[1]米主導で開戦前夜の状況を創出 西側メディアのデマを見抜こう
(1) 米帝国主義がヨーロッパで戦争のドラムを鳴り響かせている。バイデン大統領をはじめ政府高官が「明日にもロシアがウクライナに侵攻」と繰り返している。昨年12月からずっとだ。米英はウクライナから大使館員家族を退避させた。2月10日には米国民全員の退去を勧告した。まるで宣戦布告だ。ブリンケン国務長官は1月26日、ロシアの求める「NATOの東方拡大禁止」にゼロ回答し、「戦争でも政治交渉でもどちらでも用意はできている」と挑発した。英国はジョンソン首相が先頭に立って「ロシアはウクライナで政府転覆を狙っている」と戦争を煽っている。偶発戦争の危険が高まっている。
実際、米・NATOは開戦態勢を加速している。ポーランドとルーマニアに米兵3千人を派兵し、NATO即応軍4万人態勢に備え8500人の米部隊に待機を命じた。3回にわたって数百トンの大量の武器・弾薬・ミサイルをウクライナに供与している。イギリスも2000発もの対戦車ミサイルや対空ミサイルを供与した。米国は4機の戦略爆撃機B52を英国基地に配備した。米英ともウクライナ兵士の訓練のために兵士を送った。また英独はルーマニアへ各350人の増派を決めた。地中海では米仏伊等の空母が大規模演習を行い威嚇している。
プーチン大統領が何度も「ウクライナに侵攻する意思はない」と強調しているだけではない。当のウクライナのゼレンスキー大統領が火消しに走り始めた。「明日にも戦争になるかのように話すのは誤りだ」「米英大使館職員の退避は誤りだ」など。最初に今回のウクライナ危機を演出したのは同大統領なのだが、本気で開戦に突き進む米英の動きに恐怖を覚えたのだ。
まるでアフガニスタン戦争、イラク戦争前夜のような状況だ。挑発者ゼレンスキー自身が、「ロシアは攻める気はない」と叫び、米英を牽制しているのだ。どちらが戦争を挑発し、どちらが防衛に回っているのかは明らかだ。
(2) 米帝国主義の戦争マシーン、軍産複合体の戦争熱が激しく回転し始めたのだ。米国経済は戦争なしに回らない。阻止しなければ大惨事になる。戦場はウクライナのみならずヨーロッパ全体に広がる。一刻も早く阻止しなければならない。
米の侵略は常にでっち上げから始まった。9・11同時多発テロの責任をタリバンに転嫁しアフガニスタンに攻め込んだし、「大量破壊兵器」をでっち上げてイラクを侵略した。昨夏アフガニスタンから敗走するまでの20年間、中東で戦争を続け、100万人単位の民衆を殺戮し、数百万単位の難民・避難民を生み出し、国土を破壊し続けた。米国はここ数年、「台湾侵攻」を煽り、対中戦争・対中軍拡を推し進めてきた。それでは飽き足らず、今度はロシアを相手に戦争をしようというのだ。
米英・NATOは、即刻戦争挑発をやめよ。ウクライナ周辺国に集結させている兵員を撤退させ、武器・弾薬・ミサイルの供与を撤回せよ。緊張緩和に向けた対話に入れ。
米戦争マシーンには西側の大手企業メディアが加わっている。CNNやBBC、米3大ネットワーク、ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、ロイターなど3大通信社、これらと連携する日本のメディア全部だ。開戦前夜で最も危険なのはこれらメディアの進軍ラッパ、戦争プロパガンダだ。彼らが、過去にイラク「大量破壊兵器論」でいかに恥ずべきでっち上げを煽動したかなど、全く反省なしだ。
最近では、米NBCがロシア侵攻に備えた「普通の市民の訓練風景」を流したが、これはウクライナ軍とも連携するネオナチ武装勢力アゾフ大隊の訓練であった。米欧メディアは、キエフやハリコフで普通に生活する一般市民の風景を取材するのではなく、ロシア軍の戦車や演習を繰り返し垂れ流している。彼らは米・NATO軍やウクライナ軍の演習は報道しない。
