上海協力機構首脳会議
広範な多国間協力で「西側世界秩序」からの脱却へ

平等・互恵の「上海精神」で、西側世界秩序と全く違う選択肢を提示

 8月31日から中国の天津で、上海協力機構(SCO)首脳会議が開催された。2日間の会合には加盟国をはじめ20人以上の外国首脳が参加し、国連事務総長など10人の国際機関のトップが参加した。SCO創設以来最大の会合となった。「相互信頼、互恵、平等、協議、多様な文明の尊重、共同発展」を柱とする「上海精神」を掲げた。今回のSCO首脳会議、引き続いて北京で行われた9月3日の中国人民抗日戦争勝利・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会への各国代表団・国際機関首脳の参加、そして8日に行われたBRICSオンライン首脳会議という一連の国際イベントは、中国とそれが先導するグローバルサウスの台頭を見せつけ、米帝国主義が主導する「西側世界秩序」、戦争と殺戮、収奪と支配、環境破壊と地球温暖化放置とは全く違う価値観を持つ世界像を提示した。

 会議の最後に採択された「天津宣言」は、(1)多国間主義尊重の基本原則、(2)地域安全保障、(3)経済協力、(4)文化交流、(5)国際機関との協力の5項目を確認し方針を打ち出した。今後10年間のそれぞれの経済の持続可能な発展を促進するための計画である「SCO行動」と「SCOプログラム」を発表した。それは、地域の平和、安全、安定を維持・確保するために、政治、貿易、経済、研究、技術、文化、教育、エネルギー、運輸、観光、環境保護など広範な分野での効果的な協力を促している。

 「第二次世界大戦勝利と国連創設80周年に関する声明」は、ファシズムと軍国主義打倒の世界史的意義を確認した。それは過去の反ファシズム闘争の役割だけでなく、今も続く帝国主義戦争に対して警告を発し、平和の維持にとっての国連憲章の目的、原則、国際法を遵守することの意義を強調するものとなった。国連が、途上国の代表を確保することなどを通じて、真の国際平和のための組織へと改革をする必要を訴えた。
  
国土面積、人口、GDPで圧倒する世界最大の地域協力組織
  
 SCOは加盟国10、オブザーバー国2、加えて対話パートナー14で、アジア・東南アジア・中東を含み、ユーラシア大陸の国土面積の80%、世界の人口の40%、そして世界のGDPのほぼ4分の1をカバーする、世界最大の地域協力組織となった。ASEAN諸国の一部も参加する。対話パートナー国としてクウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦が加わり、23年にイランが正式加盟したことで、世界の石油埋蔵量の20%と天然ガス埋蔵量の44%を掌握する。もともと中央アジアの地域安全保障の協力機構であったSCOは、経済協力、文化交流などを含む包括的な地域組織へと発展した。


 地図を見れば、ユーラシア大陸に、中国を中心とした巨大な地域国家群が出現し、日欧帝国主義が辺境に追いやられていることがわかる。中国とインド、中東を拠点に大文明が発達した数千年前の姿がよみがえり、「西洋中心主義」からの脱却が地殻変動のように進んでいることが見て取れる。加盟国は、「大ユーラシアパートナーシップ」を確立するイニシアチブに留意し、SCO、ユーラシア経済連合、ASEAN、その他の関連国および多国間メカニズム間の対話を促進する用意があることを表明した。

※SCO加盟国:中国、ロシア、インド、パキスタン、イラン、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、ベラルーシ。オブザーバー国:アフガニスタン、モンゴル。
対話パートナー国:アルメニア、アゼルバイジャン、バーレーン、カンボジア、エジプト、クウェート、モルディブ、ミャンマー、ネパール、カタール、サウジアラビア、スリランカ、トルコ、アラブ首長国連邦。

「天津宣言」では、オブザーバー国と対話パートナー国をSCOに統合して加盟国は26か国となり、新たにラオスがパートナー国に加わったとしている。
  
戦争、紛争の原因を対話で封じ込める努力
  
 まず重要なのは、米・NATOと全く違う原則を掲げて「地域安全保障」を進めてきていることだ。平和と安定こそが、社会生活・経済発展の前提となる。先のNATO首脳会議は、各国が軍事費対GDP費5%を負担することで合意し、中国とロシアを敵視して、核を含む軍事力の増強によって対抗することを決定した。だがSCOは多国間協力によって危機を封じ込め地域の安定を築くことを宣言した。地域の不安定化と戦争の危険の原因を「3つの勢力」(テロリズム、分離主義、過激主義)とし、軍事的対抗手段や力による強制ではなく、テロ組織や過激派の温床と資金源を断って封じ込め、対話で解決することを強調した。

