ガザの新しい植民地支配=トランプ「和平計画」
11月17日、国連安全保障理事会は、米トランプ政権が主導するガザの「和平計画」を支持する決議2803を採択した。棄権した中国、ロシアを除く安保理理事国が決議に賛成した。安保理は停戦後の暫定的な統治を監督する「平和評議会」、停戦や治安の維持を担う「国際安定化部隊(ISF)」についても設立を承認した。ISFがガザの「非軍事化」とハマスの武装解除を担う。
トランプの「和平計画」は、パレスチナ国家の樹立を阻止するものだ。ハマスを武装解除して抵抗力を奪い、米国を中心とする帝国主義がガザを統治して改めて植民地化するものだ。イスラエルに代わり米英主導の「平和評議会」が統治する。多国籍のISFが抵抗勢力の武装解除と治安維持を行う。この下にパレスチナ人の実務委員会とパレスチナ警察がおかれ、米英の指揮下でパレスチナ人を抑え込む。トランプを先頭に米英が復興利権を貪り食おうというのだ。
安保理決議に対し、ハマスが声明で、「イスラエルという占領軍がパレスチナ人に対して行っている絶滅戦争への国際協力の一形態に過ぎない」と批判し、「ISFに武装解除を含む任務と役割を与えることは、その中立性を奪い、占領に賛成する紛争当事者へと変貌させるものである」と、明確に拒否したのは当然だ。ハマスだけでなく全抵抗勢力とガザ住民が拒否した。
もちろん、この「和平計画」自体、極めて現実性が薄く脆弱だ。今のところISFへの参加を決定した国はない。エジプトは、「平和評議会」がハマスの武装解除のために武力行使を命じる可能性があるとして、参加を見送った。他方、イスラエルはISFに参加する国の選別を要求している。
停戦の第2段階について、トランプは「和平計画」に沿って進めようとしている。しかし、新しい植民地計画など受け入れられるはずもない。ハマスが、武装解除と外国軍の支配を拒否し続ければ、トランプがさじを投げ、イスラエルの攻撃再開を容認する可能性も高い。
真の和平のためには、完全停戦とイスラエル軍のガザ全域からの撤退、包囲の解除と必要な援助物資すべての搬入を保障するものでなければならない。そしてパレスチナの民族自決=「パレスチナのことはパレスチナ人が決める」の下で生活再建、パレスチナ国家の樹立につながるものでなければならない。
イスラエル軍はイエローラインから撤退せよ
一方、イスラエルは第2段階に進む気はなく戦争再開、ガザ再占領が基本方針だ。トランプが容認しない場合にそなえ、現在の停戦ライン(イエローライン)からイスラエル側の地域(ガザの面積の6割)の併合を狙っている。
ガザの停戦発効から2カ月が経過した。ハマスは、停戦条件を誠実に履行し、捕虜全員を解放し、捕虜の遺体も残り一人だ。これに対しイスラエルは、この間に530回以上の停戦破りを行い、連日のように住民の殺害を続け、その数は350人以上、負傷者は900人以上に上る。2023年10月からの死者は7万人、負傷者は17万人を超えた。
イスラエルが攻撃を繰り返すのは、イエローラインより外側の地区からパレスチナ人を追い出し、更地にしてイスラエルに併合し、ユダヤ人を再入植させるためだ。そのためにイエローラインの外側で地下トンネル内に取り残されて孤立するハマス戦闘員をせん滅するために攻撃を繰返している。そして戦闘員たちが反撃すれば、それを口実にガザ全体で攻撃と虐殺を行い、米国が戦争再開を容認するか反応を見ているのだ。イスラエル軍は11月30日までの1週間に南部ラファのトンネルで40人以上を殺害した。ハマスは戦闘員の解放を求めているが、イスラエルは認めずせん滅作戦を続けている。
イスラエルのイエローラインでの攻撃と併合の野望が停戦と戦争終了の一番の障害だ。ガザはパレスチナ人のものだ。イスラエルはガザ全域から撤退しなければならない。
人道支援物資を搬入せよ、人命を守れ
イスラエルは停戦を利用して「静かなジェノサイド」を続けている。我々はこれを断固糾弾する。今まず重要なことは、イスラエルに停戦を守らせ、十分な食料や医薬品などの物資を搬入させることである。
イスラエルは停戦中もガザへの物資搬入を制限し続け、搬入された食料は目標の半分、約2万トンにとどまる。子どもらの栄養失調が続いている。ユニセフなどによる10月の調査では、5歳未満の急性栄養不良児が約9300人確認された。8月・9月よりは減ったものの、前回の停戦期間中の2月の約5倍である。薬剤の不足も続いている。国連人道問題調整事務所(OCHA)は、停戦発効以降も点滴、麻酔薬、ガーゼ、慢性疾患のための薬剤など、医療関係物資の不足が深刻で、これらのガザへの搬入をイスラエルは阻止し続けていると報告した。