メディアが人々に刷り込むのは「ロシアの悪魔化」だ。米・NATOが煽っているのに、ロシアがウクライナを侵略するとデマ宣伝をしている。「ロシア軍の侵攻抑止へ国際社会は結束を」「予見できないロシアの行動を憂慮する」(日経)、「ロシアの主張は通らぬ」(朝日)、「ロシアの侵攻防がねばならぬ」(読売)など。「中国の悪魔化」と全く同じ手口だ。
メディアのデマ宣伝を暴こう。緊張の高まる今こそ、誰が誰に仕掛けているのか、誰に向けて戦争反対の行動をすればいいか、しっかりと見極めることが必要だ。
(3) 米帝国主義が戦争瀬戸際政策
で脅せば世界中がひれ伏すのか、あるいはもはや米帝国主義の恫喝は効力がないのか。世界は重大な岐路に立っている。中国とロシアは2月4日、北京冬季オリンピックの開会式に併せて会談を行い、「多極性の新時代」を宣言する共同声明を発表し、NATOの東方拡大に反対し、米帝国主義の対中戦争準備とロシアへの戦争挑発に公然と対決する姿勢を世界に示した。
戦場にならない米英と、戦場になり天然ガスでロシアと結びつくドイツ・フランスの間に亀裂が走っている。独仏は盛んにウクライナ内部の停戦を働きかけ、ロシアとの戦争回避を探っている。
また、米欧で対ロシア戦争に反対する反戦運動が展開されている。ANSWER連合やCODEPINK、米国平和評議会など全米100団体がバイデンに瀬戸際外交をやめるよう抗議行動を起こした。イギリスでもストップ戦争連合が動き始めた。
[2] 西側メディアが一切報じないプーチンの懸念
ウクライナNATO加盟の現実的危険
(1) バイデン政権はなぜ対ロシア戦争挑発に躍起となっているのか。それは秋の米中間選挙に向けてバイデン民主党が窮地に陥っているからだ。インフレ爆発と物価高、昨夏のアフガニスタンからの撤退の失敗、コロナ政策での混乱などで支持率が急落し、共和党に敗北するという危機感がある。対中戦争挑発と対ロシア戦争挑発で起死回生の逆転を狙っているのだ。戦場になるのは何千キロも離れたヨーロッパである。偶発的衝突が起きても米本土に何の支障もない。米にとっては天然ガスなど対ロ制裁も他人事である。
英ジョンソン政権も同じだ。コロナ失策と不祥事で保守党内部からも首相解任論が出ている。内政危機を戦争で挽回しようと目論むのは帝国主義国家の常套手段だ。
(2) 目先の政治的思惑だけではない。元凶はロシア敵視の米軍事戦略、ソ連社会主義体制の崩壊以降推し進めてきた米・NATOの長期的な帝国主義覇権戦略=東方拡大戦略がある。歴代米政権は、社会主義を崩壊させただけでは飽き足らず、ロシアそのものを「バルカン化」し、バラバラに解体する戦略を推し進めてきた。
バイデン政権は、「安保戦略」の公表を先送りし、対中封じ込め一辺倒を修正し、対ロ封じ込めとの2本立てにする方向に転換した。対ロシア戦争は、国防総省の主要シンクタンクであるRANDコーポレーションが2019年に発表した報告書「拡張するロシア」(Extending Russia)に明記されている。この文書は、モスクワの「弱点」につけ込み、封じ込める様々な方法を提起している。その「地政学的措置」の筆頭に「ウクライナへ支援」を挙げたのである。その他、「シリア反政府勢力への支援」「ベラルーシの政権交代」「南コーカサスの緊張を利用」「中央アジアにおけるロシアの影響力を減らす」などが列挙され、現在そのほとんどが米CIA・ペンタゴン・国務省によって遂行されている。
