なぜイランは1ヶ月以上もの間、強大かつ獰猛な米=イスラエル帝国主義の侵略に耐え抜くことができているのか? トランプやネタニヤフ、西側の政治指導者やメディア、ネオファシストからリベラル、さらには左翼・共産主義者まで、誰もこの謎を理解していない。われわれは、イランが「分散型モザイク防衛」戦略と併せて、それを支える「抵抗型経済」を試行錯誤で創り上げたことを今回初めて知った。本解説でその一端を明らかにしたい。
(編集局)
[1]反米・反イスラエルと「抵抗型経済」は一体のもの
(1)イランの「抵抗型経済」は、米=イスラエル帝国主義による半世紀近くにおよぶ侵略と制裁によって強いられたものだ。民主的に選出されたモサデク首相が石油国有化を断行した途端、英米は経済封鎖を行い、1953年にCIA主導のクーデターでモサデク政権を転覆させた。傀儡政権パフラヴィ王政が残忍な弾圧・虐殺を繰り返した。1979年のイスラム革命は人民の怒りと不満が爆発した結果だ。その直後、米帝の支援を受けたイラクがイランを侵略し、1980年から88年の8年にもわたる侵略と殺戮・破壊を続けた。そして昨年6月の「12日間戦争」に続き、今回の本格的侵略である。
経済制裁も途切れることなく続いた。イラン大使館占拠事件(1979~81年)以来の制裁が続く中、2000年代以降は、「核兵器開発」を口実に国連・米・EUが金融、石油、防衛産業などに制裁を強化した。2018年にはトランプが一方的に「核合意」(JCPOA)を破棄し、制裁を再適用した。このように、イランは、1979年のイラン革命以降、平和的環境下で経済発展をする余裕が全く与えられなかったのだ。
(2)イランの政治権力は複雑な二重構造からなる。イスラム革命の理念を引き継ぐ宗教権力と、国民の選挙で選出される大統領権力・議会権力である。軍事・政治・外交は前者が、経済・社会政策は後者が担うが、いずれも実質的な最終決定権は前者にある。
しかし、大統領や議会がいくら西側に迎合しても制裁解除を懇願しても、いくら新自由主義政策で労働者・人民の生活を破壊しても、結局は「独裁」や「人権」や「核開発」など難癖を付けて、制裁は解除されなかった。なぜなら制裁は、労働者・人民を痛めつけ、イランの宗教権力と大統領・議会権力に対する反乱、「カラー革命」を引き起こす手段でしかなかったからだ。ハメネイ師が主導する宗教権力の下、大統領・議会権力も米=イスラエル=西側帝国主義と真正面から闘う以外になかった。一部の左翼・共産主義者は、民族独立抜きに、あれこれの「人権」「民主主義」を呼びかけ、宗教権力の打倒を呼びかける。しかし、イランでは反米・反イスラエルの民族独立・民族解放を徹底させ実現することなしに、民主主義的変革はあり得ない。
[2]「抵抗型経済」への転換点と具体的内容~自給自足経済と生産拠点の分散化
(1)転換点はオバマ政権による厳しい制裁圧力(2010~12年)、金融制裁・石油輸出制裁であった。これにアフマディネジャド大統領の経済失政が加わり、イラン経済は深刻な危機に陥った。イランは制裁解除のための譲歩が何の意味もないことを思い知った。
このイラン最大の難局で決断したのは、今回の侵略直後に暗殺されたあの最高指導者アリー・ハメネイ師であった。同師は2014年2月、「抵抗型経済」を24項目の政策綱領として正式発令した。同師は、「イランが革命的・イスラム的文化に根ざした国内・科学的経済パラダイムに従うならば、すべての経済問題を克服し、全面的な経済戦争を仕掛ける敵を退散・敗北させるだけでなく、科学・技術・正義にもとづく経済を実現できる」と宣言した。24項目の主な内容は以下の通りである。
●石油輸出への財政依存の段階的削減
●石油以外の輸出の多角化(農産物・鉱物資源・工業製品)
●国産品消費の奨励と国内生産の品質向上
●知識基盤企業(ダネシュ・ボニャン)の育成
●海外からの原材料・技術依存の削減
