強化、対中軍事包囲を進めるつもりだ。いわば「戦争ショックドクトリン」である。こうした動きに直ちに反撃し、批判を強めることが必要だ。
(3) 岸田政権とメディアは、停戦や和平、交渉による解決を決して口にせず、朝から晩までロシア非難を垂れ流し、戦争熱を煽り立てている。さらに日本共産党を先頭にほとんどすべての野党が、ロシア憎悪に取り憑かれて西側帝国主義政府に同調し、戦争の拡大・長期化に加担している。国会全体が、自らへの支持を呼びかけるゼレンスキー演説を礼賛した。ウクライナ戦争を契機に、国会の体制翼賛化が一段とエスカレートし、極めて危険な政治状況が生み出されていることに警鐘を乱打せずにはおれない。立憲民主は、対決法案と位置づけていた経済安保法案に対し、反対を貫くことが出来ず賛成に転じた。与野党対決が急速に消失しつつある。
このような中で共産党の志位委員長は7日、「急迫不正の主権侵害が起こった場合には、自衛隊を含めてあらゆる手段を行使して、国民の命と日本の主権を守りぬく」と自衛隊の戦争行為を公然と認めた。9条改憲反対を唱えながら、それに真っ向から反する方向に大きく一歩踏み出したのである。
日本の反戦平和運動の目下の最重要任務は、ウクライナ戦争を絶好の機会とばかりに憲法改悪と軍拡・戦争準備に一斉に動き始めた日本政府・自民党・維新・極右に明確に矛先を向けて闘うことである。
全力を挙げて改憲策動を阻止しよう。9条と憲法の平和主義を守り抜くことで、アジアで中国やロシアとの平和共存を打ち固めることができる。対中軍拡、戦争準備、軍事費拡大に反対し、日米軍事同盟強化と対中軍事包囲に反対する闘争を強めよう。
2022年4月9日 『コミュニスト・デモクラット』編集局