ガザでは11月後半には複数回大雨が降った。排水もままならず、洪水が度々発生する。テントは水浸しとなり、わずかな生活用品や衣服、マットレスなども水につかる。衛生状態は一層悪化し、低体温症の危険は高まり、ただでさえひどい生活に耐えている住民を、さらに苦しめている。
住民にとっては、ガザで生活することそのものが闘いとなっている。乏しい物資をかきあつめて分け合いながら、工夫を凝らし、停戦が束の間に終わるかもしれなくても、一歩ずつ生活再建を進めている。国連パレスチナ難民救済機関(UNRWA)が運営する一部の小学校で授業が再開された。校舎も校庭も避難民の住居だが、2年間放棄されていた教室に子どもたちが戻ってきた。イスラム大学も授業を再開した。
西岸における入植者の襲撃、オリーブ畑破壊をやめろ
ヨルダン川西岸でも、パレスチナ人の町や村へのイスラエル人不法入植者の襲撃が相次いでいる。西岸には、イスラエルの人口の10%にあたる70万人の入植者がいる。松明を持ち、ライフルや棍棒で武装した暴徒が、村人を殴打し、家屋を襲撃し、井戸を埋め、家畜を殺し、オリーブ畑を焼き払い、農民を土地から追い出している。イスラエル軍は、暴徒を守るだけでなく、パレスチナ人がオリーブ収穫のために農園に入ることも阻止している。イスラエルは西岸でもパレスチナ人を狭小な地域に追い込み「ミニガザ」状態を作り、土地と生業を奪おうとしている。
オリーブはパレスチナ人にとって、民族的シンボルであると同時に生活の糧だ。何世紀にもわたり、食料、化粧品、石鹸、薬の原料や、燃料、建築用資材として利用されてきた。それが狙われている。23年10月以降、西岸で入植者らの襲撃や妨害が激増し、1200人以上が殺害された。23年のオリーブの収穫はほぼゼロ、25年は22年以前の3割弱に落ち込んでいる。
11月26日、イスラエル軍はヨルダン川西岸北部で新たな大規模軍事作戦を開始すると発表した。西岸でのイスラエル軍と入植者による暴力の激化は、住民の怒りをかきたて、ガザの闘いとも結びついて、パレスチナ人全体の闘いをもたらすに違いない。
世界の運動とともに、日本政府・企業にイスラエルと手を切らせよう
停戦継続から恒久停戦、イスラエル軍撤退、民族自決に基づくパレスチナ国家建設に進むには、国際的圧力でイスラエルと米国を包囲するしかない。世界の運動は、自国政府にイスラエルと手を切るよう求めている。
11月29日は「パレスチナ人民国際連帯デー」であった。イタリアでは、ジェノサイドへの帝国主義の加担を批判したアルバネーゼ国連特別報告者と、グレタ・トゥーンベリさんらガザに向かったグローバル・スムード船団のメンバーも参加して、10万人規模のデモがローマで行われた。英国のロンドンでは、雨の中10万人がデモに参加し、政府によるイスラエルへの武器売却の継続を批判した。スペインでは、マドリードやバルセロナなど40以上の都市でデモが行われ、市民社会団体による共同声明は、欧州諸国に対し、イスラエルとの断交と国際裁判所を通じた法的措置を支持するよう求めた。フランスのパリ、ドイツのベルリン、スイスのジュネーブ、ポルトガルのリスボンなど、他の欧州各地でもデモが行われた。米国では、ニューヨークに数百人が集まり、イスラエルへの米国による財政・軍事援助の停止、イスラエルの軍事作戦に関係する企業からの投資撤退を要求した。南アフリカのケープタウンでは、数百人が人間の鎖を作り、イスラエルに対する包括的なボイコット、投資撤退、制裁措置、同国への石炭と武器の輸出の停止、在南アのイスラエル大使館閉鎖などを要求した。
日本のパレスチナ連帯運動は、欧州に比べてはるかに規模が小さいが、政党や労働組合がほとんど取り組まない中、市民の力によって粘り強く継続されている。11月29~30日にも、東京・大阪・名古屋などで、デモや集会が行われた。高市政権と日本企業に、イスラエルと手を切るよう要求する運動を続けよう。
防衛省は、イスラエルの軍需企業IAI製やエルビット・システムズ製の軍事用ドローンを、今年度取得機種の選定の有力候補に入れている。イスラエル製の採用を阻止することが当面の重要課題となる。一方、愛知県は、22年度から実施してきたイスラエルのスタートアップ企業と県内企業とのビジネスマッチング事業を年内で終了すると発表した。イスラエルとの協力を止めるよう訴える声に押された結果だ。ボイコット運動を進めて、成果を積み重ね、イスラエルに圧力をかけよう。
2025年12月8日
『コミュニスト・デモクラット』編集局