●エネルギー・食糧・医薬品・防衛における自給体制の構築
●汚職・経済犯罪の根絶
●外国企業が撤退した分野への政府・イスラム革命防衛隊(IRGC)主導の参入
その後、「穏健派」のロウハニ大統領(2013~21年)は西側資本の導入で再度制裁解除に動くが、ハメネイ師は「制裁は必ず発動される」と警告し、結局その通りとなった。同師の権威と「抵抗型経済」の意義は飛躍的に高まった。

(2)この「抵抗型経済」が実際にイラン経済構造を大きく転換させたのは、2018年に第一期トランプが「核合意」を一方的に破棄し、イランと取引する「第三国の企業・個人」に対する包括的な二次制裁を再発動した時である。そして2025年2月、第二期トランプはイラン石油輸出ゼロを目指す包括的制裁体制を敷いた。その後7月にはイラン関連個人・企業・船舶を対象とする過去最大の制裁を実施した。
これに対抗してイラン政府は、外貨準備の流出を防ぎ、国内市場を保護するため、1300品目以上の海外製品の輸入を即座に禁止した。イランはこれを「強制的保護主義」と主張した。欧米や韓国などの多国籍企業はイラン市場から一斉に撤退した。イランの人口は9300万人、トルコと並ぶ中東有数の消費市場を有する。西側商品が姿を消したこの巨大消費市場に向けて、国内の中小零細企業が一挙に参入し、自給自足生産能力を劇的に拡大させることとなった。制裁強化をきっかけに国内企業が多国籍企業に取って代わったのである。皮肉にも、制裁がイランの自立経済を可能にしたのだ。家電、自動車、繊維、医薬品などで外資が支配していた産業で国産化が実現した(表参照)。
それだけではない。これら産業の生産拠点が全土に張り巡らされたのだ。今回の米=イスラエルの激しい空爆下にあっても、イランの国内供給網は致命的な崩壊を免れ、市場には生活必需品が供給され続けた。この驚異的な回復力の背景には、イラン経済の計画的な「分散化」がある。イラン全土には500カ所以上の工業団地が点在しており、数千に及ぶ中小企業が国内生産の重責を担い、全土に広がる小規模商店・マイクロ店舗を通じて販売されている。この生産・販売の地理的分散により、一部の地域や大規模工場がミサイル攻撃で破壊されたとしても、他の多くの地域や業者が即座に代わって供給を補完する。
何よりも「抵抗型経済」は人民の支持に支えられている。米=イスラエルが妄想した反政府暴動は起こらず、逆に人民の抵抗と団結が強まった。危機時におけるイラン特有の「草の根の連帯」が市場の安定化に大きく寄与している。今回も工場の経営者や労働者たちは「人間の命を優先しつつも生産を継続する」と宣言し、ストライキ中であったトラック運転手たちも即座に職場に復帰して物資の輸送に尽力した。多くの地域社会では、店舗の買い占めを防ぐために店主たちが自主的な配給制を導入し、原価で生活必需品を提供するなどの相互扶助機能が発揮された。もちろん戦時下のインフレ・物価高、商品不足はある。しかし、政府による迅速な価格統制や物資配給網の稼働と相まって、日用品の劇的な価格高騰が最低限に抑えられているのである。
(3)「抵抗型経済」と国産化・自立経済を可能にしたのは、「知識基盤」、つまり科学立国を目指し、ICT教育を軸に国家が教育に重点投資した結果でもある。学生数の爆発的増加(1979年の17.5万人から2015年に480万人へ)と工業エンジニアの大量育成(年間20万人以上の工学系卒業生)は、軍事・民間の技術開発を担う人材基盤を形成してきた。宇宙・航空・核医学・バイオテクノロジー・ナノテクノロジーなど、「抵抗型経済」が重点化した分野での民間・軍事の双用技術(デュアルユース)が、今回の戦争でも大いに役立った。帝国主義フェミニストのプロパガンダにもかかわらず、女性は大学生の6割(理工系では7割)を占め、医療・教育・公的機関への高い社会進出を達成している。
