
今回の『ハイパー帝国主義:危険な退廃的新段階』(中)は、全7部のうち、本研究の最もオリジナリティに富んだ第Ⅲ部「世界の定義」と題するグローバル・ノースとグローバル・サウスの定義、分類である。
*原文『Hyper-Imperialism:A Dangerous Decadent New Stage』
https://thetricontinental.org/studies-on-contemporary-dilemmas-4-hyper-imperialism/
(編集局)
[4]第Ⅲ部:世界の定義
(1) 第Ⅲ部は、マルクス主義者がまだ誰も挑戦したことのないグローバル・ノース(GN)とグローバル・サウス(GS)の定義づけである。忘れてならないのは、この定義が、途上国人民、民族解放闘争の側からの、過酷な歴史と実体験に基づいた規定だということである。先進帝国主義のマルクス主義者は、この定義を真摯に受け止め、自分が侵略者、収奪者の側にいるということを謙虚に自覚する必要がある。

(2) 本研究は、GNをリング1から4までの49カ国で構成される軍事、政治、経済の統合ブロックと定義している。この米国主導のブロックを「帝国主義陣営」(imperialist camp)と規定する。著者らは、このグループ化の中で、軍事機能と同時に諜報機能を重視している。なぜか?それは、新興・途上諸国が米CIA、英MI6、イスラエルのモサドなどによる政権転覆や内乱煽動・謀略・脅迫・暗殺・破壊行為などに苦しんできたからである。

GNが49カ国と多いのは、リング3と4の33カ国(日本を除く)が含まれているからである。この2つのリングにはNATO加盟国が多く、「米国主導の軍事ブロック」=米・NATO帝国主義の一翼を担っていることがその理由である。しかし、われわれは、あくまでも「米帝主導の軍事ブロック」の中心はリング1「内核」とリング2「準内核」、そしてリング3の日本を含め、16カ国だと考える。もう少し詳しく見てみよう。
① リング1は、「帝国主義の内核」(the inner core of imperialism)。第二次世界大戦の英語圏の白人戦勝国である米国主導の諜報機関「ファイブ・アイズ」(Five Eyes:米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)を中心に、「英米プロジェクト」(Anglo-American Project)の「近衛兵」(Praetorian Guard)からなる。これは、英国と、英国が生み出した「白人入植者国家」(the white settler states)によって構成されている。

われわれは、パレスチナ連帯運動の中でイスラエル国家の階級的性格を研究するまで、「入植者植民地国家」を意識することはなかった。筆者らは、いち早くこの概念を取り入れ、帝国主義陣営の「内核」として重視したのだ。
筆者らのイスラエル評価は鋭い。イスラエルは、「英米帝国主義の創造物」(the creation of British and US imperialism)であり、「第6の目」(sixth eye)として非公式に「内核」の一部と見なす。これらの米英とイスラエルの一体性は、今回のガザ大虐殺戦争で遺憾なく発揮された。西側メディアは、絶えず米国とイスラエルの矛盾を喧伝している。暴走するイスラエルとそれにブレーキをかける米国という構図だ。しかし、その度に、事実がこれを突き崩し、それがメディアの作り話であることが暴露された。結局は、イスラエルの好き放題の領土拡張と大虐殺を利用し、エジプトや湾岸王政諸国を脅迫・屈服させながら、米帝国主義が軍事覇権・石油支配のための中東の大戦略を推し進めているのである。イスラエルがどんなに残虐で荒唐無稽な旧植民地主義的な領土拡張をやっても、米国は、国連では拒否権を行使し、停戦決議を闇に葬り、武器・弾薬を供給し続け、莫大な資金援助を続け、国内では、パレスチナ連帯運動を弾圧し続けた。筆者らは言う。ハマスなど抵抗勢力がガザ監獄から突破した「2023年10月7日以降、この地域のアジェンダを推進しているのは、イスラエルではなくアメリカである」と。筆者らにとって、米=イスラエル帝国主義の主従関係(米国が主導し、イスラエルが従属する)は明白である。
ここで重要なのは、そもそもイスラエルの「創造主」である英米帝国主義からして、イスラエルを上回る血生臭ささ、凶暴さを見せつけてきたことである。本研究は言う。「英国から独立した1776年から2019年までの間、米国は245年のうち228年を戦争・紛争に費やし、『平和』に過ごしたのはわずか17年である」。しかし、イギリスは米国に劣らず侵略を繰り返してきた。「イギリスの軍隊(またはイギリスの委任を受けた軍隊)は、現在国連加盟国である世界193カ国のうち171カ国、つまり全加盟国の10カ国中9カ国を侵略し、何らかの支配権を持ち、紛争を戦ってきた」。リング1の分析は見事だ。
