中国共産党20期中央委員会第四中全体会議(四中全会)が10月20~23日に開催された。四中全会の最大の任務は「第15次五カ年計画」(2026~2030年。以下、一五五)を決定することである。この四中全会と「一五五」の意義を理解するには、トランプ政権誕生と激動する国際情勢の真っただ中で開かれた米中首脳会談、この間の一連の国際会議の中で考える必要がある。以下は、われわれの理解である。
(編集局)
[1]米帝覇権の没落と中国による多国間主義秩序の再構築
(1) なぜ、この時期に開かれたのか? 四中全会は例年より1年遅れたという。この間に何が起こったか。それは、第2期トランプ政権の誕生であり、そのトランプによる対中関税戦争である。すでに第1期トランプ政権は半導体などハイテク産業への制裁を乱用していた。中国は第1期トランプと対決した前期五カ年計画を総括し、第2期トランプの攻撃をはね返せるかどうか、その帰趨を見定める必要があった。それ抜きに次期計画は立てられない。
それだけではない。トランプはボイコットで11月22~23日のG20サミットを潰そうとしたが、サミットは大成功に終わった。開会冒頭での南ア大統領主導の気候危機対策と債務返済を軸とする宣言が採択された。同時に開催されたブラジルでのCOP30気候変動サミットでも、米国の参加ボイコットの中で、社会主義中国がリーダーの役割を遺憾なく発揮した。いずれも主催国はBRICSのメンバーだ。
これらの出来事は、米帝国主義の命令一下で世界が動く時代ではなくなったことを意味する。貿易覇権、ドル・金融覇権、ハイテク覇権、軍事覇権が機能マヒし、米帝主導の一極的・覇権的国際秩序が急速に崩れ、社会主義中国が主導する多国間主義国際秩序が取って代わり始めた。
(2) 四中全会から1週間後の10月30日に米中首脳会談が開かれた。トランプの完敗であった。米帝を震えあがらせ「休戦」状態に追い込んだのは「レアアース規制強化」だ。レアアースは、半導体、ハイテク、軍事力の全てをカバーする。中国は、レアアースの採掘量の70%、精錬分離量の90%、磁石製造能力の93%を掌握している。米国や西側がレアアースの量質・価格とも同等の代替品を製造するのは困難だ。米中釜山会談で、習近平は、堂々たる態度で米中平和共存の必要性を諭した。
――今回のレアアース新規制は、輸出管理の範囲をさらに拡大し、第三国経由の輸出の抜け穴を塞ぎ、米国の軍事産業とハイテク産業チェーンの急所を直撃した。米株式市場の三大指数が軒並み急落、半年ぶりの安値を更新した。これが、米国の強硬姿勢を崩す引き金となった。このレアアース新輸出規制は、中国が従来の「対等反撃」=「受動的戦略的防御」から相手の弱点を突く「能動的戦略的反撃」への転換の号砲となった。
――実はトランプはレアース規制強化に対抗して、「ドル決済システムSWIFTからの中国の排除」を検討した。しかし発動できず未遂に終わった。なぜか? すでにAIバブル・金融バブル崩壊が差し迫っている。発動すればバブル崩壊と金融恐慌が爆発するからだ。もう一つは、米ドル・金融覇権の衰退とCIPS(人民元国際決済システム)の拡大である。今や中国は世界一の製造業大国、貿易大国で、中国は独自のCIPSを既に構築している。人民元とドルの並行システムが形成されつつあるのだ。そんな中でのSWIFTシステムからの排除は、むしろ人民元の国際化を大幅に加速させるだけだ。人民元国際化の基盤は、中国の世界最大の貨物貿易大国としての地位である。イランやベネズエラやサウジアラビアの対中原油輸出は人民元決済への移行を始めている。一帯一路沿線国における人民元決済比率はすでに65%である。中国のCIPSを利用している国は189カ国に上り、CIPSはすでに世界第2位の国際決済システムだ。軍事覇権を含む米国の覇権は全てドル覇権を基盤としており、ドル覇権の衰退は米帝国主義のさらなる没落を招く。
――米帝の命令の下でオランダが強行した中国資本の半導体企業「ネクスペリア」強制接収問題も浮上した。欧州を中心とする自動車独占体への半導体供給がストップした。この問題でも製品供給においてグローバル・サプライチェーンのカナメを中国側が握っている。オランダ政府は未だに強硬で、解決していない。しかし、米帝のハイテク覇権の限界も露わになった。