抵抗型経済の最も重要な成果は軍事分野に集約される。地下施設に分散した国産ミサイル・無人機の生産工場、独自の誘導技術、電子対抗システムなどは、制裁下での「知識基盤産業」育成の副産物である。イランは2023年時点で防衛装備の国内自給率が93%に達している。
[3]イスラム革命防衛隊主導の国家資本主義
(1)イラン経済の根幹を握るのが、軍隊であるイスラム革命防衛隊(IRGC)が所有し経営する国有・半国有企業群だ。その経済的影響力は、イラン・イラク戦争後に、戦後復興のためにIRGCの工兵組織・兵站能力をベースに、1990年に「カターム・アル=アンビヤー建設本部」(Ghorb)が発足したことから本格化する。現在、同社は、812社以上の子会社を擁する巨大コングロマリットであり、多くの政府契約を受注してきた。約2万5000人の技術者・スタッフを抱える。主要事業はダム・水利システム、高速道路、トンネル、大型建築物、海洋構造物、石油・ガス・水道パイプラインなどのインフラ建設である。IRGC抜きに地下ミサイル都市や山体洞窟基地は作れなかった。
イランの政治経済の最も際立った特徴の一つは、イスラム革命防衛隊(IRGC)と宗教財団「ボニャド(Bonyad)」が経済・軍事・政治・イデオロギーを統合した「軍・ボニャド複合体」を形成していることである。IRGCと関連機関の合計はGDPの50%から80%を占めるという研究もあるほど、その存在は決定的だ。イランは、IRGCが前記の膨大な民営の中小零細企業群を主導する国家資本主義経済と言われる。
従って、米=イスラエルと西側の政府・メディアは、このIRGCを「利権団体」「汚職・腐敗団体」「軍事独裁」の権化として非難を集中する。一部の左翼・共産主義者もこれに同調する。しかし、腐敗や利権があるとしても、イランの強靭な反米・反イスラエルの根幹をなすのはIRGCなのである。
(2)IRGCは厳しい制裁に対抗して「並行経済」を形成している。公式ルートでは対外取引が著しく制約されるため、IRGC系企業は非公式な貿易ルート、ドルや西側通貨以外の通貨へのアクセスを開拓したのだ。西側の政府・メディアは、これを「影の経済」「闇経済」として非難するが、制裁こそが不当かつ理不尽なのである。
その典型が対中国石油取引の制裁回避ネットワークだ。中国は、イラン産原油をインドネシアやマレーシアで積み替えて輸入していると言われている。そして代金支払いも米・西側が支配するSWIFT・ドル決済を迂回する独特のシステム、人民元決済を軸に暗号通貨やバーター取引を介している。制裁下でのイラン最大の収入源は石油輸出であり、中国はこの約90~99%を占めると言われている。
つまり社会主義中国はイランの石油の事実上唯一の輸入国であり、イランの経済的生命線となって支えているのだ。一部の左翼が、中国に対して米=イスラエルの国際法違反を主張するだけで軍事的支援をしないことに怒りをぶつけているが、全くの誹謗中傷だ。
[4]「東方重視」戦略へのシフトで「抵抗型経済」をより強靱に
(1)イランは、すでにアフマディネジャド大統領時代の2005年に「東方重視」政策を掲げ、中国・ロシアに接近した。これは1979年のイスラム革命以来の「東でも西でもない」戦略からの転換ではあったが、中国もロシアも今ほど急速な発展は遂げていなかった。まだまだイランは制裁解除に向けて西側との貿易・投資協力を追求していた。「東方重視」戦略は、その「補完」「代替」に過ぎなかった。しかし、2018年のトランプの「核合意」破棄と第二次制裁発動で、米と西側への期待は完全に打ち砕かれた。反面、中国経済の発展は凄まじかった。
2021~22年が転換点となった。2021年8月に就任したライシ大統領が「東方重視」=ユーラシアへのシフトを最優先課題にしたのだ。2021年3月に中国の王毅外相とイランのザリフ外相が「25カ年包括的戦略パートナーシップ協定(CSP)」を締結した。この協定は、経済・文化・安全保障分野における包括的な協力の枠組みを定めた。
