
本年は中国人民抗日戦争ならびに反ファシズム戦争勝利80周年であり、中国本土では抗日テーマの映画作品がいくつか公開されている。特に『南京照相馆』(吉祥写真館、「完全な証拠を掴んで」「動かぬ証拠を持って」)は国内外で多くの話題を呼び、東南アジア、欧米など各地で公開されている。しかし日本では一般公開されることはない。ネット配信を待ちきれず、香港の劇場へ友人と足を運んだ。
南京の郵便配達員の阿昌(苏柳昌)は日本軍の攻撃から逃れていたところ、従軍カメラマンとして派遣された伊藤秀夫(フィクションだが、元となる人物は存在する)と出会い、伊藤から写真の現像を依頼される。日本軍の通訳王广海とともに南京にある〝吉祥写真館〟へ連れていかれ、その際、棚に身を隠していた写真館のオーナー金承宗から現像の技術を学び、黙々と伊藤が撮影したフィルムを現像してく。そこには南京の人々が日本軍により虐殺や強かんを受ける瞬間等が撮影されており、手をとめてしまう。このまま日本軍の言うとおりに現像を続ければ売国奴(裏切り者、汉奸)になる、現像をやめれば今度は自分たちが写真に写る人々と同じ目に遭うと苦悩するが、後にこの日本軍による虐殺の惨状、暴虐を写したネガを、日本軍のために演技をする女優・林毓秀が、証拠として安全区にいる外国人記者へ託し、最後は世に知られることとなる。
伊藤は一見真面目な好青年で日本軍の〝勇姿〟を次々とカメラに収めていくが、次第に軍国主義思想に感化され、やがて他の日本兵と変わらず戦争への熱狂的な参加者へと変貌を遂げる。
本作は、南京大虐殺の真っ只中、華東写真館の見習い羅金とその同級生呉旋が「京字第一号証拠」※を守った実話を基に、一般市民が命がけで日本軍虐殺の罪証となるネガフィルムを保存した物語に焦点を当てている。
※「京字第一号証拠」とは、羅金が証拠保全のため写真を秘密裏に現像し、その中から16枚を選びアルバムを作成したもの。のちにこのアルバムは「南京裁判」で、大虐殺の主犯であり元日本軍第六師団司令官であった谷久雄を有罪にする「証拠」に指定され、1947年4月26日、南京の雨花台に連行され、銃殺刑に処される。
松井石根、谷寿夫、百人斬りの向井敏明・野田毅、強かん、大虐殺、暴行、放火、盗品、収奪、ぼろぼろに崩された城壁など、余すことなくかなりリアルに描写され、南京大虐殺記念館の展示がそのまま映像化された感じで、残虐なシーンもほぼ隠すことなく描かれている。
現像液がフィルムに流れ込むと、赤い光の中に残虐な行為のシーンが浮かび上がる、暗室は戦場、カメラは武器である。「私の姓は蘇、名前は六昌。南京郵便局一区二組、番号1213の郵便配達員です」、この「1213」という数字は1937年12月13日、日本軍が南京を占領した日。毎年この日は南京大虐殺犠牲者追悼記念日であり、映画の中で苏柳昌はフィルムを届けるために命を捧げ、「1213」という郵便配達員の使命を果たす。そして南京城壁の過去と現在を比較することで映画は終わる。このように作中は南京事件に関するさまざまな暗示にあふれており、何度観ても考えさせられると思う。
2025年9月23日現在、累計興行収入は30億人民元を突破し、上映期間は10月24日まで2度目の延長が決まっている。また、第20回中国長春映画祭で最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞の3部門を受賞、第98回アカデミー賞国際映画賞において中国本土代表となっている。
観客は若い世代が多い印象だった。南京照相馆の上映開始後、南京大虐殺記念館に特に若い世代の入場者が増えているという報道もあり、低学年からの歴史・平和教育に力を入れているだけのことはある。南京照相馆のような抗日・反戦映画は初めてで衝撃を受けた。私は今回初めて加害国の人として、侵略された側の作品を観たが、日本軍国主義の横暴は非常に許しがたく、ましてその歴史事実をなかったことにしようと、歪曲する風潮に毅然と抗いたいと心から思った。
(KN)