コロンビアのペトロ大統領は、6月8日、イスラエルへの石炭輸出停止を決めた。同国はイスラエルの爆撃が始まった直後から虐殺を糾弾し、昨年10月に駐イスラエル大使を召喚。今年2月下旬には、イスラエルからの武器購入の停止を発表した。グスタボ・ペトロ大統領は、イスラエル軍をナチスになぞらえて、民族浄化を痛烈に批判し、今年5月1日には、メーデー集会の場で、イスラエルを「ジェノサイド政府」と糾弾し、国交断絶を表明した。さらに、パレスチナ国家の正統性と主権を認めるための行動として、ヨルダン川西岸のラマッラー市に大使館を開設する決定を下した。
コロンビアだけではない。一部を除いて、ラ米カリブの多くの国々がイスラエルを非難している。昨年12月12日、国連総会はガザの停戦を決議した。ラ米カリブでは、グアテマラとパラグアイだけが「反対」に票を投じて米国とイスラエルに加わった。ウルグアイ、アルゼンチン、パナマは棄権した。それ以外は、決議案を支持する153カ国という世界の圧倒的多数の側に立った。ラ米カリブは33ヵ国だから28ヵ国が賛成したことになる。
いったい、なぜなのか? そこには、日本を含む西側メディアが語らない、しかし現地の誰もが経験してきたし歴史的事実でもある米帝とイスラエルの帝国主義のやりたい放題、侵略と虐殺、略奪と支配、クーデターや政権転覆の、一言で言い尽くせない過酷で残忍な歴史がある。
(K/Y)
「ラテンアメリカのイスラエル」
米帝国主義の代理人コロンビア
米国は、中東ではイスラエルを「代理人」として、石油支配、中東の軍事覇権の手先としてきたように、ラ米カリブ地域では、コロンビアを使って、資源や市場、軍事覇権を維持してきた。だから故ウゴ・チャベス大統領は、コロンビアを「ラテンアメリカのイスラエル」と呼んだ。しかも、左翼からのこの非難の言葉を「誇りに思う」と歴代コロンビア大統領は公然と米-イスラエル-コロンビア枢軸を誇示してきた。コロンビア軍と暗殺部隊は、長い間シオニスト国家と密接に絡み合っていた。残虐なことで有名なコロンビア自衛軍(AUC)は、最盛期には1~2万人の戦闘員を擁し、南米最大の準軍事組織のひとつだった。AUCは、左翼農民運動や労働者組織を弾圧し虐殺する汚れ仕事をするために、コロンビアの正規軍の手下として動いた。AUCの「死の部隊」はイスラエルの工作員によって徹底的に訓練された。
コロンビアの労働者・人民は、2022年8月に現在のペトロ大統領が就任するまで、長きにわたり米・イスラエルが関与した血塗られた内戦の歴史に苦しめられてきた。米・イスラエルには、この地域を支配するためにコロンビアを外資=オリガーキーや軍や暗殺部隊に支配させる必要があったのだ。コロンビアを周辺への介入の拠点とするには、まず国内の反対や異論を封じ込める必要があったからである。
ペトロ大統領は、この血塗られた歴史に直接言及している。「ヤイル・クラインもラフィー・エイタンも、コロンビアの平和の歴史を語ることはできないだろう。彼らはコロンビアで大虐殺とジェノサイドを解き放った」。「いつの日か、イスラエルの軍隊と政府は、彼らの部下が私たちの土地で行ったこと、大量虐殺を解き放ったことについて、私たちに許しを請うだろう。私は彼らを抱きしめ、彼らはアウシュビッツとガザの殺戮のために、そしてコロンビアのアウシュビッツのために泣くだろう」と。
ラフィー・エイタンは、モサドのベテランエージェントで、コロンビアの大統領安全保障顧問となり、左翼勢力虐殺作戦を直接指揮し、イスラエルの武器をコロンビアへ売却する仲介者であった。ヤイル・クラインは、退役軍人のイスラエル人傭兵で元イスラエル警察と特殊作戦部隊から要員を集めて傭兵会社を立ち上げコロンビアの「死の部隊」を訓練した。
米州人権裁判所は、2023年1月、次のような結論を出した。1980年代以降、左翼政党「愛国同盟」(UP)の社会運動指導者、政治家、活動家、6000人以上を、殺人、失踪、拷問、強制退去、その他の人権侵害により「絶滅」させた責任がコロンビア国家にある、と。この「絶滅」作戦は、2000年以降、表向きは麻薬撲滅、実際は左翼武装勢力壊滅計画(プラン・コロンビア)として、継続され、しかも米・イスラエルの軍・諜報機関を通じて、対左翼勢力壊滅モデルとして世界中に売り込まれた。
