高市政権が今国会に提出した「国家情報会議及び国家情報局設置法案」は、単なる行政組織の改編ではない。それは、対外情報機関の創設や「外国代理人登録法」の導入、そして「スパイ防止法」の策定を射程に入れた、戦争遂行のための国家体制と治安弾圧体制を一体化させる極めて危険な目論見である。本法案は、日本国憲法が掲げる国民主権、平和主義、基本的人権の尊重を根底から覆す現代版「治安維持法」への道を切り開くものと言わざるを得ない。
組織改編の本質とインテリジェンス機能の巨大化
4月2日、政府が3月13日に国会に上程した内閣情報調査室(内調)を「国家情報局」へ格上げし、各省庁の情報提供を義務付ける「総合調整権」を付与する法案が審議入りした。7月の創設を目指すこの新組織は、首相を議長とする「国家情報会議」の事務局を担い、国家安全保障局(NSS)と同格の司令塔として位置付けられる。
この組織改編の真の狙いは、自民・維新の連立政権合意に明記された「2027年度内の対外情報庁(対外情報機関)創設」への布石である。米国CIAのような80万人規模の巨大組織をモデルとした情報機関の設置は、軍事、外交に加え、国内治安組織の権限を飛躍的に拡大させることを意味する。政府はこれを「省庁別縦割り」の不合理解消などと説明するが、実際には官邸主導で情報を恣意的に集約・操作できる体制の確立が真の目的である。
治安弾圧の連鎖と「外国代理人登録法」の罠
さらに問題なのは、国家情報局の創設が、「スパイ防止法」や「外国代理人登録法」、「対外情報庁」の設置と不可分の関係にある点だ。これらの法制は、国内で活動する個人や団体に対し、外国との関わりを報告することを義務付け、違反者を「スパイ」として重罰に処するものである。この内偵調査は、警察のみならず、新たに創設される国家情報局や対外情報庁の要員(エージェント)によって行われる。
政府の戦争政策に反対する言論活動や市民運動、報道、労働運動も、「国益に反する宣伝」や「影響工作」と見なされれば、未登録の「代理人」=「スパイ」として監視・拘束の対象となる。このような法律の存在そのものが表現の自由を萎縮させ、民主主義の土台を内側から腐らせる「法の暴力」である。
歴史的連続性 消えぬ「国体」と「治安維持法」の影
「スパイ防止法」に、戦前の治安維持法における「国体」概念の不可侵性が形を変えて継承されている。かつて「思想犯」として全人格を否定し、社会運動を封殺した論理は、今も「ちゃんとした日本人(左翼ではない、伝統を引き継ぐ日本人)」の育成(伊藤隆東京大学名誉教授)という右翼的教育プロパガンダと結びついている。
1930年代、戦争遂行に抵抗する者、邪魔になる者が「非国民」として排除された。現在進められている「防衛省設置法」等の改正による軍事機密の拡大と、本法案による情報統制の強化は、まさに戦前の「軍機保護法」と「治安維持法」の連動関係とそっくりである。
欠如するチェック機能と人権侵害の懸念
政府は外国のスパイ活動が具体的にどう国益を損ねているのか、立法事実を十分に説明していない。特定秘密保護法制定以降、起訴案件がないにもかかわらずさらなる強化を急ぐのは、国民監視の強化こそが主眼であるからに他ならない。
政府は「監視強化の指摘は当たらない」と繰り返すが、その根拠は法案のどこにもない。今法案には、情報活動を監視する独立した第三者機関によるチェック機能や、事後の記録保全・情報公開の体制が初めから欠落している。警察庁による過去の盗聴事件に見られるように、情報機関による不正活動の懸念は拭えないどころか、不正捜査や人権侵害が大手を振ってまかり通る体制がつくられかねないのである。
平和と人権を対置して闘おう
研究者や弁護士ら122人の「情報統制・国民監視法制に反対する有志」による同法案反対署名が取り組まれている。4月17日19時から衆院議員会館前ペンライト行動、27日12時から院内集会、SNS等を駆使した反対世論の拡大が呼びかけられている。
「戦争準備・武器生産・治安弾圧」で突き進む自維政権に対し、「平和友好・貧困撲滅・人権尊重」を対置しなければならない。「教え子を再び戦場に送るな」という誓いを、単なるスローガンではなく、実体的な治安弾圧法阻止のうねりへと変える時である。
国家情報局の設置は、物言えぬ社会、戦争を支える「ちゃんとした日本人」の量産への第一歩である。この危険極まりない法案を廃案に追い込み、日本国憲法の平和主義と基本的人権を死守することが、今を生きる我々の最大の責務である。
(HI)