② リング2は、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、スウェーデン、ノルウェー、デンマークという米国主導の内核に最も近い国々である。リング1~2で15カ国である。リング2は、各国の近接性と親近性(proximity and affinity)、米国の情報機能に対する信頼性(the trustworthiness of their intelligence functions)によって定義される。これら諸国の軍事機能は、この政治的集中の本質的な表現である。
米国は、「ファイブ・アイズ」やイスラエルとの関係強化の後、デンマーク、ノルウェー、フランス、オランダを加えた「ナイン・アイズ」(Nine Eyes)を創設した。2001年には、ナイン・アイズにドイツ、ベルギー、イタリア、スペイン、スウェーデンの5カ国が加わり、「フォーティーン・アイズ」(Fourteen Eyes)となった。
③ リング3は、15カ国で構成されている。リング3まで30カ国。中国とロシアを抑制・抑圧する最前線の戦力となっている日本に特に重点を置いている。同時に、米国に忠誠を誓ってはいるものの、戦略的には他国に劣る西ヨーロッパの第二の大国も加えている。ポルトガル、ギリシャ、ルクセンブルク、アイルランド、キプロス、フィンランド、アイスランド、マルタはNATO加盟国である。
筆者らは、アイルランド以外の最初の3つのリングの帝国主義陣営に属する国々が過去数世紀、甚大な人道的災害を引き起こしてきたことを忘れない。イギリス、アメリカ、オランダは、アフリカの奴隷貿易を通じて富を収奪した。ヨーロッパ人は世界中で植民地主義を実施し、アメリカ大陸の全域、アフリカのほぼ全域、アジアの半分以上が植民地支配された。アングロサクソン系の白人移民は、アメリカ大陸、オーストラリア、ニュージーランドで先住民を強制的に追放したり殺害したりした。1842年に香港が割譲された第一次アヘン戦争、1895年の日清戦争終結時の台湾など、帝国主義による中国解体の試みは何度かあった。1884年から1885年にかけて、ヨーロッパの植民地支配者たちはベルリン会議でアフリカを恣意的に分割した。この暴力的な分割方法は、2011年のスーダン分割や、現在も続くスーダンとその民族の破壊に見られるように、今日まで衰えることなく続いている。
帝国主義陣営の諸矛盾の中からファシスト国家が生まれ、第二次世界大戦を引き起こし、少なくとも5千万人のソ連人民や 中国人民を死に至らしめた。第二次世界大戦の最終段階で、米国は民間人に原爆を使用した。今日に至るまで、米国は核兵器の先制使用を放棄せず、主要な核・ミサイル条約から一方的に脱退している。
筆者らは、決して日本帝国主義の侵略性を軽視しているのではない。こう記述している「第二次世界大戦後、日本は米国の戦略的同盟国となった。1951年に日米安全保障条約が締結され、吉田茂首相は自国に対する米軍の支配を受け入れた。冷戦時代、日本は東部戦線でソ連と中国を封じ込める重要な役割を果たし、この役割は現在も続いている。日本は2023年7月現在、ドイツ(171)に次いで米軍基地を多く抱える国(98)である」。日本は「正式なNATO加盟国ではないが、2014年以降、日本はNATOと個別に協力しており、直近では2023年7月に個別調整パートナーシップ・プログラムに合意し、過去2回のNATO首脳会議に参加している。また日本はブリュッセルのNATO本部で開催されるNATO同盟国とインド太平洋地域の4つのパートナーとの会議に大使レベルで定期的に参加している」。しかし、「日本はG7の中で唯一NATOに加盟していない」。
④ リング4は、旧東欧圏のヨーロッパ諸国19カ国である。ポーランド、ルーマニア、チェコ共和国、ウクライナ、ハンガリー、スロバキア、ブルガリア、セルビア、クロアチア、リトアニア、スロベニア、ラトビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、エストニア、アルバニア、北マケドニア、モルドバ、モンテネグロが含まれる。このうち、ウクライナ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モルドバはNATOに加盟していない。