ペトロ大統領は、元武装組織「4月19日運動(M19)」から中道左派の政治家に転身した政治家で、コロンビア史上初の港湾労働者出身の大統領である。米・イスラエルによるコロンビアとラ米カリブでの虐殺と血塗られた歴史を身を持って体験したのである。ネタニヤフの大量虐殺に怒りを爆発させたのも当然だろう。
米・イスラエルはラ米カリブでも共謀・共犯関係にある
サンディニスタ革命前のニカラグアも、コロンビアと同様、米国の支援を受けた残忍なソモサ独裁政権の下で、長い期間、イスラエルと密接な関係を持っていた。独裁政権末期、ソモサ軍による残虐行為に対する国民の反発を受け、米国は武器供給を打ち切ったが、イスラエルは、臆することなくソモサ軍に軍備を供給し続けた。米国がイスラエルに汚れ役をさせたのである。その後、サンディニスタ民族解放戦線がソモサ独裁を打倒して以降、再び米・イスラエルはニカラグアに介入した。現在、ニカラグア政権が米・イスラエル批判の急先鋒になっているのは当然のことだ。ニカラグアは3月、ドイツを国際司法裁判所(ICJ)に提訴し、イスラエルへの政治的財政的・軍事的支援の停止、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への資金拠出停止の撤回を求めた。
イスラエルは、何十年もの間ワシントンの手先として血塗られた「死の部隊」を訓練し、この地域全体に抑圧的な軍隊を供給してきた。コロンビアとニカラグアに加え、アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、コスタリカ、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、グアテマラ、ハイチ、ホンジュラス、パナマ、パラグアイ、ペルー、ベネズエラの軍隊を訓練し、供給し、助言してきた。
29年間続いたハイチのデュバリエ独裁とも同様の関係にあり、独裁者の弾圧勢力に武器を売っていた。パラグアイのストロエスナーによる35年間の独裁政権、チリのピノチェトによる17年間の独裁政権、アルゼンチンとブラジルの軍事独裁政権も同様だ。また、イスラエルはグアテマラとエルサルバドルの「汚い戦争」において、武器の供給者であり、「死の部隊」の訓練者でもあった。これらすべての悲惨な事業において、テルアビブはワシントンと手を結んでいた。
ラ米カリブでは、「イスラエル・コネクション」は、極右ファシスト、反共主義の象徴だ。その典型が、昨年12月にアルゼンチンの大統領に就任した極右のハビエル・ミレイである。彼は、アルゼンチンを米・イスラエルと結びつけ、最大の貿易相手国であるブラジルと中国から引き離すことを公約に掲げて選挙で勝利した。その後初の海外旅行で、ミレイは米国に行き、超正統派ユダヤ教ラビの墓を巡礼し、カトリックからユダヤ教に改宗する意向を表明した。現在失脚し亡命中のフアン・グアイドは、2019年にトランプの後押しでベネズエラの「暫定大統領」に据えられたとき、カラカスの街角でイスラエルの国旗を掲げた。赤旗が共産主義の旗印として採用されたように、イスラエルの国旗は極右の記章であった。
地域全体に広がるパレスチナ連帯
なぜラ米カリブの多くの国々はパレスチナ連帯を表明し、イスラエルのジェノサイドを非難しているのか? 背景には、米・イスラエル帝国主義のこの地域全域での軍事覇権の残忍な歴史があり、この地域での民族自決、民族解放、主権を目指す命がけの闘いが、パレスチナ人民の命がけの闘いと共鳴するからである。
社会主義キューバは1973年に、社会主義指向ベネズエラは2009年に、イスラエルと断交している。チリのガブリエル・ボリッチ大統領は、イスラエルによるガザのパレスチナ人への攻撃を糾弾した。中東以外では、最も多くのパレスチナ人がチリに住んでいる。ベリーズとペルーも同様に、イスラエルの糾弾に加わった。ボリビアはイスラエルと国交を断絶し、ホンジュラスとコロンビアは大使を召還した。パナマを除けば、この地域のほぼすべての国がパレスチナを承認している。ブラジル、コロンビア、ボリビア、チリ、ベネズエラは、ガザに援助を送っている。ベネズエラのサミュエル・モンカダ国連大使は、昨年11月に国連総会で次のように演説した。「アメリカ合衆国政府とその衛星諸国(イスラエル)が、正当化できないことを正当化しようとしているのを見ると、反吐が出る」と。
イスラエルの大虐殺戦争における米・イスラエルの共謀・共犯関係を糾弾すると同時に、ラ米カリブでの帝国主義的共謀・共犯関係も暴露していこう。