 国境紛争を抱える中国とインド、同じくインドとパキスタン、政治的立場が違うイランとエジプト、クウェート、サウジ、アラブ首長国連邦、これら全体が地域安全保障を作り出してきている。会議では、中国とインドの首脳が7年ぶりに会談を開いた。さらにパキスタンとインドの両国首脳が顔を合わせた。「テロ事件」をきっかけに起こった両国の武力衝突を正面から見据え、犠牲者を追悼した。地域内の紛争は地域内で解決することを基本に、外からの介入を拒否し、最小限の被害と影響に食い止めようとしている。

 会議は、現に起こっている戦争を厳しく非難した。イスラエルがもたらしているガザでの人道的災害、イスラエルと米国によるイラン攻撃を厳しく批判した。名指しは避けたものの米国を念頭において、核軍拡、ミサイル防衛システムと宇宙軍拡、化学兵器、生物兵器の開発を厳しく批判した。

SCO開発銀行の設立で、ドル支配からの脱却を目指す
  
 「天津宣言」は、プログラムの目玉として、SCO開発銀行の創設を打ち出した。この地域での脱ドル化とドル決済からの離脱を本格的に進めるものだ。西側メディアはとりわけ危機感を示した。

 中国は15年に人民元の決済ネットワーク「CIPS」を立ち上げた。ウクライナ戦争の勃発と米による対ロシア制裁は、ロシアのドル決済回避を加速させた。すでにロシアと中国の間の決済は、ほとんど自国通貨に移行している。22年SCO首脳会議での自国通貨利用拡大の合意以降、人民元のプレゼンスが拡大している。中国・ASEAN間の貿易・資金決済も人民元建て傾向にある。為替変動の影響を受けず、またドル金融制裁の危険を回避するため、ドル決済からの脱却が着実に進行している。SCO開発銀行は、非ドル建て融資を拡大し、「一帯一路」の共同建設、エネルギー、インフラ、デジタル、多角的貿易体制構築のためにも不可欠だ。

 一方、SCO開発銀行の設立と融資は、中国がリスクを一手に引き受けることから解放される。これまで中国は、IMFや世銀による高利貸し付けにかわる低利の融資を提供することで途上国の負担を減らす援助をしてきたが、債務が焦げ付いた場合には単独で負担を背負わざるを得なかった。債務危機の結果港湾や空港などのインフラの維持を現地政府にかわって中国が代行することに対して、「債務の罠」、インフラを奪い取ったなどと、いわれのない非難をされてきた。中国はこのような事態を避けるためにも、SCO開発銀行を設立し、SCO全体で資金を融資し、安定的で持続的な資金調達と融資を継続できるシステムを構築しようとしているのだ。金融・投資・交通・エネルギー・農業など戦略的分野におけるSCO加盟国の協力の拡大・深化を、資金面で長期的かつ安定的に支え、地域経済の持続可能な成長を促進しようとしている。

「グローバル・ガバナンス・イニシアチブ」を提案し、諸問題解決への決意を示す
  
 習近平総書記は演説で、「冷戦思考、陣営対立、いじめ行為に反対する」と述べ、新たな「グローバルガバナンスイニシアチブ」を提案した。それは①主権平等、②国際社会での法治順守、③多国間主義の実践、④人間本位の提唱、⑤行動指向の重視という5原則からなる。戦争やさまざまな紛争、テロの発生、難民危機、国境を越えた犯罪、重大感染症、環境破壊など、これまでは、何もできずに放置するか、圧倒的な力を持つ帝国主義の利益にゆだねるしかなかった諸問題について、積極的に関与し、指導力、統治力を発揮し解決していこうというものだ。それは帝国主義の収奪と枠圧に基づくガバナンスの対極にある。

 SCO諸国へのかかわりでは、習近平氏は、自立的で持続可能な社会形成に向けた支援を強調した。課題を抱える加盟国への「100の『小さいながらも美しい』生計プロジェクト」とは、大規模インフラよりも教育や技術支援、職業支援、人材育成などの「ソフト面」に力を入れたプロジェクトだ。そのために今年中に加盟国に20億元の無料支援の提供と、今後3年間で加盟銀行への100億元の追加融資を行う。さらに中国はSCO加盟国との間で、エネルギー、グリーン産業、デジタル経済構築の3分野における協力のプラットフォームを設立する。中国国内での貧困対策や環境保全、太陽光や風力発電など再生可能エネルギー普及などでのノウハウを加盟国に積極的に供与する取り組みだ。

 SCOの拡大と結束、その存在感の高まりは、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ政権の誕生と政策が大きなきっかけになっている。西側メディアもそれを認めざるを得ない。ロシア産原油の輸入を根拠に米が50%の制裁関税をかけたインドをはじめ、イランや王政湾岸産油国などがSCOへ引き寄せられていることが象徴的だ。今回のSCO会議と「天津宣言」は、7月に行われた拡大BRICSサミットに続き、大きな歴史的転換点を示した。中国とSCOは、一方では帝国主義の戦争と植民地支配、搾取と収奪、環境破壊等を糾弾しながら、他方では自らの手で、帝国主義の介入を排除した独自の経済・金融システム、地域安全保障、多国間主義等を形成する段階に入っているのである。


(N)

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