(3) 本研究でわれわれの疑問点は、日本帝国主義が、中核国から3番目のリングに「14のヨーロッパ弱小帝国主義国」と同じ位置づけとなっていることである。米帝が社会主義中国打倒の対中戦争準備と対中包囲網を構築し、その最前線・先兵に日本帝国主義が立つ中で、われわれ日本の反戦運動に取り組む共産主義者として疑問が残る。おそらく、本研究が途上国人民と運動の観点からなので、600年にわたる白人入植者植民地国家の残虐さとは違う歴史を持つからだと考える。しかし、天皇制日本軍国主義は、明治維新以降、中国・朝鮮・アジアを侵略し、植民地支配し、3000万人以上の中国・朝鮮、アジア太平洋の人民を大量殺戮した。戦後の米ソ冷戦時代には、対ソ・対社会主義攻撃の最前線基地として、朝鮮戦争やベトナム戦争では米帝の出撃基地として米帝国主義に全面的に従属加担し、戦争を通じて急速な資本蓄積を行い、帝国主義を復活させ、「名誉白人」として白人帝国主義と共にG7帝国主義の一角を占めた。従って、日本はリング3ではなく、ドイツと同じリング2に含めるべきだと考える。
(4) 次に、世界人口の大半を占める145カ国のグローバル・サウス(GS)である。本研究のGSの定義の仕方はあくまでもリアルだ。「米帝主導の軍事ブロック」=帝国主義陣営の侵略・圧迫こそが、その結果としてグローバル・サウスを生み出したのだと主張する。詳しく見てみよう。
① 誕生のダイナミズム、「否定的統一」。 この第Ⅲ部の冒頭で、GS誕生のダイナミズムが明らかにされる。GS自身が自らの内的矛盾で生み出されたのではなく、「米国主導の軍事ブロック」の「過去4年間の行動」が「世界の残りの部分」(Rest of the World)を整列・連携させ(aligned)、排除した(excluded)結果、形成されたものだ、帝国主義の侵略と暴虐がその「否定的統一」(negative unity)を生み出したのだ、と主張する。「その結果、彼らは帝国主義陣営の否定となった」(they have become a negation of the imperialist camp)と。
また、著者らは、ロシアとベラルーシを、「発展途上国ではないが、政権転覆と服従の標的とされている」と規定し、一部共産党やトロツキスト主流派やリベラル派の「ロシア帝国主義論」とは一線を画す。
② 結束力の弱さ。統一されたブロックではない。 従って、米国主導の軍事ブロックであるGNと違い、「グローバル・サウスは、結束力、共通の集団的アイデンティティ、統一された組織や行動を欠いている」。「統一されたグループやブロックではない」。「それぞれ独自の思想や政治的アジェンダを持ち、相互の関係やGN諸国への姿勢において違いがある」。「領土紛争から地域内の政治権力闘争まで、多様な紛争が存在している」。とりわけ、「GNの核心部への近接度の違い」で結束力の弱さが出ている」。そこで筆者らは、GSを「統合された層状のリングや明確なブロックではなく、いくつかの共通属性に基づく『グループ』に分類する」。
一部共産党やトロツキストは、プラシャドやトリコンチネンタル社会調査研究所がBRICSやSCOを積極評価するのを激しく批判するが、前述したように、その弱点や限界を熟知した上で積極評価しているのだ。彼ら侵略者・収奪者の側にいる先進諸国の批判者こそ、GS誕生の歴史的なダイナミズムや「否定的統一」を見ようとしない傲岸不遜の態度である。
③ 二重三重の歴史的な実体がある。しかし、途上国マルクス主義者である筆者らは、帝国主義の植民地主義の犠牲者であるという「実体」(substance)を強調する。曰く、「実体のない人工的な概念(a fabricated concept devoid of substance)ではない。GNの帝国主義陣営の旧植民地または半植民地であり、帝国主義の下で数世紀にわたり抑圧と屈辱を受けてきた地域だ」。つまり、GSの結束力の弱さの根底にある実体は二重である。まず、今日の「米国主導の軍事ブロック」による犠牲者であり、さらにその根底に帝国主義的植民地主義の犠牲者としての長い歴史があるのだ。
④ 数世紀にわたる古い歴史だけではない。その歴史の中から誕生した社会主義中国が牽引していることである。そして第二次世界大戦後、政治的独立にもかかわらず経済的従属状態にあった途上諸国に国際的力関係をシフトさせるために創設された「第三世界プロジェクト」の歴史がある。バンドン会議(1955年)、非同盟運動(1961年)、アジア・アフリカ・ラテンアメリカ人民連帯機構(1966年)、開発途上国によって設立された国連貿易開発会議(1964年)を通じた「新しい国際経済秩序」の追求などだ。この中には、GNによる環境的・生態学的損害に対する抵抗や反発も含まれる。


これら145カ国はすべて、帝国主義の過剰膨張による甚大な圧力に耐えている。これらの国々に共通する課題は、「歴史的な低開発、第一次産業への依存、限られた工業化、対外債務、貿易不均衡、技術格差、インフラ不足、不均衡な環境危機など」だ。GSの新興ブルジョアジーの一部は、米欧帝国主義に対する信頼を徐々に失いつつあり、代わって、中国が魅力的な存在となっている。
⑤ 筆者らは、GS145カ国を、「米国主導の軍事ブロック」が脅威と見なす順に6つにグループ分けする。(上図2つと左枠)
(続く)