米国は1990年のドイツ再統一交渉の過程で米国がNATOを東方に拡大しない、欧州で緊張緩和を進めることをロシアに約束した。ところがNATOはソ連崩壊後、5回に渡って新規加盟国を増やし拡大した。この30年間、軍事力の配備と攻撃拠点を次々とロシアに近づけ、ロシア包囲網をギリギリと狭め、軍事的威嚇を強化してきた。さらに米国は中距離核(INF)全廃条約を破棄し、ポーランドとルーマニアには米国のミサイル防衛システム(イージス・アショア)を配備し、その発射機は攻撃的中距離ミサイルの発射が可能だ。バルト諸国やポーランドなどにも米軍を配備した。黒海ではNATO艦隊が大規模な軍事演習を繰返している。そして遂にロシアと直接対峙するウクライナを加盟させる段階に来た。
(3) ロシアは今回の危機に対して和平提案を提示した。①軍事的緊張を高めるウクライナへのNATO拡大を行わない、②東欧に展開したNATO軍を撤収する、③周辺での軍事演習を行わないというものだ。しかし、1月に行われた協議で米・NATO側は和平に動くつもりは一切なく、物別れに終わった。米・NATOが「ロシア侵攻」の宣伝を一気に強めたのはこの直後からだ。その後もロシアは前記和平提案を要求し続けている。
ここでロシアが主張するNATOの東方拡大中止要求の根幹は、「ウクライナ加盟の中止」だ。なぜロシアは、ウクライナの加盟を許せないのか。それは、米NATOとロシアとの全面戦争に拡大するからである。
第1に、ウクライナに中距離ミサイルを配備すれば、モスクワを数分で攻撃でき、ロシア領の数千キロをカバーできる。米政府は、INF条約も破棄した。プーチンは「キューバ危機」を例に挙げる。米国はかつてキューバへのミサイル配備を阻止しようとしたではないか、と。
第2に、ウクライナがクリミアの奪還を公式文書で宣言していることだ。プーチンは、こう主張する。「ウクライナがクリミアで作戦を開始すると仮定しよう。クリミアはロシアの主権に属する領土だ。・・・ウクライナがNATO加盟国として軍事作戦行動を開始することを想像してみてほしい。我々
はどうするのか。NATOブロックと戦うのか。このことに考えを巡らせたものはいるだろうか。明らかに答は『ノー』だ」(2月1日、プーチン記者会見)と。プーチンは、ウクライナのNATO加盟の現実的な戦争の脅威に踏み込むなと警告したのである。米・NATOは「そんなことを考えたことはあるのか」と。ロシアは、戦争しか考えない米・NATOに対して近未来のヨーロッパ戦争の現実的危険を未然に防止すべきだと主張しているのである。西側メディアはプーチンのこの正当な警告を全く報道しなかった。
[3]バイデン政権はゼレンスキーに対ロ戦争挑発をけしかけるな
「ミンスク停戦合意」遵守を
(1) 今回のウクライナ危機の直接の引き金は、親米・親NATO=反ロシアのゼレンスキー政権によるロシア系住民に対する攻撃、戦争挑発、民族抑圧だ。ロシア軍がウクライナ国境に兵士を集めたのは、昨年10月にウクライナ政府が2014年の「ミンスク停戦合意」に反してウクライナ東部の親ロシア勢力「ドネツク人民共和国」に対してトルコ製ドローンによる攻撃を行ったことが直接の原因だ。
ゼレンスキー政権の軍・警察機構は極右ファッショ勢力、ウクライナ民族至上主義勢力と一体である。ウクライナ国防軍にはネオナチ武装勢力が加わっている。彼らが繰り返しロシア人居住地域へ攻撃を仕掛け、多数の住民を殺害している。ロシア側は、ゼレンスキー政権の攻撃に手を焼いているのである。堪忍袋の緒が切れて、停戦遵守を求めるためにロシア国内の国境付近に兵力を集め、演習をしたというのが真実だ。ロシア側の動きはロシア人を守るための防衛的措置であって、ウクライナ侵攻が目的ではない。