(3) 直近で明らかになったもう一つの出来事がある。米帝の軍事覇権の限界である。中国の社会主義防衛力の増大と、中国の「総合国力」の前では、米国が中国を軍事的に封じ込めることはますます困難になっている。中国の対米防衛力は、単純な軍事装備のハードパワーに依存するだけではない。国の総合国力、「科学技術―産業―国防」の連携発展という体系に依拠するものである。造船業と海軍力の一体性が典型的だ。中国の「産業優位性が国防抑止力を支える」というモデルは、米帝の侵略を萎縮させる効果がある。これが現在、高性能の新たな軍事装備が次々と登場する根本的な論理だ。9月3日の大規模軍事パレードと電磁カタパルト式空母「福建」の成功を経て、現在の中国の軍事力はもはや防御のみならず、「戦略的主動攻勢」へと移行している。
[2]「一五五」を制すれば社会主義中国が決定的優位に
(1) 今回の五カ年計画ほど国際的位置づけを強調した例はない。帝国主義は、中国が持続的発展に成功すればするほど、折り合いを付けるのではなく、ますます中国を封じ込め、抑圧する。帝国主義の圧迫は数年で終わるのではなく、長期化する。習近平総書記が強調する「百年に一度の激動期」だ。習近平指導部は手を緩めない。今回の「一五五」の最大の特徴は、中国がその社会主義建設計画をそうした長期にわたる世界史的激動期をどう突破するかという観点から組み立てられたことだ。いきなり政策の内容に入るのではなく、次期五か年計画が置かれている国際情勢を確認することから入る。
「一五五」解説書の多くはこの国内外の位置づけを強調する。並大抵ではない厳しい試練の中で遂行しなければならない。積極的に変化を認識し、渦巻き荒れ狂う大波のような重大な試練、予測不可能な外部要因に勇敢に立ち向かい、歴史的主動精神をもって、戦略的安定性を保ち、勝利への確信を強める。これが「一五五」の基本的構えである。
(2) その上に立って「一五五」は、今後5年の二重の「期間の意義」を指摘する。
――第1は、国内的意義だ。「過去を引き継ぎ、未来へ繋ぐ重要な5年」という表現で、この5年を掌握し制すれば、帝国主義との闘争において社会主義中国が決定的な優位性を確立できる。逆に言えば、この5年を掌握できなければ、2035年の目標も、2049年の「第二の百年」目標も実現が危うくなる。これがその意味である。党と党員に対し、荒れ狂う嵐を乗り越える覚悟を迫るものだ。
――第2は、国際的意義である。米帝主導の帝国主義戦争がエスカレートする中で平和共存を貫き通し、世界と人類の平和と安定を守る決意を示していることである。同時に、中国の成長と発展が新興・途上諸国に対して、帝国主義の政治的・経済的危機の中でアンカーとバラストの役割を果たそうとしていることである。
現時点でもそうだが、中国が経済成長を揺るぎなく持続すればするほど、中国主導のBRICS・SCOの政治的・経済的統合と多極化が進み、米帝主導の5大覇権はさらに衰退し没落する。
しかし、帝国主義がこのまま衰退に手をこまねくはずがない。中国は、米・西側帝国主義との闘いはこれからだと考えている。「一五五」には、今後5年間の政治・経済・ハイテク・防衛・民生の「社会主義総合国力」が全て盛り込まれている。すなわち、世界最大規模の人口を誇る「巨大国内市場」、帝国主義に追いつき追い越すほどのハイテク技術力、世界の製造業の3割以上の保有、これら全体を武器にした社会主義的貿易の拡大力を背景に、新興・途上諸国(グローバル・サウス)は言うまでもなく、西側帝国主義諸国に対しても威力を発揮する。
そしてこの「社会主義総合国力」は、異なる社会体制、異なる階級諸勢力に対して、異なるインパクトを与える。社会主義諸国、民族解放勢力に対しては反米・反帝勢力の団結、平和と安定の強固な基盤を提供する。グローバル・サウスに対しては「開発」の保証をなす「ウィンウィン協力」「一帯一路」への確信を提供する。そして米帝と西側帝国主義に対しては、一方で中国の巨大国内市場を武器に貿易と投資を誘い込み、他方で中国圧迫との「闘争計画」「闘争宣言」となる。いわば現代の国際的階級闘争の実践的な指針なのである。
[3]「一五五」は「社会主義総合国力」を誇示
(1) 「一五五」はどのようなものか?具体的中味に入ろう。公式文書には「コミュニケ」と「建議案」があるが、ここでは習近平党総書記が行った「説明」(「国民経済・社会発展第15次5ヵ年計画の策定に関する中共中央の建議案」についての説明)に沿って考えたい。計画全文は来年3月に開催予定の全国人民代表大会で発表される「綱要」で明らかにされる。