イラン外交政策のユーラシアへの軸足移動は、SCO(上海協力機構)との外交関係の正式化を通じても具体化された。最初のステップは、2018年の青島SCOサミットだったが、2023年7月に正式加盟した。
とりわけ「一帯一路」への参加は、イランを、アジアとヨーロッパを結ぶ高速鉄道や高速道路の最短ルートと位置付け、その経済的地位を高めた。2026年2月には、イラン・中国・ロシアの三国が新たな戦略協定に署名し、「新多極的秩序の要」と位置付けた。この協定は相互防衛条約ではないが、主権・経済協力・戦略的調整を強調した。
これら「東方重視」戦略全体がイランの経済的・外交的選択肢を強化拡大し、イランの西側市場への依存度を低減させ、制裁の破壊力を減殺することに大きく寄与した。
(2)中国とロシアは、今回の米=イスラエルの侵略に対しても、軌道監視から高度なミサイル誘導に至るまで、最先端の戦略資産を提供することでイランの「目」としてますます機能している。この協力は、昨年の「12日間戦争」以降、大幅に加速した。
ロシアの支援は重軍事装備と専用の軌道偵察に焦点を当てている。カイヤム・スパイ衛星、Su-35「フランカーE」戦闘機など。高度地平線外レーダーシステムはステルス目標や弾道ミサイルを長距離で追跡可能だ。
中国の支援はテヘランの精密攻撃能力に集中する。とりわけ米のGPSから中国の北斗3号航法システムへの移行は決定的に重要だ。イランは西側の妨害を回避する暗号化された高精度軍事信号(cm単位の精度)にアクセスできる。中国は500基以上の衛星群を活用し、イランに継続的なSIGINT(信号情報)と地形マッピングを提供している。この支援により、イランはペルシャ湾における米海軍の動きをリアルタイムで追跡できる、等々。
イランは、これら中・ロとの技術協力を通じて、ミサイルとドローンを中心とした非対称型の軍事技術に柱を置いた。ドローン技術はロシアに輸出、提供され、弾道弾でも極超音速、軌道変更、多弾頭による迎撃回避などで米を上回る技術を達成し、米とイスラエルに軍事的痛打を浴びせている。
下記 参照サイト
●マランディとの対話:イランの「抵抗型経済」は3週間でどのような役割したか?https://www.guancha.cn/MuhanmadMarandi/2026_03_19_810587.shtml
●中東監視:イランの二元体制と抵抗経済政策
https://xueqiu.com/5149251894/284283742
●テヘラン大学の教授は「『抵抗経済』こそが、米国が計画した崩壊からイランを救った」と語る
https://www.brasildefato.com.br/2026/02/13/the-resistance-economy-is-what-saved-iran-from-the-collapse-planned-by-the-us-says-professor-from-the-university-of-tehran
●IRGCは40のメガプロジェクトを実行する予定。拡大するイラン経済における役割https://mei.edu/publication/irgcs-role-irans-economy-growing-its-engineering-arm-set-execute-40-mega-projects
●抵抗から回復へ:イラン経済の生き残りをかけた闘い
https://orfme.org/expert-speak/from-resistance-to-recovery-the-iranian-economys-fight-to-survive
●イランの抵抗経済が米国制裁を打ち破る
https://crescent.icit-digital.org/articles/iran-s-resistance-economy-defeats-us-sanctions