しかし、実はこの背後には米政府の対ロ強硬政策への転換がある。発端はバイデン政権誕生直後の3月の「プーチンは人殺し」発言に遡る。ロシアとの融和の側面もあったトランプ時代から一転してバイデン政権がロシア封じ込めを優先し始めたのだ。その後、黒海で米英艦隊の挑発が続き、英駆逐艦のロシア国境侵犯では警告射撃に発展するまで緊張した。そして今回の危機は発展した。
米政府とウクライナ政府は、ウクライナ東部地域およびクリミアの奪還でロシアを挑発することで利害が一致し、意図的に緊張を激化させているのである。
(2) そもそもウクライナ問題そのものが2014年に正当な選挙で選出された親ロシア派のヤヌコビッチ政権を、米・NATOが極右・ファッショ的民族主義者らを使ってクーデター(マイダン革命)で打倒し、親米ポロシェンコに権力を握らせたことに始まる。まさにオバマ、バイデン政権が主導した。そしてこれがロシア系が多い東部住民がファッショ勢力の襲撃と大量殺戮を恐れ、ポロシェンコ政権との間で深刻な内戦を引き起こした。クリミア半島住民(全世帯の82%がロシア語)が襲撃を恐れて国民投票でロシアへの帰属(95%支持)を決めたのもこの時だ。それだけではない。ポロシェンコはロシア語を禁止し、2019年2月には憲法を改定し、ウクライナのNATO加盟を決めたのである。
ウクライナでの戦争を回避し、緊張緩和と安定を図るには、3つの措置を同時並行で進めることである。
――第1に、何よりも米政府が戦争宣伝を直ちに中止し、軍事的威嚇をやめること。メディアの進軍ラッパを止めることだ。ロシア周辺からの米・NATO軍の兵力撤退、武器・弾薬・ミサイルの供与中止・撤回などの信頼醸成措置が大前提である。米・NATOが政治決断すればロシアは無条件で応じる。そうすれば双方の軍事演習などの抑制・縮小につながる。
――第2に、ゼレンスキー政権に対して、「ミンスク合意」を遵守させること、ロシア人多住地域への攻撃、民族浄化作戦を中止させること。ウクライナ・ロシア・独・仏は今年1月26日にミンスク合意遵守を前提に対話を続けることで一致した。ロシア系住民の多住地域に対する自治の保障、あるいは住民投票と独立など、複雑で極めて難しい問題だが対話しか道はない。すでに2014年にウクライナ内戦で多大な犠牲が払われた。民族紛争の打開は政治的解決を目指すしかないのである。
――第3に、米・NATOが「東方拡大戦略」を断念すること。これがヨーロッパとロシアとの恒久的な平和と安定につながる。
[4] 岸田政権は米・NATOの対ロ戦争挑発に加担するな
(1) 衆議院本会議は2月8日、「ウクライナをめぐる憂慮すべき状況の改善を求める決議」を与野党の賛成で可決した。反対したのはれいわ新撰組だけだ。「中国非難決議」と全く同じ構図だ。ウクライナをめぐる緊張がロシアのウクライナ侵攻の意図によって起こっているかのように決めつけ、「力による現状変更は容認できない」と一方的に断罪するロシア非難決議だ。しかし、緊張を高めているのは米・NATOの東方拡大であり、東欧増派や武器・弾薬供与である。ロシアに責任を擦り付け、米欧の戦争挑発を正当化する決議は戦争を煽るものでしかない。われわれは断固反対だ。
(2) それだけではない。政府は2月9日、米国からの要請を受け、戦争勃発を前提に、欧州に液化天然ガス(LNG)を融通する方針を決定した。
バイデン政権は、ドイツやEUに対してロシア産LNGと手を切るよう強要し始めた。EUは天然ガス輸入先の約4割をロシアが占める。公然と米国と共に対ロシア戦争に加担する全く危険な戦争行為だ。東方拡大を支持しつつも、緊張緩和に動いているドイツやフランスとも異なる。われわれは対ロシア戦争挑発に加担する岸田政権、対ロシア与野党翼賛体制を厳しく批判し、直ちに米・NATOへの加担をやめるよう要求する。
2022年2月10日 『コミュニスト・デモクラット』編集局