「説明」は3章からなる。「1.建議案起草の経緯」で全党を挙げた作成過程における協議と参加のメカニズムを確認する。作成そのものが「民主集中制と全過程民主主義」の実践を体現している。56の民族、都市労働者、農村農民、専門家、新興企業家、知識人など、中国の隅々から寄せられた深い議論と多様な意見を反映しているのだ。2025年5月から6月にかけての1カ月間、労働者、専門家、企業家を対象とした大規模な公開協議が実施され、31億1300万件以上の提案が寄せられた。中国を「独裁国家」と決めつける西側の左翼・共産主義者の一部は、計画は一握りのエリート党員・エリート官僚が密室で作るかのようにねじ曲げるが、全くのデマだ。
「2.建議案起草の主な考慮と建議案の基本的内容」では、社会主義現代化強国を全面的に築き上げる二段階の戦略的段取りを再確認する。第1段階は2035年までの「中程度の発達国」水準の達成、社会主義現代化の「基盤固めに注力すべき期間」であり、第2段階は2049年までの「社会主義現代化強国の建設」である。
(2) そして最後に「3.説明を要するいくつかの重点問題について」で「建議案」「コミュニケ」の中の12項目の「重要施策」を7項目にまとめて解説する。
①第1項目は前述した激動期における「一五五の時期の重要性」である。
②次は「発展目標」で、「1人当たりGDPの中進国レベル」を明記する。その「速度を保つ」ための論点を洗い出す。経済成長の合理的範囲の保持、技術進歩による生産増、住民所得の伸び率と経済成長率の一致、労働報酬の上昇率と労働生産性の上昇率の一致の保持、中間所得層の拡大。個人消費の対GDP比の向上、経済成長のメインエンジンとしての内需の役割強化、等々。
③「質の高い発展」。ここで最も重要なのは、ハイレベルの科学技術の自立自強の加速、新質生産力の積極的な発展、科学技術イノベーションの推進、新原動力の育成加速、経済構造の最適化・高度化の促進である。
④国内大循環を主軸とする国内・国際の「双循環」の円滑化。激動する国際情勢の中での経済戦略の全体像だ。「外部環境が厳しくて複雑になればなるほど、新たな発展の形の構築を加速し、発展の主導権をしっかりと握らなければならない」。「国際循環の不確実性を相殺する」ために「国内大循環の強化を堅持し、強大な国内経済循環体系の形成を急ぎ、国内循環の安定性」の強化を打ち出す。その上で、「強大な国内市場の建設、ハイレベルの社会主義市場経済体制の加速度的構築」に向けて、次を強調する。内需拡大、民生改善と消費押し上げ、「ヒトへの投資」、有効投資の拡大、全国統一大市場の構築を妨げる障壁・目詰まりの解消、等々。他方で、多角的貿易体制の擁護、質の高い「一帯一路」共同建設の推進。
⑤社会主義の大目標としての「全人民の共同富裕」への確かな一歩。特に「民生の保障と改善」をめぐり、次の面を強調する。質の高い完全雇用、所得分配制度の改善、教育の充実、社会保障体系の整備、不動産業界の質の高い発展、「健康中国」の建設、人口の質の高い発展、基本公共サービスの均等化、等々。また、地域間、都市・農村間の格差縮小に着眼し、農業・農村の現代化の加速、農村の全面的な振興の着実な推進、地域的経済配置の最適化、地域間調和発展の促進を行う。
⑥発展と国家安全保障の統一的考慮。エネルギーや食料の安全保障の他、国防と軍隊の現代化の質の高い推進を中心に据えている。
⑦最後に、以上の中国式現代化を推進する上での「根本的保証」としての「党の全面的指導」を強調する。党中央の集中的・統一的指導の強化、党中央の重要な決定・配置を実施する仕組みの整備、党の革新的理論をもって思想・意志・行動を持続的に統一する、正しい人事方針を堅持し、幹部の考課・評価の仕組みを充実させる、各分野の末端党組織の建設を統一的に推進する、中央の八項目規定の精神をたゆまず貫く、党と国家の監督体系を整える、断固として反腐敗闘争堅塁攻略戦・持久戦・総力戦に勝利する、等々。
以上の7項目(12項目の重要施策)は、一見して別々の分野の寄せ集めに見えるが、社会主義現代化強国という国家の不可欠な骨組みをなす「四梁八柱」と言われる。ある中国の論客は「一五五」解説をこう締め括る。「同志たちよ、歴史は躊躇する者、怠ける者、困難を恐れる者を決して待たない」。「国家戦略を理解し、時代の脈動を捉えてこそ、百年に一度の大変革の荒波の中で舵を安定させ、中華民族の偉大な復興という明るい彼岸へと進むことができるのだ!」
